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白石和彌

白石和彌

白石和彌

撮影/野呂美帆

映画監督の白石和彌が、現在手掛けている

映像作品について語る連載の第7回。

 白石監督の最新作『死刑にいたる病』が2022年に公開される。原作は櫛木理宇の同名サスペンス小説で、すでに阿部サダヲと岡田健史の出演が発表されている。

「3年くらい前に小説を読んで、“これは映画にしたい”と思ったのが始まりです。話もすごくおもしろいし、『彼女がその名を知らない鳥たち』のプロデューサーと映画化に向けて動いていたんですね。本当は去年の内に撮影するはずだったんですけど、コロナの影響もあって延期になってしまい、今年の6月11日にようやくクランクインできました。7月13日に撮り終えたから、期間は約1ヵ月くらいですね」

 撮影は東京都内と、栃木県宇都宮市で行われた。

「すごくよかったですよ、宇都宮。都心から近いので便利だし、ロケ場所もいいところがたくさん見つかりました。フィルムコミッションも熱心ですし、街の雰囲気もいい。灯台下暗しというか、盲点でしたね」

不穏な感じが出たら

この役は確変するかな

とは思っていました。

 物語は鬱屈した日々を送る大学生の筧井雅也が、一通の手紙を受け取るところから幕を開ける。手紙の差出人は日本中を震撼させた連続殺人犯であり、拘置所に収容されている死刑囚の榛村大和だった。映画は2人の面会シーンが主軸となる。

「『凶悪』のときも面会シーンが多かったですけど、比じゃないです。あのときは割とカメラを大きく動かさず、単純な切り返しでやりましたが、同じことはできないので、今回はいろいろと工夫しています。もう一生分の面会シーンは撮ったので、今後はもういいかな(笑)」

 榛村大和を演じるのは、阿部サダヲ。白石監督とは『彼女がその名を知らない鳥たち』以来のタッグとなる。

「阿部さんとは『彼鳥』の後もちょくちょく連絡はとっていて、また一緒にやりたいと思っていたんです。この話を撮るときにいろんな方が演じるパターンがあるなと思っていたんですけど、でもやっぱり最初に阿部さんに声をかけたくて、お願いしてみたらすぐに出演OKのお返事をいただけました」

白石和彌

「阿部さんって、謎の部分があるじゃないですか。LINEでもやり取りするんですけど、けっきょく何を考えているか掴めないし、分からない。その不穏な感じが出たらこの役は確変するかなとは思っていました。あと、勉強家ですよね。面会シーンがある映画を何本か見たそうで、『凶悪』も見直してくれたみたいです。“役に立ちましたか?”と聞いたら“いや、全然役に立たなかった”って軽く言ったりする感じとかは、とても阿部さんっぽいなと(笑)」

 そして、筧井雅也役は2018年のデビュー以来、数多くの作品で高い評価を得ている岡田健史が務める。

「岡田くんはすごく真面目な人で、脚本も僕以上に読み込んでくれました。最初に会ったときに“人生を懸けてやりたいです”と言ってくれて、頼もしかったのを覚えています。もともと野球青年だったから、まっすぐなんですよ。撮影でも“こうしてほしい”と言ったら“分かりました”と素直に言えるし、考えがちょっと食い違っていたら、“監督、僕はこう思っていたんですけど、どうですか?”と、ちゃんと聞いてくれる。まだ22歳ですけど、精神年齢は高いですよ。それは接していて、すごく感じました」

ちょっと

ブラックコメディ的な

ところもある。

 初共演となる2人の相性について、白石監督はこう話す。

「一見するとそれぞれ芝居の質が違うんですけど、シーンを重ねていくごとに妙にマッチしてくるというか、不思議な空気感が生まれてくるのはおもしろかったです。2人とも自然体のお芝居ですし。映画は、ほぼ雅也と榛村の2人の話なので、撮っていて『孤狼の血』とはまた違う楽しさがありました」

 白石作品としても、なかなかの異色作になりそうだ。

「残酷な世界を描いてはいるんですけど、ちょっと今までの僕の映画とは違う感じになる予感がしています。ヨーロピアンの格調高さというか。別に格調高い映画だと言いたいわけじゃなくて、そんな感じに見えるというか、美術や音楽、ロケ場所や配役などが要因だと思うんです。僕は、自分の映画じゃないみたいだと思うんですけど、みんなは“いや、全然白石さんの映画です”って(笑)」

白石和彌

「原作からの影響も大きいですよね。撮影現場に櫛木先生が遊びに来てくれた時に、いろいろとお話させていただいたんですけど、作家になる前にシリアルキラーの専門サイトを作って運営していたそうなんです。これは筋金入りだと(笑)。いや、ご本人はとても穏やかな方ですけどね。そういう方が書かれている小説だから、リアリティがあるし、会話劇もおもしろい。映画は基本的に重いテーマで進んでいきますが、ちょっとブラックコメディ的なところもあって、“笑っていいのかな?”と迷うところがけっこう出てくると思います。そこはぜひ楽しんでほしいですね。僕らは笑って撮っていたので」

映画『死刑にいたる病』2022年公開
大学生の雅也は連続殺人鬼で死刑囚の榛村大和から手紙を受け取る。「罪は認めるが、最後の事件は冤罪だ。犯人は他にいることを証明してほしい」。中学生の頃、榛村のパン屋に通っていた雅也は、その願いを聞き入れて事件を独自に調べ始める。
(C)2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血』シリーズなど。現在、「Beppu短編映画プロジェクト」の1本目を準備中。また、『仮面ライダーBLACK SUN』(2022年春スタート)と『死刑にいたる病』(2022年公開)が控えている他、プロデュース作品『渇水』(監督:高橋正弥/2022年公開)が待機中。

撮影/野呂美帆