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杉野 坂下監督は大阪芸術大学と東京藝術大学大学院を卒業されていますが、高校時代から映画監督を志していたんですか?
坂下 もともと映画は好きだったんですけど、僕、高校が通信制だったんですね。
杉野 そうなんですね!
坂下 月1回くらいしか授業がなかったので、その頃からバイトでお金を貯めて、自分の部屋用にテレビやビデオデッキを買って、よく映画を見ていたというのが下地にあると思います。
杉野 高校卒業後は大阪芸大に入学されて。
坂下 通信制って中学校の勉強の繰り返しのようなところもあるので、自然と成績も良くて、大阪芸大に推薦入試枠で行けたんですね。推薦だと学科試験もないので、これはいいな、と。
杉野 大学ではどんなことをされたんですか?
坂下 映像学科は1学年で150人くらいいたんですけど1、2年は共通コースなんですね。3、4年になるとコース分けがあって、僕は映画コースに進み、短編などを撮っていました。

杉野 そもそも、なぜ高校は通信制を選ばれたんですか? 人付き合いが面倒くさかった?
坂下 そうですね。なんとなく他の人のノリに馴染めなかったというのはあります。
杉野 ただ、大学では少人数とはいえチームで動かなければならなかったと思いますが。
坂下 あまり深く考えていなかったのかもしれないですけど、映画という共通の話題があったので、社交性なり、社会性なりは少しずつ身についていったと思います。それでも今の10分の1くらいしかコミュニケーションを取っていませんでしたが(笑)。
杉野 大阪芸大の後が東京藝大に進まれて。
坂下 はい。大阪芸大では特に就活もしていなくて、卒業間近に大学の職員募集を見て、とりあえずこれだな、と。学科の研究室の助手で「副手」というんですけど、それを2年間やっていました。「副手」にも3年間という期限があって、次はどうしようかと考えたときに、映像関係だったら東京かなと思いまして。

杉野 監督は広島のご出身ですよね。
坂下 そうなんです。大阪芸大のときは大阪で一人暮らしをしていて、東京へ行くにあたって何か理由がほしかったというのはあります。親に指摘されたときに「大学に行くから上京する」と言えるな、と思ったんです。キャンパスは横浜でしたが。
杉野 東京藝大は受験も大変ですよね。
坂下 3次試験まであって、これはしんどいなと思いました。
杉野 そして、入学してからは受賞ラッシュ。
坂下 修業期間が2年と短かったので、とにかく映画をたくさん撮ったんです。作品が論文的な扱いになるので。

杉野 『ビートルズ』は実習課題で撮られたもので、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で受賞する。その他にも在学中に『らくごえいが』の一編「猿後家はつらいよ」や『神奈川芸術大学映像学科研究室』を撮られましたが、卒業後はどうされようと思っていたんですか?
坂下 卒業間近くらいから、作品を映画祭に出しはじめて、その結果を少し待ってみようと思っていました。同時に知り合いに声をかけてもらって、ちょこちょこVPやテレビなど映像関係の仕事を手伝ったりしていましたね。

坂下雄一郎 さかしたゆういちろう 映画監督。大阪芸術大学卒業後、東京藝術大学大学院映像研究科に入学。大阪芸大で大森一樹監督に、東京藝大で黒沢清監督に師事。主な監督作品に『神奈川芸術大学映像学科研究室』『エキストランド』『東京ウィンドオーケストラ』『ピンカートンに会いにいく』など。

杉野 その後の作品はどういう経緯で撮ることになるんですか? たとえば『東京ウィンドオーケストラ』などは?
坂下 あの作品は松竹ブロードキャスティングが映画のプロジェクトを始める流れがあって、声をかけていただいた感じです。
杉野 その前に公開された『エキストランド』も2018年の『ピンカートンに会いにいく』も、基本的にはオリジナルですよね。
坂下 結果的には。こだわっているわけではないんですけど、どうしてもオリジナルは貴重な機会になるので、それは優先したほうがいいな、という思いはあります。

杉野 監督はドラマの演出もされていて、そちらはオリジナルではないことがほとんどですよね。
坂下 そうですね。基本的にはメインの監督さんがいて、僕はサブの立場として携わることが多いので、基本的にはあまり独自の色を出さないほうがいいと思っています。
杉野 確かに、すでに出来上がっている世界ありきで、「○話と○話を撮ってください」と依頼が来るわけですからね。
坂下 役者さんも1話~3話くらいをすでに撮っていたりするので、僕が入る前から空気ができていることは多いですね。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『窮鼠はチーズの夢を見る』『浅田家!』『アンダードッグ』に参加。

杉野 監督とは次回作でご一緒させていただきますが、今後、こういう題材の映画を撮りたいというのはあったりしますか?
坂下 いろいろなことが起きて、価値観も変わっていく中で、社会的な状況を反映させた映画を作りたいというのは少し思っています。もちろん、そういうものとは関係のない、楽しむだけの映画というのは絶対に必要なんですけど、一方で、どんな映画にも今起きていることについて考えることのできる部分はあると思うんです。僕の映画は、それが強めに出たほうがいいんじゃないかと考えています。
杉野 社会派とまではいかないけど、そういう映画を撮ってみたいということですね。楽しみにしています。ありがとうございました。

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