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 第1回のゲストは、『ピュ~ぴる』(11年)や『トイレのピエタ』(15年)の松永大司監督。
杉野 松永監督と会ったのは『トイレのピエタ』ですよね。
松永 あの作品はキャスティングにすごく悩んだんです。オーディションの後、杉野さんに電話して「ちょっと時間ありますか?」って、一緒にお酒に付き合ってもらった。
杉野 そうそう。でも何を話したかあまり覚えてない(笑)。
松永 実は僕も(笑)。でも黒澤監督のキャスティングの話などを聞けて「この方向でいいのかな」と決めることができた。
杉野 同じAという役でも、松永監督が選ぶAとほかの監督が選ぶAは、まったく違うと思うんです。その監督のテイストにあったキャスティグを提案するのが僕の役目ですから。それに松永組の役者はタフじゃないとね。監督、相当追い込みますから。オーディションでほとんどの子が泣いてたもんね。
松永 違います! あれは泣く芝居のオーディションだったからですって!(笑)

杉野 松永監督は、俳優から監督に転身したんですよね。どういう経緯でしたか?
松永 映画は好きだったんですけど、勉強は何もしていなくて。大学卒業を前に「映画の仕事に携わりたい」と思ったんですが、当時は映画の仕事=「役者」しか想像できなかった。舞台から役者の仕事をはじめて、2001年に矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』に出るんですが、その制作会社で2年くらい前から企画会議に出させてもらっていたんです。本が好きだと言ったら、あるプロデューサーに「じゃあ、何か企画を考えてみない?」と言われて。
杉野 役者をやりながら、企画を練ったりしていたんだ。
松永 毎週3冊くらい本を選んで「この本はこう映画化できるかも」と提案しました。『ウォーターボーイズ』も桝井(省志)プロデューサーと取材に行ったんです。そういった経験の中で、「あ、僕は映画に出たいんじゃなくて、作ることがやりたいんだ」とわかったんです。

杉野 大きな転換点だったんだ。
松永 桝井さんに相談したら、「俳優か監督、どっちかを選べ」と。それで「監督」と即答しました。
杉野 当時はもう『ピュ~ぴる』を撮り始めてたんですよね。
松永 芸術家のピュ~ぴるとは友達で「自分はいつ死ぬかわからないから私の生きざまを撮ってくれ」と言われたんです。いや、本人まだ元気でピンピンしてますけどね(笑)。それでなんとなくカメラを回し始めていた。監督になると決めたとき「自分のやりかたでこれを完成させてみよう」と思ったんです。結局完成までに10年かかったので、監督デビューは37歳と遅いんです。

杉野 ドキュメンタリーと劇映画を、両方を手がけている監督はあまりいないですよね。
松永 劇映画のプロットもずっと書いてたんですけど、実績がないからGOが出なかったんです。『ピエタ』のときも、やりたかった3つのアイデアをプレゼンしました。明治維新の話と、第二次世界大戦の話と、ピエタ。
杉野 ほか2つはまた壮大なテーマですね(笑)。
松永 このなかじゃ『ピエタ』しかないだろ!って(笑)。でも戦争ものはずっとやりたくて、次の目標なんです。

松永大司 まつながだいし 映画監督。1974年生まれ。俳優として『ウォーターボーイズ』などに出演し、2001年頃から監督としても活動。代表作に、ドキュメンタリー『ピュ~ぴる』や、RADWIMPS・野田洋次郎の俳優デビュー作となった『トイレのピエタ』など。新作は2018年秋公開予定。

杉野 原作ものの声もかかる?
松永 何度かお話はいただいたんです。ただ僕は脚本をいじらせてもらえないとダメなので。本当はなんでもやってみたいんです。でも、三池(崇史)監督や瀬々(敬久)監督のような経験量やレンジの広さにはほど遠くて。
杉野 僕は監督にはレンジの狭いままでいってほしいな。
松永 ホントは、「キラキラ系」(注・10代の胸キュンな恋愛を描いた作品)もやりたいんです。
杉野 オーディションだけで2年かかりそう(笑)
松永 もう役者たちがキラキラじゃなくなってたり(笑)。

松永 でも僕、意外といろんな作品できるんですよ。実は特撮の監督もやっていたんです。テレビの「戦隊モノ」。
杉野 ええ~!?
松永 最初は右も左もわからず、打ち合わせで人形を渡され、「監督、どんな振り付けで戦いますか?」「え?え?」って。
杉野 あははは(笑)。
松永 僕の回はドラマを深く描くことにしたんです。意外に評判がよくて、最終話近くのエピソードは当時、2ちゃんねるで「神回!」とか書かれました。
杉野 特撮もできるとは知らなかった。
松永 だから『キック・アス』みたいのもやりたいんです。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の協奏曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。公開中の『リバーズ・エッジ』や、5月4日(金・祝)公開の『ラプラスの魔女』にも参加。

杉野 どんどんレンジが広がりますね。でも、特撮でもキラキラ系でも「松永組」の作家性はきっと残るんだと思う。
松永 そうじゃないと、監督は作品を守れないですからね。戦隊ものを撮っていたときに「視聴者は君の個性が見たいわけじゃない、ヒーローを見たいんだ」と言われたこともあったんです。それでも脚本に納得できないときは我を通しました。僕はひとつの作品に、商業性と作家性のどちらも入れることを諦めたくないんです。
杉野 大事なことですよ。次の作品は秋公開ですよね。
松永 はい。ものすごく大きな挑戦をした作品です。楽しみにしてください!

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