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141MAY-JUN 2026.5.8
生き方さがしの道しるべ
作家・佐藤優×経済ジャーナリスト・佐藤尊徳
立ち位置を見失い、将来を見通すこともできない中で、それでも何かをつかもうと、誰もが精一杯もがいている。そんな生き方を模索している人々に対して、“知の巨人”であり、グローバルな視点で国内外の問題を語る佐藤優が、対談を通じて方向性を指し示す。今回のテーマは「本当の人間関係の築き方」。

――SNSによって「つながり」の数は爆発的に増えましたが、全世代の中で若年層(20~29歳)が最も孤立感・孤独感を感じているという厚労省の調査結果もありました。そこで今回は、旧知の仲であり、非常に多くの方々との交流があるお二人に、人生やビジネスを切り拓くための人間関係についてお聞きします。お二人は20年来のおつきあいがあるとのことですが、まずは出会いのきっかけから教えていただけますか。

佐藤優(以下、優) 評論家の竹村健一先生が紹介してくださったんですよ。私が東京拘置所から出てきて、『国家の罠』を書いたすぐあとくらいかな。作家として駆け出しでやっていた頃、最初に助けてくれた人たちの一人なんです。佐藤尊徳さんは。
佐藤尊徳(以下、尊徳) 当時、僕が編集長を務めていた『経済界』誌上で、竹村先生との対談を引き受けていただいたのが始まりでしたね。まだ休職中の外務省職員という立場だった。帰り際にタクシーチケットをお渡ししようとしたら、「僕、公務員だから要りません」と頑なに拒否されたのが忘れられません。生真面目な方だなあと。
 尊徳さんは、総理大臣をはじめ大物政治家や有名な経済人にも一目置かれる『経済界』の創業者・佐藤正忠さんの秘書としてキャリアをスタートされた。当時から後継者として意識されていたんでしょうね。どこにでも連れ歩いていて、隠し子説もあったくらい。私も恐る恐る「そうなんですか?」と聞いたことがありました。
尊徳 よくある苗字がたまたま同じだけなのに、最近また言われるんですよ。顔も似てきたと。「似てねえよ、あのすさまじいおっさんとは!」って、自分では思うのですが(笑)。
僕は政治の腐敗や悪事に憤る若者で、最初は記者職を希望して入社しました。幸か不幸か、半身不随だった佐藤主幹の随行秘書となりましたが、最初はとんでもない仕事に就いてしまったと思いましたね。
主幹は激昂すると杖でガツンガツン机を叩くし、高速道路が渋滞するとロイヤルリムジンを勝手に降りて歩き出すし、自分は「18時以降は総理大臣の電話でも取り次ぐな」と言うくせに、朝の3時、4時に新聞広告で見た書籍を「買っておけ」と電話してくるし……6時には会社で会うのだから、そのときに言えばいいのに(笑)。
とはいえ、政官財の一流の方々との会合に同席できる機会は大変勉強になりました。「3年間だけ我慢する」つもりが結局、独立するまで22年間お世話になりましたし、主幹のおかげで今があると思っています。

 高杉良さんが週刊朝日で連載していた小説『濁流』を読むと、当時の様子がだいたいわかります。あの〈財界を牛耳る大物フィクサー〉は佐藤正忠さんがモデルとされているから。
尊徳 あくまでもフィクションですよ。主幹は誌上で、大企業のトップを名指して、「人殺し」「切腹せよ」なんて書く人ではあったけど、自分より弱い立場の人に対しては決してそんなことはしない。リーディングカンパニーなり経団連会長なり、そういう人しか批判しないという信念がありました。どのみち、今やったら名誉毀損ですけれども。
 ある意味、経済誌の黄金時代でしたよね。尊徳さんはその生き証人でもある。日本を動かす政治経済の舞台裏を知るところからのキャリアスタートですから、人脈の基盤が違います。
一方で、藤田晋さんや堀江貴文さんといったベンチャー系の企業人ともつながりが深いのも尊徳さんの強みですが、それより下の世代、最近の若手起業家についてはどう見ていますか。
尊徳 やはりSNS全盛の中、パワハラだなんだとハラハラハラハラなところでやってる子たちは、僕らみたいなウェットな感じはないですよね。もっとドライ。
 学生や若い起業家の話を聞いていると、小さくまとまっている感じがするんです。5億くらい稼いだら投資にまわしてFIREというのがゴール目標になっている。たしかにそれで食うには困らないけれど、世の中に貢献しようとか、何か人とは違うことや大きな発明をしようとか、そういった欲はない。
尊徳 最初はお金が目標でもいいとは思います。でも金って、そもそもは目的のための手段じゃないですか。手段が目的化していて、先がないから人間関係も深まらないのかなとは思うかな。
 それで本人が困っていないなら、別にいいんですけどね。何か自分一人ではできないような大きなことをしたくなったら、やはり仲間が必要になる。仲間がほしければ、信頼関係がなによりも重要になりますから。

聞き上手になり、
相手の興味あることを探る。

――人間関係を深めたいけれど、どうしていいかわからないという人には、どんなアドバイスをしますか?

 日本版のディープステートといわれるようなものは、中学、高校時代のネットワークでつながっていることが多い。社会人になってゼロからというのは、なかなか厳しい。
尊徳 地方出身だと特に、公立高校のネットワークが強い。
 そう。でも私は最近、新たなコミュニティの場としてスナック通いを勧めています。日本のスナックって独特の文化ということで、今、国内外で研究をしている文化人類学者が何人もいる。スナックって実はコンビニの数より多いんですよ。とりあえず5軒くらい飛び込んでみると、1軒くらいは自分に合う店がある。若い人もいます。ボトルを入れれば1回2000円くらいで飲めるから、そこで知り合いを増やす。人づきあいの訓練になるし、地方ならなおさら、地域の共同体の核に食い込んでいくのに有用ですよ。
尊徳 いわゆる「飲みニケーション」って侮れないですよね。そこでしか出ない話もあって。「これだからジジイは」って言われるから、あんまり言わないようにしているけど。
 杯を交わす重要性は聖書でも説かれていますから。
尊徳 友達とビジネスの人脈はまた違うけど、20代、30代であれば、とにかく聞き上手になれとよく言います。といっても、ただ漠然と当たり障りのない質問をしていてはダメで、「この人はどんな話に興味を持つのか」をずっと考えていた。そうして話を聞いていると、前のめりに反応してくれるポイントがある。それを逃さない。実際に自分は32歳で『経済界』の編集局長を任されて、一流の政治家や経済人に多くお会いする中で、「この人に可愛がられるにはどうしたらいいか」をものすごく考えてアプローチをしていました。

第三者の言葉で、
周りの見る目が変わる。

――距離感を誤ってしまったことはありませんか。

尊徳 そりゃありますよ。編集長だった頃、幻冬舎の見城徹さんに不義理をして、完全に怒らせてしまったことがあります。お詫びの手紙を書いても受け取ってもらえなかった。周囲の友人たちが「尊徳はそんな奴じゃないですよ」と、とりなしてくれたこともあって、独立の際には会社の名づけ親にもなってくださいましたが。
 人間関係というのは一対一だけではなく、周りの人たちとのつきあいで決まってくるところも大きいんですよね。「あいつは裏切らない」「あいつはこういう奴だ」と第三者が言ってくれたら、自然と周りの見る目が変わる。尊徳さんは自分でひけらかさないしね。
尊徳 元来は人見知りで、目立つの嫌なんです。YouTubeで番組(政経電論TV)なんてやっているからよく勘違いされるんですが、普段は僕、ぜんぜんしゃべらないんですよ。
 自慢話もしない。尊徳さんが独立して立ち上げた『政経電論』第1号のインタビューでは、現職だった安倍晋三首相が登場したんですよ。でもそういう交友関係も大きな声で言わない。安倍さん、電子媒体のインタビューに応じたのは初めてだったでしょう。
尊徳 そうですね。創刊号なんて、どんな内容になるかわからないのに。「よく出てくださいましたね」と言ったら「尊徳さんがやるならエロ本ではないでしょ」って。それはそうなんだけど。
 そして、大王製紙元会長の井川意高さんとのおつきあいも非常に深い。井川さんは非常に気さくで国際経済に関する造詣も深く、私もよく尊徳さんと3人で会っていました。
尊徳 そうそう。僕は話についていけなくて、すごい解釈をひたすら聞いていました(笑)。
 井川さんはだから交友関係もとても広かったんだけど、彼が2011年に特別背任容疑で逮捕されたとたん、それまで一緒に遊び歩いていた人間が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。でも尊徳さんは、井川さんが拘置所にいた3年2ヵ月の間も彼を支えて、栃木県の喜連川社会復帰促進センターに往復5時間かけて50回近く面会に行き、636通の手紙を出した。
尊徳 優さんはそのとき、「御曹司だから万一のことも考えられる。できるだけ一緒にいてあげたほうがいい」って心配してくれましたよね。本人はぜんぜんケロっとしていたけれど(笑)。僕自身はちょうど独立したばかりで、時間の自由もきくし、そんなに大変でもなかったんですよ。でも周りの人は、そういった行動を見て「あいつはすごい、信頼できる」と言ってくれていたようです。

 それに、尊徳さんは政治家、経済人にとって非常に際どい情報を間違いなく持っているにも関わらず、絶対におかしな振る舞いはしないという信頼がある。インテリジェンスの世界でいう「サード・パーティー・ルール」、第三者原則を守っている。誰かから聞いた情報を、情報元の許可なく拡散するようなことは決してしません。だからさらに情報が集まってくる。
尊徳 そうですね。嘘をつかないことと、約束を守ること。それは僕も仲間たちも共通していると思います。僕らは「次飯(つぎめし)」って言うんですけど。人と会って帰り際に「今度、食事でも行きましょう」って軽く言う人、結構多いでしょう。でも、そう言ってその後になんのアクションも起こさない人は信用できません。僕や信頼できる仲間はみんな、酒の席でどんなに酔っ払っていたとしても、言ったことは必ず守る。その気がない社交辞令は絶対に言わない。小さな約束を守れない人間とは、大きな約束なんてできないじゃないですか。
 まさにその通りです。外交でも、政治でも同じです。例えば鈴木宗男さんは、まだデジカメが普及していない頃、北方領土に行くときにポラロイドカメラを必ず持っていきました。現地で会った人との写真を2枚撮って、1枚その場であげるんです。カラー写真なんて珍しいからすごく喜ぶ。写真を撮って「送るよ」と言って、送ってこない人のほうが圧倒的に多いんですよ。実際、住所を確認してあとから郵送するのは大変でしょう。だからその場で渡す。同時に手元にも会った人の一覧表が残るわけで。なるほど、一級の政治家はこうやるんだなと学びました。
尊徳 結果として実現できなかったとしても、履行しようと働きかけをしたかどうかが大事なんですよね。信頼関係は、言葉ではなく行動で培われるもの。長いつきあいができるかどうかは、そういった信頼の積み重ねです。

佐藤 優 さとうまさる 作家。1960年生まれ、東京都出身。元外務省・主任分析官として情報活動に従事したインテリジェンスの第一人者。“知の怪物”と称されるほどの圧倒的な知識と、そこからうかがえる知性に共感する人が多数。第68回菊池寛賞受賞。近著に『サクッとわかる ビジネス教養 これからの世界の紛争』(監修)など。


佐藤尊徳 さとうそんとく 経済ジャーナリスト。1967年生まれ、神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年に経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌『経済界』の編集長も務める。2013年には22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌『政経電論』を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の“信念の貫き方”』。

撮影/野呂美帆 構成/藤崎美穂
スタイリング(佐藤)/森外玖水子