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杉野 大森監督は俳優もしていらっしゃる。実は僕、俳優として監督にオファーをしているんです。でも断られていまして。
大森 ホントですか!?(笑)俺、俳優はホント好きじゃないんです。事務所にも「セリフの多い役はやりたくない」って。
杉野 だからですか!(笑)。映画を始めたのは、高校時代?
大森 いえ、大学からです。高校時代はむしろ「表現」することを避けていて、野球や空手をやってました。父親(麿赤児さん)の存在が逆に影響していたんだと思います。家に帰ってこないし、顔怖いし、舞踏もよくわかんないし。弟(大森南朋さん)のほうが高校時代からバンドやったりして文化的でした。俺はようやく高校卒業したくらいに、ちょっとずつ見方が変わってきた。ちょうど阪本順治監督の『どついたるねん』が公開されて、それを観て父親の仕事を受け入れられるようになったかな。
杉野 それで大学で映画サークルに。
大森 入ってすぐ映画を作ることになって、そこからですね。

杉野 当時から役者もやっていたんですか?
大森 大学時代に木野花さんのワークショップに通って演技の基本を学んだんです。渡辺真起子とかと一緒でした。でも演じるより、やっぱり映画を作ることが楽しかったんですよね。
杉野 大学を卒業されて、すぐ助監督に?
大森 いや脇役をちょこちょこやっていて、そのうち阪本順治監督の『傷だらけの天使』(97年)に出ることになったんです。監督に「俺、裏方に行ってみたいんですけど」って言ったら、そのまま次のロケに連れて行ってくれた。そこから助監督になりました。
杉野 そうだったんですね。
大森 当時、深作健太(監督)とかが一緒で。彼と助監をやったときは柄本明さんに「お前ら、助監なのに親父だけ豪華じゃねえか!」とかいじられました。
杉野 あははは。

大森 あのころ助監督の仕事はすごくいっぱいあったんです。でも俺は生意気にも、自分の好きな監督としかやりたくなかった。井筒和幸監督とか。そのうち、周りがどんどん監督デビューし始めて、あのころは辛かったですね。そんなとき荒戸(源次郎)監督が『赤目四十八瀧心中未遂』(03年)を一緒にやらないかと誘ってくれたんです。4年間くらいやって、その中で初監督作『ゲルマニウムの夜』(05年)がやっと生まれてきた。
杉野 荒戸さんとの出会いは大きかったんですね。
大森 でかかったですね。すごく可愛がってもらいましたし、自分でも、ここで勝負かけないと、もうダメだろうなと。

杉野 その後は順調に?
大森 いや、4年間まったく仕事がなかった。でも、ずっと脚本書いていたんです。あれは自分でも力がついた時期だったと思います。偉かったなあ、俺!(笑)。その一本が『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10年)になって。
杉野 物語はすぐに浮かぶほうですか。
大森 うーん、箱書き(注・大きな場面を作って、つなげていく方法)だとダメで、キャラクターを先に作って「こいつは、こうするんだろうなあ」と、動かしていくほうですね。

大森立嗣 おおもりたつし 映画監督、俳優。2005年に『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。近年の監督作に『セトウツミ』『光』『日日是好日』『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『タロウのバカ』がある。

杉野 だから監督の作品はいつも俳優がハマっているのかな。
大森 俺は俳優を圧倒的に信用するんです。役に当てはめるんじゃなく、その人の言い回しが、その役の言い回しになる。その人がやった役を俺がもらう感覚です。そうすると俳優さんが安心して自由になれるんですよね。
杉野 俳優経験も影響してます?
大森 少しはあるかもしれない。俺は脇役が多かったけど俳優として現場に行くと、「周りはみんな敵!」みたいな感じなんですよ。「芝居できんのか、こいつ」みたいな。自分の現場ではそういうのをなるべくなくしたいんです。

大森 もちろん現場に緊張感は必要だけど、思ったことを言えないような環境は、モノづくりの邪魔をしてると感じる。荒戸さんはいつも「精神はアマチュアで技術はプロがいい」と言ってた。その精神をちょっともらっています。
杉野 麿赤児さんや南朋さんを俳優として起用されてますね。
大森 最初に『ゲルマニウムの夜』に親父に出てもらったときは緊張したな。助監督時代の俺を認めてくれてない、という気配も感じてたし、しかも映画の最初のセリフが「万引きはいけないよ」(笑)。南朋は最初から味方、という感じでしたね。『ゲルマニウムの夜』でも「お前、あの役はな、スネオだよ」と説明したら、すぐに「わかった!」って。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『最高の人生の見つけ方』『108海馬五郎の復讐と冒険 』に参加。

大森 それに南朋は俳優として飲み込みかたが深いし、素直。今は頭で考えちゃう俳優さんがいっぱいいるけど俺はそういう人が苦手で。
杉野 わかります。「いいから、やってみなよ」って。
大森 そう! 俳優は肉体を通す仕事で、俺たちは頭で考えたことが現場で俳優の体を通して、どう化学変化するかが見たいんですよね。でも俳優が考えすぎちゃうと「う~んとりあえず、一回やってみてくれませんかねえ」って。実は年配の役者さんのほうが素直にやってくれるんですよ。頭で考えちゃうのは、若い人に多い。でも南朋もいろいろ苦労してそれを身につけたのかな。きっといい先輩方に「とにかく、やりゃあいいんだよ」と言ってもらってきたんでしょうね。

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