映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第8回。
撮影/野呂美帆
映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第8回。
2022年も白石監督の勢いは止まらない。劇場公開やネット配信が予定されている作品には『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』『極悪女王』など、注目のタイトルがズラリと並ぶ。また、髙橋正弥監督の『渇水』にはプロデューサーとして参加。別府が舞台の映画をリレー形式で撮る「別府短編映画制作プロジェクト」では1本目となる作品の準備中だ。白石監督にとって今年はどんな年になるのだろうか。
「やっていないことにまたチャレンジする1年になるだろうな、というのは感じています。ありがたいことに忙しくさせてもらっていますが、撮影に入ってしまえば、どうということはないと思います」
すでに撮影を終えている作品もいくつかある。
「『死刑にいたる病』に関しては編集も終わりました。音を入れたら、さらに良くなった。すごく繊細な、いい意味で“変な映画”になったという印象です」
自分の中にも
シリアルキラー感が
ちょっとあるのかなって。
もちろん画づくりにもこだわったという。
「今回、池田直矢さんというカメラマンと初めて組んだんですけど、とても相性がよくて、“ああ、自分はこういう映画も撮れるんだ”と思わせてくれたというか、引き出してもらった部分は大きいですね。池田さんは木村大作さんのお弟子さんで、『岬の兄弟』(監督:片山慎三)や『ソワレ』(監督:外山文治)の撮影監督です。海外での経験もあって、考え方もちょっと普通のカメラマンとは違うんですよ。技術的な話だと、撮影ではある程度最初に色味を決めて、LUTというものを当てながら進めていくんですけど、普通のカメラマンはLUTに囚われてしまいがちなんですね」
LUT(Look Up Table)とは色味を補正するプリセットのようなもの。
「でも、池田さんは“いや、こんなの別になんの決まりでもないですから、気にしなくていいです”と言うんです。柔軟だし、積み上げたものを捨てる勇気がある。こういう技術者もいるんだと衝撃を受けましたし、その感じがすごく映画にも影響しています」
物語の中心にいるのは、阿部サダヲ演じる連続殺人犯。白石監督は「普通の人は1人も出てこない映画です」と話す。スタッフも登場人物も普通じゃなければ、当然、監督だって“普通じゃない”。
「あんまりこれを言うと引かれるんですけど、YouTubeで生き物の解体動画や駆除動画を普段からよく見ているんですね。自分の中にもシリアルキラー感がちょっとあるのかなって」
最近よく見ているのは昆虫の捕食動画や対決動画だそうで、『仮面ライダーBLACK SUN』のアクションをつける際の参考にもしているという。
「カマキリVSクモなどの動画を見ながら“この怪人の逃げ方はもう少しこうだな”とか、アクションにすごく活かしていますよ」
昨年12月からスタートした『BLACK SUN』の撮影は今年の2月まで続く予定だ。話題作だけあり、さまざまな意見が飛び交っているが……。
「これだけの人気コンテンツなので、賛否の声がいろいろと出てくるのはしょうがない。そこを気にしていたら面白い作品は作れないですから。ただ僕らも昭和の『仮面ライダーBLACK』が好きで、尊敬の念をもって始めていますし、ファンの人たちに楽しんでもらえる要素はたくさん入っているので、そういったことも含めて思いっきりやるつもりです。プレッシャーはありましたけど、今はもうなくなりました」
そして、昨年末に発表された主演の2人も大きな話題になった。
2人とも二つ返事で
オファーを
受けてくれました。
主人公の仮面ライダーBLACK SUN/南光太郎を西島秀俊が、対になる仮面ライダーSHADOWMOON/秋月信彦を中村倫也が演じる。
「2人とも二つ返事で受けてくれました。西島さんとは助監督時代にご一緒していて、人間的な素晴らしさや気さくな感じとかは知っていたので、“西島さんがライダーをやりたがっている”という噂を聞いたときに、マジでお願いしてみようと。中村くんもシャドームーンが生涯で1番好きなライダーだと言っているのを小耳に挟み、彼の実力も知っているので、オファーしたという経緯があります。中村くんは衣装合わせしたときの第一声が“うわー、仮面ライダーだ!”でしたからね(笑)」
白石監督がプロデューサーを務める『渇水』も、同様にキャストが話題になった。主演は生田斗真。主人公の水道局職員を演じることが昨年11月に発表された。
「アカデミックでスーパーメジャーな方ですよね。でも、生田さんの本質的な部分は、インディーズ的な作品にも活かせるんじゃないかと前々から思っていて。この映画も企画のスタートはインディーズなので、生田さんが出てくれたらすごい力を与えてくれるんじゃないかと思い、お願いしました。原作は芥川賞の候補にもなった河林満さんの小説で、監督の髙橋さんが10年前から映画化に動いていたんです。脚本も嫉妬するほど素晴らしいんですけど、いつも映画化一歩手前で頓挫していた不遇の作品でもあって、今回、生田さんが成立させてくれたというところがある。本当に感謝しかないですよ」
そして、製作が発表されたNetflixシリーズ『極悪女王』のキャストも気になるところ。白石監督と、企画・脚本・プロデュースを担当する鈴木おさむがタッグを組み、悪役レスラーとして名を馳せたダンプ松本の視点で80年代の女子プロレスを描いていく。
「僕としては会心のキャスティングになると思っています。かなり衝撃的ですよ。ダンプ松本やクラッシュギャルズに関しては“いや、そうきたか!”という感じですから。いま栄養士やトレーナーに入ってもらって、キャスト陣にプロレスラーの体を作ってもらっています。クラッシュギャルズが社会現象になったように、『極悪女王』も社会現象を巻き起こすドラマにしてみせますよ(笑)」
白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血』シリーズなど。2022年以降の公開&配信待機作に『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』『極悪女王』等がある他、プロデュース映画『渇水』(監督:髙橋正弥)の公開も控えている。
撮影/野呂美帆