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 今回は、来年1月18日(金)に最新作『チワワちゃん』の公開が控える二宮健監督にお越しいただきました。
杉野 連載5回目にして、最年少監督の登場です。いま26歳でしたっけ?
二宮 はい。杉野さんに最初にお目にかかったときは24歳でした。
杉野 プロデューサーに紹介されたとき「天才がいる」って言われたんです。で、監督の卒業制作『SLUM-POLIS』を観せていただいて。やっぱり、すごいんですよね。
二宮 いやいや! 恐縮です。
杉野 高校生の時にはもう撮ってらしたんですよね。
二宮 そうですね。幼稚園の頃に父親が『スター・ウォーズ』とかを観せてくれたことが、たぶん始まりだったと思うんですけど、小学校の時にはレゴブロックで映画を作ってました。
杉野 ええ!?

二宮 自分の手で動かして、片手で撮ってました。編集という手段を知らなかったんで、ビデオテープ1本分2時間くらい撮って、ラスト5分くらいになったら長い紙に適当に好きなハリウッドスターの名前書いて「エンドロール」って(笑)。
杉野 なるほど(笑)。
二宮 で、中学1年生の時に編集を始めたんです。その頃から“人間”を使うようになって。
杉野 レゴブロックから人間に(笑)。
二宮 高校の時に友達と一緒に映画撮って、高2で映画甲子園というコンテストに応募して。
杉野 その『試験管ベイビー』で監督賞ですもんね。当然のごとく大学でも映画を目指されて。
二宮 僕、大阪で、とにかく東京に出たくて、日大芸術学部の映画学科監督コースを受験したんです。学科試験は十分に合格点をとったんです。でも面接と小論文で完全に落とされました。

杉野 面接でよっぽど、なにかやっちゃったとか?
二宮 いや、僕すごく真面目な姿勢で臨んだはずだったんですけどね。いま思うと、映画もずっと撮ってるし、みたいな「透けて見えるおこがましさ」があったんですかね。でも僕、中学校は第一志望だった進学校を受験して合格したんですけど、なんか合わなくて中2で退学しちゃって、地元の中学に通いなおしたりしてるんです。なので、第一志望とは常々縁のない10代でした。
杉野 なかなか波乱万丈なんですねえ(笑)。それで大阪芸術大学へ進まれて、卒業制作で『SLUM-POLIS』を。けっこうな大作ですよね。

二宮 「田舎の学生の自主映画」という予定調和を飛び越したかったというか、とにかくパッと見て「すごくない?」って分かりやすくプレゼンできるものを作りたかったんです。卒業後、上京するための”武器”にもしたかった。それにちょうど16㎜フィルムからデジタル作品での提出がOKになった時期だったんです。なのでフィルム分の制作費を全部、美術費につぎ込んで。でも、結局単位が足りなくて、僕卒業できてないんです。
杉野 卒業制作なのに(笑)。

二宮 健 にのみやけん 映画監督。1991年生まれ、大阪府出身。大学の卒業制作『SLUM-POLIS』が国内外の映画祭で話題に。代表作に『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』他。最新監督作の『チワワちゃん』が2019年1月18日(金)に公開。

杉野 で、『SLUM-POLIS』を持って上京。’17年に初の商業映画作品『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』を監督。そして、『チワワちゃん』。順調ですね。
二宮 いやいや、「順風満帆なんですよ」って顔をしたいんですけど、しんどい思いもいっぱいしてきました。キャストもロケ場所も全部決まっていたのに、クランクイン直前に企画が飛ぶという経験も、もう2、3回しましたし。
杉野 あれはキツいですね。規模の大きい作品でもありますね。
二宮 「もう映画を撮影できないんだ」と思うこともありました。

二宮 『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』の企画も「いつなくなってもへこまないように」と思ったけど三度目の正直みたいな感じでやっといけたんです。
杉野 商業映画と自主映画、どちらもやられていますが、監督にとって2つは若干違うんですか? それともクロスしてる?
二宮 ポリシーもないんですけど、やっぱり自主映画が捨てられないんですよ。それに僕「SHINPA(シンパ)」という定期的に行っている自主映画の上映イベントの主宰をやっているんです。映画監督10人くらいが集まって。あと、商業映画でも僕はたぶん、好き勝手にやらせてもらってるほうなんですよね。『チワワちゃん』もすごくやりたかった原作だし。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『記憶にございません!』『チア男子!!』『チワワちゃん』などに参加。

二宮 本当の意味の「職人的な監督の仕事」って、たぶんまだできてないんだな、と思ってるんです。
杉野 『チワワちゃん』は漫画家・岡崎京子さんの原作ですよね。
二宮 自分が絶対に映画化したい! と惚れ込んでいた作品です。
杉野 監督って商業映画か自主映画か、原作ものかオリジナルか――という垣根もなく、自由な感じがしますね。
二宮 これから葛藤があるのかもしれないけど、結局いい作品作るのが一番いいですもんね。「自分はこれだ」と決めないで、作りながら「これが作りたかったんだ」と、わかるのもいいかなと思うんです。
杉野 今後もますます、楽しみにしています。

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