映像作品について語る連載の第31回。
2025年9月に今年で第30回目となる釜山国際映画祭が開催され、白石監督は会期中に行われた「Asian Project Market」という企画マーケットに参加。世界中の長編映画企画の中から選ばれた約30企画のプロデューサーと監督が出資者や映画祭関係者に向けてアピールするための場であり、今回は白石監督の進めていた企画がその内の一つに選出された形となった。
「日中はミーティングを行いながら、UTA(所属エージェンシー)のパーティーや企画マーケットのレセプションなどにも顔を出して、いろいろな映画関係者と話しました」
釜山には9月19日から24日まで滞在したが、実はそのすぐ後に新作映画の撮影が控えていた。新作は白石監督にとって新しい試みとなる上に、撮影のほとんどを日本国外で行うことになる。
「どうしてもキャストの衣装合わせをしなければならなくて、本当は25日に現地入りしてくださいとみんなに言われていたんです。ただ、釜山からそのまま現地へ直行するのはさすがに厳しい。なんとか1日だけ予定をずらしてもらい、24日に一度日本に戻ってきて、洗濯をしたり、荷物をまとめたりして、26日に現地入りしました」
本気で頭を抱えていた。
新作の撮影はおよそ3ヵ月間。10月頭にクランクインし、12月末まで行われる予定だ。日本国外の撮影だけあり、入念な準備が何よりも欠かせなかった。
「クランクイン前からテストや確認作業など、やることがてんこ盛りだったので、めちゃくちゃ大変でした。これまでに何度も打ち合わせをしたんですけど、“これ、どうやってやるんだろう”と、スタッフのみんなも本気で頭を抱えていて。日本とは法律も異なりますから、本来そこまで難しくないシーンでも許可取りや申請が必要で、難易度がぐっと上がってしまうんです。でも、日本と勝手が違うからといって、そうしたことを無視して進めてしまうと、別のチームがその国で撮影するときに迷惑がかかってしまう。僕らだけの問題じゃないので、やれる範囲の中でやるしかないなと」
さらに、白石監督は撮影の合間を縫って、自主映画の編集や別の映画のプロット作成などを行う予定だという。
常に多忙を極める白石監督だが、映画に関する仕事であれば、基本的には引き受けることにしている。最近は、他の映画の推薦コメントを求められることも多い。
「コメントはかなりの数を書いていると思いますよ。これまでに100本以上は書いているんじゃないですかね。いつの間にか、業界内で僕のメールアドレスが出回っているらしくて、全然知らない映画宣伝会社の方から“初めてメールさせていただきます”と、コメントを依頼するメールが来るんです(笑)。これまで、僕も他の監督にコメントを書いてもらうことがあったので、恩返しの気持ちもありますし、特に新人監督の作品であれば応援したいという思いも強いので、できるだけ受けるようにしています」
谷口慈彦監督の初監督作品『嬉々な生活』も、白石監督がエールを送る作品の一つ。本作は、昨年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024にて審査員特別賞とSKIPシティアワードをW受賞した話題作で、白石監督も推薦コメントを寄せている。
「『嬉々な生活』は僕が2024年にSKIPシティ国際Dシネマ映画祭の審査員を務めたときの作品で、今回、改めて観たらやっぱりすごく良い映画だなと思えたんです。トークイベントにも行くし、コメントも書くよって、前もって谷口監督には伝えていました。この映画に関しては、僕が手伝いたいから手伝っている感じですね」
映画を作っていくしかない。
かつて、白石監督も長編デビュー作となる『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2009のSKIPシティアワードを受賞。『ロスパラ』の公開から2025年9月で15年目を迎えたが、その月日は白石監督が映画監督として活動してきた月日でもある。
「よく今まで映画で飯を食えてきたなって思いますよ、本当に。信じられないですし、未だに次の作品が終わったらパタッと仕事がなくなるんじゃないかという恐怖の中でやっていますから。ありきたりかもしれないですけど、関わってくれたスタッフやキャストがいたから、これまでやってこられたんだと思います」
今年の晩夏には、そんな自身のキャリアを振り返るような出来事があった。
「20代の頃、須永秀明監督の『けものがれ、俺らの猿と』(2001年公開)という映画に助監督として参加したんですけど、先日この映画のプロデューサーの娘さんがOLから転身して、女子プロレスラーとしてデビューしたんです。映画にも出演していた子だったので、スタッフのみんなで久しぶりに集まることになって。僕も含め、みんな年を取ったし、太った人もいましたけど、懐かしかったですね。“白石だけ出世している”とかイジられましたけど、でも、結局やっていることって変わらないんですよ。昔も今も、みんなで一丸となって映画を作って、それで飯が食えるというのは本当に奇跡のようなことなんだなと。この先、どんな奇跡が起きるかわかりませんけど、やっぱり真摯に映画を作っていくしかないのかなと思います。観てくれた人にどう楽しんでもらうのかっていうことを、コツコツやっていくしかないんだろうなって」
胸に刻んでいるのは、伝説的なメジャーリーガーとして知られるジョー・ディマジオの言葉。以前、取材で北海道のエスコンフィールドを訪れた際に、白石監督は一塁ベンチ裏の壁に掲げられていた「自分のプレーを初めて目にする子どもが今日も球場のどこかに必ずいる。その子のためにベストを尽くさねばならない」という言葉に感銘を受けたという。
「映画も同じですよね。僕の映画がその人にとって最初に観る映画になるかもしれないし、人生の最後に観る映画になるかもしれない。だからこそ、ワンカットワンカットに魂を込めて作らなきゃいけないというのは、常に思っています」
撮影/野呂美帆