映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第13回。
撮影/野呂美帆
映画監督の白石和彌が、現在手掛けている
映像作品について語る連載の第13回。
現在配信中の『仮面ライダーBLACK SUN』の監督を引き受けるにあたり、白石監督にはどうしても譲れないこだわりがあった。
「配信作品ではありますけど、4Kで撮っていますし、音響も5.1chで仕上げています。仮面ライダー生誕50周年の企画なので、僕らは50年前の『仮面ライダー』や、当然『仮面ライダーBLACK』も見直して、参考にしたんですね。今回が50周年の作品ということは、100周年のときに新しい仮面ライダーを作る人たちが、きっとこの『仮面ライダーBLACK SUN』も見直すはずなんですよ。だったら今できる最高のスペックで作らないと、やる意味はないと。そこはわがままを言わせてもらいました」
これまでの集大成的な
作品になるという
予感はあった。
本作は、第35回東京国際映画祭のワールド・プレミアでも上映され、大いに観客を沸かせた。
「スクリーンやモニター、もちろんスマホで観る人もいるだろうし、体験の仕方は人それぞれなんでしょうけど、物語を楽しんでもらうという意味では変わらないのかなと思います」
本作は全10話でトータル7時間半ほど。観た人を魅了する作品になったと自負する。
「完成後に関係者内で試写を行ったんですけど、脚本の髙橋泉さんがすごく興奮していて。脚本を書いたのが試写の8~9ヵ月くらい前だから、いい感じで忘れていたというのもあるんでしょうけど、試写から一週間後くらいにメールが来て、“あれからずっと『仮面ライダーBLACK SUN』のことを考えています。たぶんこういうのをやりたくて僕は脚本家になったんです”みたいなことを書かれていました」
2人は映画『凶悪』や『サニー/32』、『ひとよ』などでタッグを組んでいる。
「これだけ付き合いが長いのに、そういうことを言われるというのも、なんだかうれしかったですね。新ジャンルへの挑戦ではあったんですけど、どこか僕の中でもこれまでの集大成的な作品になるという予感はありましたから」
配信がはじまった今、特撮や仮面ライダーに興味のない人にも観てほしいと力を込める。
「普通のドラマ以上に濃密なドラマが展開するので、きっと誰が観ても楽しんでもらえるはずかと。音楽を担当していただいた松隈ケンタさんの奥さんが全くそういう特撮には興味のない人だったらしいんですけど、“早く次のが観たい”っておっしゃっていたそうで、割りとそういう方たちにも見やすいライダーになったんだなというのは感じます」
特撮の醍醐味を
味わってもらえる
作品になった。
豪華キャストの共演も話題だが、白石監督が特に注目してほしいという出演者の一人が、和泉葵を演じた平澤宏々路だ。
「まだ中学生で、来年高校生だと思うんですけど、彼女は素晴らしいです。端的に言って天才なので、彼女を見ているだけでずっと観ていられるはず。物語も実は葵の目線で描かれていて、非常に重要な役ですし、今後は彼女が話題に上がることも多くなると思いますよ」
また、“大人のライダー”ということも、注目を集める要素の一つ。
「昭和から平成、令和になり、やれることってどんどん限られてきているけど、作り手たちはギリギリのところでなんとかやってやろうと思っていて。そういう志や矜持が垣間見えると思いますし、特撮の醍醐味も味わえる作品になっています。社会問題を描いていますけど、第一にはエンターテイメントとしてワクワクするものを作りたいというところからスタートしているので、まずは観ていただければ、楽しんでいただけると思います」
『仮面ライダーBLACK SUN』の配信前、撮影や取材対応などの合間を縫って、白石監督は映画『死刑にいたる病』のBlu-ray&DVD用オーディオコメンタリーの収録にも参加している。阿部サダヲや水上恒司(2022年9月に岡田健史から改名)とは、久々の再会となった。
「オーディオコメンタリーでは、つい岡田くんって呼んじゃうので、ああ、違った違ったみたいなことはありました。おかげさまで映画がヒットしたので、みなさん喜んでいましたね。また何かやりたいですね、みたいなことも話しました。ただ、阿部さんはいまだに新しい現場に行くと“本当は優しい人なんですね”とか言われるらしくて、それはちょっと申し訳ないなと。Blu-ray&DVDは2023年1月11日に発売なので、こちらもぜひ!」
白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』など。最新監督作の『仮面ライダーBLACK SUN』がプライム・ビデオで配信中。その他、プロデュース映画『渇水』(監督:高橋正弥)の公開などが控えている。
撮影/野呂美帆