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白石和彌

白石和彌

白石和彌

撮影/野呂美帆

映画監督の白石和彌が、現在手掛けている

映像作品について語る連載の第11回。

 5月6日に公開された『死刑にいたる病』は、6月下旬時点で興行収入10億円を突破。このヒットに白石監督は観てくれた人への感謝を口にする。

「ありがたいことです、こんなに観ていただけるとは。配給の方によれば、『IT/イット』や『ミッドサマー』のような、ああいうホラーが話題になるときの流れに似ているそうです。“阿部さんがヤバいらしい”みたいな(笑)。YouTubeでも考察動画がたくさん上がっていて、そういう考えさせる部分が引っかかってくれたみたいです。僕の映画の中では一番若い人に観てもらえているんじゃないかな」

 同時期には樋口真嗣監督の『シン・ウルトラマン』も公開。親交のある樋口監督からの要請を受け、白石監督は居酒屋の大将役でカメオ出演している。

「1秒半くらいです、僕が出ているのは(笑)。家族も知らなかったので、中3の娘に“ウルトラマン観に行かない?”って。公開初週の日曜日に、観に行ってきました」

衣装に着替えて、

居酒屋の外で

待っていたら…。

 家族を驚かせるサプライズは見事に成功。

「さすがに“あっ!”って気づいていました。後で娘に聞いたら“2秒は映っていなかった。1秒ちょっと”って。反響はありましたよ。僕のLINEは『死刑にいたる病』の感想よりも“『シン・ウルトラマン』に出てた?”みたいなメッセージが多かったですから(笑)」

 撮影は朝7時からスタート。待機中、白石監督に声をかけてきたのは、企画・脚本を務めた庵野秀明監督だったという。

「着替えて居酒屋の外で待っていたんですよ。そうしたら、ほとんど来ないそうなんですけど、庵野さんがたまたま来ていて。面識はあったから挨拶かなと思ったら、僕だと気づかなかったみたいで、“すいません、お店の表を撮ってもいいですか?”って言われたんです。完全にお店の人だと思われていたみたいで、僕も撮っていいかどうか知らないけど“もちろん大丈夫です!”って勝手に答えました(笑)」

 撮影は夕方の5時に終了。場所が居酒屋ということもあり、白石監督は庵野監督とそのまま流れで飲むことになったという。

白石和彌

「台本をもらっていなかったので、居酒屋の斎藤工くんと山本耕史さんの会話から内容を把握するしかなかったんです。“現生人類”というセリフが聞こえてきたので、庵野さんに“現生人類ってなんですか?”って聞いてみたら、“現生人類は現生人類ですよ”みたいな問答を(笑)。あとは、僕が『麻雀放浪記2020』をiPhoneで撮っていて、庵野さんもiPhoneで撮ることがあるので、その話とか」

 奇しくも2人は『シン・仮面ライダー』と『仮面ライダーBLACK SUN』の監督同士でもある。

「そのときはまだ決まっていなかったか、発表前だったかで、仮面ライダーの話はしませんでしたね」

 先日、『仮面ライダーBLACK SUN』の配信時期が発表された。2022年秋、Amazon Prime Videoでの配信に向け、白石監督は作業を進めている。

「編集も終わって、音楽も松隈ケンタさんに素晴らしい曲をたくさん書いていただいて、全話の音作業も終わりました。あとはCGをやりながら、という感じです」

 7月は新作のクランクインも控えている。

「『BLACK SUN』の仕上げ作業とクランクインの準備でちょっと今は手一杯ですね。でも撮影に入っちゃえば楽なんですよ。打ち合わせなんかはみんな諦めてくれるんで(笑)」

映画監督と俳優は、

本来50/50が

当たり前。

 そんな撮影を控えている白石監督に、報道や告発が相次いでいる映画監督の性加害やハラスメントなどの問題についても聞いてみた。

「怒りが湧く以前に、呆然としてしまいますね。同時に、そりゃそうだよなとも思いました。小さい事務所やフリーでやっている俳優さんって、映画に出演するチャンスがほとんどないんですよ。そうなると“個人的に監督とつながりができれば、小さい役でも呼んでくれるかも”となりがちで。そういう意味では、業界内の構造がこういう環境を生むことにつながっている気がします」

 映画監督の「誰々を使う」という言い回しにも違和感を覚えるという。

「こっちだって俳優に出てもらわないと映画を作れないわけですから、本来立場は50/50なんですよね。大御所だろうが初めての人だろうが、それは変わらないはず。お互いを尊重しないといけない。ただ、僕の作品ではリスペクトトレーニングをしていますけど、講習を受ければ全て解決するわけじゃないというのは、やればよくわかります。法律を厳しくしても犯罪者が消えないように、何をやったって結局ハラスメントをしちゃう人はいる。その対応をどうしていくか、ということだと思うんです。本当は業界として窓口を作ったり、ルールづくりをしたりすれば、一応、目に見える被害は減っていくはずなんです。でも、それには財源が必要で、映画界のシステム的な問題もある」

白石和彌

 問題はかなり根深そうだ。

「性格もあると思うんですよ。ハラスメントなどは完璧主義者が完璧を求めすぎると起きやすい。僕みたいに、多少違っていても“まぁOK!”みたいなタイプは割りと大丈夫というか。それに、ハラスメントをしてしまう人も、最初から暴力を振るってしまうわけじゃなくて、撮影の時間が限られていたり、賃金が正規にもらえていなかったりといった、映画界の貧しさに起因している部分も多々あると思うんです。ただ、手が出そうになったときに、それをどう回避するかというのは、普段から意識しているかしていないかで大きく変わる。僕も自分を律しながら、今度の撮影に臨みたいと思います」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血LEVEL2』など。最新作の『死刑にいたる病』が公開中。『仮面ライダーBLACK SUN』がAmazon Prime Video で今秋配信。その他、『極悪女王』の配信やプロデュース映画『渇水』(監督:高橋正弥)の公開が控えている。

撮影/野呂美帆