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白石和彌

白石和彌

白石和彌

撮影/野呂美帆

映画監督の白石和彌が、現在手掛けている

映像作品について語る連載の第15回。

 2022年は『死刑にいたる病』と『仮面ライダーBLACK SUN』を世に送り出した白石監督だが、2023年の頭にはすでに次の作品に取り掛かっていた。撮影しているのは、自身初となる時代劇だ。

「2月の頭にメインキャストの衣装合わせを東京でやって、半ばくらいから京都で撮影に入りました。4月上旬くらいまでかかると思いますが、この撮影が終わってから、今ストップしている『極悪女王』の撮影を再開するべく調整している段階です。スケジュールの都合で僕がどこまで演出できるかまだ未確定な部分はあるのですが、少なくとも総監督的な立場で作品全体に魂を込めるつもりです。撮影が残っているのは1~2話分ほどなので、みんなで力を合わせて最高の作品に仕上げたいですね」

8月には大型時代劇の

クランクイン。

気合を入れて臨む。

 その後に予定しているのは、もう1本の時代劇。キャストも決まり、着々と撮影の準備が進められている。

「こっちは8月に撮影に入ります。今撮影しているのも時代劇ですけど、まったく毛色が異なるものになるので楽しみです。まだ詳細は言えないですけど、大型時代劇になるので、いろいろと気合を入れてやらないと」

 さらに、今年はプロデューサーとして携わっている髙橋正弥監督作品『渇水』の公開も予定されている。撮影にプロデュースにと、2023年もハードな1年になりそうだが……。

「でも、今年は自分の監督作の公開がないので、少しは楽かもしれないですね。絶対に必要なことではあるんですけど、映画のキャンペーンってボディーブローのように効いてくるんですよ。スケジュールの面でもそうですし、精神的にもずっとヤキモキしていなきゃいけないですから。そういった意味では、来年どうなっちゃうんだろうという懸念はあるんですけど」

白石和彌

 来年以降で気になる作品と言えば、やはり『孤狼の血 LEVEL2』の続編について。柚月裕子の原作小説『孤狼の血』には、続編の『凶犬の眼』と『暴虎の牙』があり、1月24日に刊行された『暴虎の牙』の文庫版では、白石監督が巻末解説を書いている。

「映画の続編については、まだ具体的に何も決まっていないですね。もちろん、続きを待ち望まれている作品ではあるので、来年には何かしらの報告ができればとは思っています」

 『孤狼』に関してはこんな“お誘い”も。

「柚月先生が『孤狼の血』シリーズを書くにあたって話を聞いたという、広島のマル暴をずっと取材している面白い人がいるらしくて、その人に今度、会いに行くことになりました。柚月先生が“来られる?”って言うから“行きます”と。取材がてら広島に飲みに」

 多忙な日々の合間を縫って、息抜きを兼ねたインプットも欠かさない。ここ最近は大作映画に触れる機会も多かったのだとか。

「『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、映像美にやられましたね。ジェームズ・キャメロン監督は5部作だと公言していて、まだ2本目だからどうなるのかなと」

 漫画家・井上雄彦の監督作『THE FIRST SLAM DUNK』も視聴済み。

「すごく良かったです。原作者が監督じゃないとできない作品ですし、当たり前なんですけど、原作コミックが明確なビジョンとイメージを持って描かれていたんだというのがよく分かりました。井上先生は映画的な感覚で原作を描かれていたんだなというのが」

“志の高さ”があれば

日本でも作れる映画。

負けてられない。

 世界中で大ヒットしたインド映画『RRR』は、諸手を挙げて絶賛する。

「めちゃくちゃ面白かったですね。100億円かかっているそうなんですけど、金をかけた少年ジャンプみたいな感じで、最高でした」

 そしてもう1本、心に強く残る映画に出会った。

「コメントを依頼されて観た『対峙』という映画に圧倒されました。アメリカの高校銃乱射事件をもとにしていて、被害者両親と加害者両親が教会の一室で話し合うだけの話なんですけど、スリリングで緊張感もあって、絶対に観たほうがいいです。 本当に魂を根こそぎ持っていかれるような作品で、今でも思い出すとグッときます。監督はフラン・クランツという俳優で、脚本も書いているんですね。たぶん、たくさん取材もされているでしょうし、裁判記録とかも参考にしていると思うんですけど、そもそも加害者家族から話が聞けるのかとか、壁も多かったはずなんです。予算も数千万円ほどらしくて。でも、『アバター』や『RRR』は予算的に日本では難しいかもしれないですけど、『対峙』は“志の高さ”さえあれば日本でも作れる映画なので、負けてられないなと思いました。映画って当たり前ですけど、予算だけじゃないんですよ」

白石和彌

 予算が圧倒的に少ない自主映画に思いを馳せることもある。

「ここしばらく“ミニマムな映画を撮れてないな”という思いはあります。『孤狼の血 LEVEL2』や『仮面ライダーBLACK SUN』はスタッフが80名くらい。『死刑にいたる病』が30~40名くらいなんですけど、『極悪女王』は100名くらいかな。規模が大きくなるに従って、反動でそういう気持ちが出てくる。それこそ5人くらいで自主映画をやりたいなと。それがいろいろなことの発散にもなりますから」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血LEVEL2』『死刑にいたる病』など。『仮面ライダーBLACK SUN』がプライム・ビデオで配信中。その他、『極悪女王』の配信やプロデュース映画『渇水』(監督:髙橋正弥)の公開が控えている。

撮影/野呂美帆