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白石和彌
映画監督の白石和彌が、現在手掛けている 映像作品について語る連載の第28回。
 公開から約1年。『碁盤斬り』が第3回京都映画賞の作品賞に輝いた。2025年2月23日に行われた表彰式に参加した白石監督は、京都映画賞名誉会員でゲストプレゼンターの北大路欣也と共に舞台へ上がった。
「これまで撮影所ですれ違ったりとか、親しいスタッフを介してご挨拶したりとかはあったんですけど、きちんとお会いしたのは初めてでしたね。その日は北大路さんの82歳の誕生日だったんですけど、肌もツヤツヤだし、めちゃくちゃお元気で。少しだけお話もしたんですけど、とてもキュートな方でした」
白石和彌
時代劇を観てくれる人が
実は世界にたくさんいる。
 また、同作はフランスでも着実に人々の心を捉えはじめた。3月26日にはフランス全土220スクリーンで公開され、5日間で4万人以上を動員している。
「メトロの駅にポスターが貼られていて、宣伝も頑張ってくれたみたいです。別のプロジェクトなんですけど、今ちょうどフランスのクリエイターとやり取りをしていて、リモートでミーティングをしたときに“観てきたよ”って。ありがたいですよ」
 伝わってくるのは、海外の時代劇に対する熱量だという。
「昨年からアメリカやドイツなど、海外の映画祭を地味に回っていて、評判もいいみたいです。僕の作品じゃなくても時代劇ってやっぱり日本では興行的に厳しいんだけど、守っていかなきゃいけない文化だというのはすごく感じていて。海外の話を聞いていると、自信になりますよね。観てくれる人が実は世界にたくさんいるんだっていう」
 海外での勢いに対し、日本の時代劇をとりまく現状には憂いもある。
「マーティン・スコセッシが『沈黙 -サイレンス-』をなぜ日本で撮らなかったのかっていうことなんです。江戸時代の話なのにですよ。『SHOGUN 将軍』もそうですけど、その理由は明確で、日本のスタジオは小さいし、映画づくりに対して助成金もほとんど下りないからなんです」
 両作とも日本を舞台にした時代劇であるにも関わらず、『沈黙 -サイレンス-』は台湾で、『SHOGUN 将軍』はカナダで撮影されている。
「海外の撮影隊も事前にロケハンで日本に来ているはずなんです。でも、日本で撮影するメリットがないと判断している。もっと自由にのびのび撮影できる広い場所で、一からセットを組んでしまおうって。それはすごく感じますし、残念ですよね」
 そんな中でも、演者やスタッフは熱い思いを抱えながら、時代劇を盛り上げようと気を吐いている。白石監督はこんなエピソードを教えてくれた。
「仲野太賀くんが2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』に決まったじゃないですか。彼の指名もあって、大河の撮影には『十一人の賊軍』の殺陣チームが参加するそうで、本人も“来年1年間、みんなで大河やってきます!”と言っていました。太賀くんとしても『賊軍』で納得のいく殺陣ができたということなんだろうし、安心できるチームだったんだなと。それは素直にうれしかったですね」
白石和彌
“聖なる酔っぱらい”の
映画を撮りたくなった。
 最近では、こんな交流もあった。
「この前、前田哲監督の『花まんま』という映画の試写会に行ったんですね。鈴木亮平くんと有村架純さんが出演している映画で、ポスターがあったから何気なくパチッと写真を撮って、鈴木亮平にLINEで送って、そのまま飲みに行ったんです。『花まんま』の須藤(泰司)プロデューサーと2軒目のBARで飲んでいたら、鈴木亮平から電話がかかってきて、“今どこですか? これから行きます!”って。もう帰るところだったんだけど(笑)、銀座までわざわざ来てくれて、一緒に飲みました」
 酒の席で飲むのは、ほぼウイスキーだという白石監督。昨年末にはウイスキー好きとして、サントリーウイスキー角瓶の記事広告に出演し、同社の主席ブレンダーと対談した。
「行きましたよ、サントリー山崎蒸溜所。京都と大阪の間くらいにあって、角のハイボールを飲みながら、いろいろとお話をお伺いしました。記事は公開されているので、詳しくは読んでほしいんですけど、角瓶は品質を変えないことが最大のテーマだそうで、同じ角の味をずっと作り続けるのが難しいらしいんですよ。いつも好きで飲んでいたけど、そんな苦労があるんだと思って。それに、ブレンダーの人って、朝の9時くらいから仕事なんですけど、もう昼ぐらいにはいい感じに酔っぱらっているときもあるらしいんです。日本酒の利き酒なんかは、口に含んで飲み込まずに吐き出しますけど、ウイスキーは喉越しもあるからなんでしょうね。そんな話を聞いていたら、なんだか“聖なる酔っぱらい”の映画を撮りたくなってしまって。全然ストーリーは思いつかないですけど(笑)」