映像作品について語る連載の第29回。
2025年7月27日、建物の老朽化に伴い、東映最後の直営館「丸の内TOEI」がその歴史に幕を閉じる。およそ65年間に渡って多くの人々に愛された映画館は、白石監督にとっても思い出深い場所の一つだった。
「僕が最初に丸の内TOEIで観た映画は、たぶん深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』だったと思うんですけど、もしかしたらその前の『おもちゃ』だったかもしれません。数年前になくなってしまった渋谷TOEIもそうですが、よく映画を観に行っていた映画館の一つですし、監督になってからはちょっと覚えてないくらい何度も舞台挨拶をさせてもらったところなので、寂しい限りです。あそこで舞台挨拶をするときって、入口から一度下に行って、そこから階段を登るんですけど、その階段がめちゃくちゃ狭いんですね。初めて舞台挨拶をしたとき、こんな狭いところを歴代のスターたちも通ったんだなと、妙な感慨がありました」
素直にうれしかった。
5月18日には、白石監督の丸の内TOEIにおける最後の舞台挨拶が行われた。同館では5月9日から閉館日となる7月27日までの80日間に渡って、「さよなら丸の内TOEI」プロジェクトを実施。特集上映の他、東映作品に関連したトークイベントなどが開催されているが、白石監督も『孤狼の血』で主演を務めた役所広司と共に、舞台へ上がった。
「映画祭でばったりお会いしたり、昨年は川喜多賞の贈賞式でご挨拶したりはしているんですけど、舞台挨拶でご一緒したのは7年ぶりです。最後に役所さんと舞台に立てて、素直にうれしかったですね」
トークイベントでは、笠井信輔アナウンサーが司会進行を務めた。
「7年前のことなので、もう忘れていることも多かったんですけど、笠井アナが次々と質問をしてくれて、良いトークイベントになったと思います。もう笠井アナの気合がすごくて、前日から「この話を聞いていいですか?」みたいな確認のLINEがばんばん来たんですよ。通好みな質問もありましたし、当日は想定になかった話も飛び出したりして、盛り上げてもらいました」
壇上では3作目への言及もあったが、白石監督の頭の中に具体的な構想はあるのだろうか。
「『孤狼の血 LEVEL2』のあと、一回くらい日岡が主役じゃないパターンもあるのかなと思って考えていた時期があるんですけど、あまりかんばしくなくて、手が止まっちゃいました。それに、日岡役の松坂桃李くんは大河ドラマが控えていますから、日岡を物語の中心に据えるのであれば、彼の大河が終わらないことには始まらないんじゃないかな」
松坂桃李が主演を務めるNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』は、2027年に放送予定。白石監督も現在進行中の作品を複数抱えているため、3作目の始動は早くても2~3年後になりそうだ。
樋口さんにリクエストしてみた。
そんな多忙を極める中で、白石監督は樋口真嗣監督の手掛けた『新幹線大爆破』に出演。Netflixで配信中の同作は、『碁盤斬り』でタッグを組んだ草彅剛が主演を務めている。
「樋口さんとはときどき飲んでいるんですけど、けっこう前に「新幹線大爆破やるんですか?」「白石監督も出る?」「じゃあ出してくださいよ」みたいな話を酔っ払いながらグダグダしていたんですよ(笑)。酒の席の話だし、そのときは草彅さんが主演だということも知らなくて。たしか『碁盤斬り』の撮影のときに聞いたのかな。草彅さんに「樋口さんによろしく言っておいてください」なんて言っていたら、後日、Netflixのプロデューサーから電話がかかってきて、「樋口さんが白石監督に出てほしいと言っています」と言うので、正式にお受けしました」
白石監督が演じたのは、爆弾の仕掛けられたはやぶさ60号と、救出号である臨時列車9014Bの連結作業を行う作業員。短いながらもセリフのある役どころで、出演パートの撮影は2日間に渡って行われた。
「千葉の木更津に大きな倉庫があるんですけど、そこに新幹線の車両が1.5両分くらい組まれていて。もちろん実際に走らせるわけではないんですけど、むき出しの連結部分のシーンなので、常に風を当てながらの撮影だったんです。当然、声なんか撮れるわけがないから、後日アフレコに来てほしいと。でも、どうせ収録はすぐ終わるし、そのためだけに録音スタジオへ行くのもアレだから、終わったあとに一緒に飲んでくださいと樋口さんにリクエストしてみたんです。そうしたら、僕のアフレコの順番を最後にしてくれて、約束通り、終わったあと飲みに行ってくれました(笑)」
樋口監督は、配信後に行われた副音声ウォッチパーティー(実況配信)にて、白石監督の出演はキャストに伏せられており、本番で主演の草彅にドッキリを仕掛けるつもりだったことを明かしている。しかし、2人は本番前に待機所で顔を合わせており、ドッキリはあえなく失敗。白石監督はドッキリのことを聞いていなかったと笑う。
「そんなの事前に言ってくれないとわからないですよ(笑)。でも、居酒屋の大将役で出演した『シン・ウルトラマン』のときも、先に着替えて居酒屋で待機していたら、斎藤工が驚いていたから、たぶんあれもドッキリだったと思うんです。そういうのが好きなんですよ、樋口さんは」
こうして完成した『新幹線大爆破』に、白石監督はどんな感想を抱いたのだろうか。
「Netflixはネット配信なので、本来は初号試写をやらないんですけど、樋口さんがスクリーンでも観たいと言ったのか、東宝の試写室で関係者を呼んで観ることになったんですね。僕も朝一で行ったら、ピエール瀧さんがいて、松尾諭さんもいて、瀧さん、僕、松尾さんという並びで観ました。観終わったあと、瀧さんが「白石監督どこに出てた?」って(笑)。一瞬なのでわからないですよね。作品自体は、樋口さんの“新幹線愛”が伝わってきましたし、新幹線まわりの臨場感もすごかった。撮影も無理していないというか、バランスが良かったんだろうなと思います。あと、白眉はやっぱり森達也監督ですよ。詳しくは言わないですけど、森さんの存在感が素晴らしかった。森さんって今はドキュメンタリーの人ですけど、昔は自主映画にもけっこう出ていましたし、黒沢清作品とかにも出演していますから。ただ、撮影後に森さんと飲む機会があったんですけど、本人はかなり緊張した撮影だったみたいで、「安直に受けるんじゃなかったよ」と笑っておっしゃっていました。こんなふうに僕も森さんも引っ張り出されたので、今度は樋口さんにも僕の映画に出てもらうしかないなと。断る理由はないはずなので(笑)」
撮影/野呂美帆