映像作品について語る連載の第36回。
6月中旬から始まった新作映画の撮影も、7月末にクランクアップ。撮休日を含めて約1ヵ月半に及んだ現場は、白石監督にとって充実したものとなった。
「いや、楽しかったですね。もちろん体力的には疲れましたけど、ここ最近やってきた作品に比べると、規模もそこまで大きくはなかったので、自由にやらせてもらいました」
まだ明かせないものの、主演は“アップカミング”な二人の若手俳優だという。彼らとの仕事は監督の予想をいい意味で裏切り、毎テイク新鮮な驚きをもたらした。
「メインの二人が素晴らしくて、ワンシーンワンシーンが想像以上にいい感じで撮れたという手応えがありました。例えば『探偵はBARにいる』のような作品だと、大泉(洋)さんと(松田)龍平くんがこの芝居をやったら、それは確実に面白くなるよねっていう想定内の部分があるんです。でも、今回は「あ、こういうシーンになるんだ!」という発見の連続でした。映画の企画自体エッジが効いているのも相まって、撮っていて楽しかったです」
今作は都内を中心に千葉や埼玉など、関東近県での撮影がメイン。街中での撮影が多かったのは、こんな意図もあった。
「より画面を立体的にしたかったんです。例えば、モノレールが走っている様子などを組み合わせて、いつもとは違う上下の都市空間を表現したかったというのはあります。なので、画面サイズもあえて変えました。『日本で一番悪い奴ら』くらいからずっとシネスコ(シネマスコープサイズ)で撮っていたんですが、今回はそれをやめてビスタで撮っています」
シネマスコープサイズとビスタサイズの違いは、画面のアスペクト比の差。映画館のスクリーンに合わせた横長サイズがシネマスコープサイズで、テレビ画面の16:9に近い縦横比がビスタサイズだ。
「シネスコは上下が狭くて横が広い分、空間が空きがちで、そこに何か飾り物を置いたり、人を配したりと、一定の縛りが出てくるんです。シネスコでも立体的な奥行きは作れるんですけど、一度その縛りを自分なりにやめてみようと。それもすごく新鮮でした」
台風によるスケジュールトラブルなどもあったが、撮影は無事に終了。現在は完成に向けて編集作業に取り掛かっている。
続いての話題は、この夏にBS-TBSで放送されたドラマ『心配無用ノ介 天下御免』について。大ヒット映画『侍タイムスリッパー』の安田淳一監督が手掛けるスピンオフ時代劇に、白石監督はゲスト監督として参加。担当する第2話の撮影はGW中の京都で行われた。撮影時、意識したのはゲスト監督としての立場だったという。
「単純に迷惑はかけられないですよね、ゲストとして呼ばれているので。できれば撮影も巻いて終わらせたいし、最低でも定刻には終わらせようと必死でした。安田さんが時間をオーバーする分にはいいんですよ。自分の企画だし、プロデューサーも自分だし。ゲストに呼ばれている僕が時間をオーバーしたら、スタッフも疲れちゃうし、撮影所にも迷惑なので」
自主映画の現場で奮闘してきた安田監督と、常に第一線で活躍し、ビッグバジェットの現場を回すことも多い白石監督。両者の違いは撮影方法にも現れていた。シネマトゥディのインタビューで安田監督が語った「無理やなと思うようなショットでも白石さんは平気で言ってくる」という言葉に対し、白石監督はこう分析する。
「自主映画の人たちって、遠慮してしまうというか、やっちゃいけないことはやらないんです。「これは無理だ」と思ったら諦めてしまうところがある。でも、多少のわがままを言わないと撮れないよねっていう話なんですよ。例えば、東映の撮影所のオープンセットには車輪がついた移動用の蔵があるんですが、抜けのショットを撮るときも安田さんは予算やスタッフの少なさを気にして、「動かさないでええか」となってしまう。でも、僕は「みんなでやれば動かせるでしょう」っていう、そういう違いのことをおっしゃっていたんじゃないかな」
目の当たりにした。
白石監督との仕事は「得るものが大きかった」と話した安田監督だが、一方で白石監督も多大なエネルギーを安田監督から受け取っていた。
「撮影は本当に楽しくて、安田さんは情熱家だし、逆に僕がいっぱいパワーをもらったみたいなところはあります。安田さんは、50半ばで『侍タイムスリッパー』でブレイクして、ようやくやりたいことができる環境が整ってきたわけじゃないですか。今は映画を撮ることに喜びしか感じていない状態だと思うんですよ。僕も経験ありますけど、何をやっても楽しいし、うれしい。とにかく喜びにあふれていて、それはすごくうらやましいです。京都では、映画に対する純粋さみたいなものを、改めて目の当たりにしました」
白石監督が担当した第2話は、江戸を揺るがす米騒動の話で、米問屋が舞台となった。予算の少なさもご愛嬌。すべて納得した上で撮影に臨んだ。
「江戸の街なのに町人が全然いなかったり、米問屋も大店という設定なんですけど、そこに押し入る盗賊が3人しかいなかったり(笑)。でも、それはそれで面白いじゃないですか。安田さんも自主映画の畑の人だから、やっぱり慣れてるというか、「それで行っちゃいましょう」っていう思い切りの良さがある。そういう意味では若松(孝二)さんみたいな感じですよ。それと、『十一人の賊軍』でもご一緒した本山力さんが大儲けを企む番頭役で出演してくれたんですが、「最後に峰打ちで番頭の歯を折って、血だらけの歯を転がす画を撮りましょう」って安田さんに提案したら、「お年寄りや子どもも観る番組だから、それは勘弁してください」と止められました。あ、そういうのはダメなんだって(笑)」
本気でやってほしいとお願いした。
ハードな演出のアイデアは、『BYE BYE LOVE 探偵はBARにいる』の撮影時にも発揮された。12月25日公開の同作では追加キャストが発表。その一人である山本耕史は、ヒロイン役の鈴木京香と共演したあるシーンで、白石監督から「本気で、グーでいきましょう!」と指示されて、驚いたというエピソードを明かしている。
「首筋に手刀を当てて気絶させたり、みぞおちを殴って失神させたりする、いわゆる映画の“お約束”ってあるじゃないですか。そのシーンもそういうお約束の場面だったんですけど、リアリティを持たせたかったので、本気でやってほしいとお願いしたんです。もちろん、そこは映画の嘘として、そう見えるように演じてもらったということですけど。そもそも山本さんは何をやっても上手いし、京香さんも殴られる芝居がめちゃくちゃ上手くて。やってよかったですね」
また、同作には白石作品の常連である音尾琢真も怪しい社長役で出演。音尾と主演の大泉は、演劇ユニット・TEAM NACSのメンバー同士でもある。
「音尾くんには「大泉さんの主演作だけど、どうする?」って一応聞いたんです。そうしたら、「もちろん出ます!」と。映画で共演するのは久しぶりって言っていたかな。「こんなに気を遣わなくていい主演はいない」って喜んでましたね(笑)」
桐原組の若頭・安達役を務める中村倫也の出演経緯も興味深い。連続ドラマの撮影の合間に2日間だけスケジュールが空き、自ら「札幌に行きたいです」と白石監督に連絡してきたという。
「倫也くんも、昔はこういうスポット的な出方が多かったと思うんですよ。でも、ブレイクしてからは主演やメインキャストじゃないと、なかなか難しくなった。だから逆に「久々にこういうのやりたかったんですよ」って、超楽しんでました(笑)。今回、ちょっと面白い役なので、前後のことを考えずに好き放題にやって、美味しいものを食べて帰る、みたいな(笑)。僕の『心配無用ノ介』じゃないですけど、いい気分転換になったんじゃないかな」
怒涛の撮影ラッシュを終え、現在は各作品の仕上げ作業に入っている段階だ。台湾で撮影した映画の編集も進めており、後輩の短編映画にも力を貸している。また、新しい企画も進行中。映画界のレジェンドからは、こんなバトンを託された。
「この前、『シナリオ』の8月号で、脚本家の高田宏治さんと対談したんです。高田さん、92歳かな。そのときに、高田さんが企画を持って来られて、「俺が生きているうちは無理かもしれないけど、気に入ったらやってくれ」と、長崎を舞台にした物語をお土産にいただきました」
秋に向けて、仕事をしながら、少しずつプライベートの時間も取り戻しつつある。
「休みの日は食べたいものを作っています。パスタとか、好きなタイ料理とか、あとは普通に煮物やうどんを作ったり。料理の時間はいいリフレッシュになっていますね。足の痛みもだいぶ良くなったので、山登りにも行きたいし、パーソナルトレーニングにも通いたい。とにかく体力を取り戻さないといけないので。チェロの練習もルーティン化させたいし、家を整理してたら、『碁盤斬り』のときに買った碁盤と碁石が出てきたので、それも触りたいなと。少しは人間らしい生活を送ろうと思っています」
撮影/野呂美帆