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杉野 西海監督は、篠原哲雄監督や三池崇史監督の助監督をされていましたけど、最初にお会いしたのも三池監督が実施している演技ワークショップの「役者の穴!」ですよね。
西海 はい、6年くらい前でした。僕が参加者の皆さんに演技をつけているときに側で見ていたのが杉野さんで。後から黒澤明監督の助監督をされていた方だと聞いて、僕は黒澤作品が大好きだったので「えーっ!」と驚いてしまって。
杉野 その後は「ガールズ×戦士シリーズ」でご一緒させていただいているんですが、いろいろなお話させていただいている割には監督のことをあまり知らなくてですね。映画を撮ってみたいと思うようになったのは、高校生くらいですか?
西海 映画にハマったのがそのくらいです。僕は山口県柳井市出身なんですけど、通っていたのがバリバリの進学校で、高校2年生までは剣道に打ち込んでいたんですね。ただ、精神的に辛くなり、辞めてしまって、そこからよく映画を観るようになったんです。レンタルビデオも出てきた頃でしたから。

杉野 進学校だと勉強も大変ですよね。
西海 真面目に進学校の枠にハマろうと頑張ってはいたんですけど、剣道を辞めた瞬間から、もう少し好きな生き方をしてもいいんじゃないかと思ったんです。だから、映画監督になりたいわけじゃなかったんですけど、授業が面白そうだったので大阪芸術大学の映像学科に進みました。
杉野 どんな大学生活だったんですか?
西海 僕が中島貞夫監督のゼミを取っていて、あるとき中島監督が「誰かアルバイトする奴いないか?」と言うので立候補したんです。そこが元宝塚映画のスタッフが集まった撮影所で、子供ドラマ番組のカチンコ打ちを数ヵ月やりました。厳しかったですけど、勉強になりました。
杉野 卒業後は就職されたんですよね。
西海 東京の映像制作会社に。ただ、僕の部署が進学塾の授業風景を衛星で全国に配信するところで。2年くらいADとして働くんですけど、結局辞めてしまうんですよ。

杉野 それは映画から遠ざかってしまいそうだったから?
西海 そうなんです。会社を辞めた頃、雑誌に「ピンク映画界は人材を求めている」みたいなことが書いてあって。僕も一般的な映画よりも仕事があるのかなと思い、番号を調べて大蔵映画という映画会社に電話してみたんです。そうしたら「明日、現場があるから来て」って。正直、大丈夫かなと思いました(笑)。
杉野 明日からはすごい!
西海 大変な現場でした(笑)。僕はそこでベテランの監督についたんですけど、あるとき先輩から「Vシネマの現場でサードを探しているんだけど、お前そっちやってみるか?」と言われて。

杉野 それがエクセレントフィルムズですか?
西海 はい。そこで三池監督の『黒社会』シリーズのプロデューサーと出会い、『DEAD OR ALIVE 2 逃亡者』や『殺し屋1』などの現場につくんです。
杉野 まさに運命の出会いですね。
西海 エクセレント以外では篠原監督の作品も多かったですけど、三池監督の作品しかやっていない時期が2年ほどありました。当時、三池監督が携帯を持たないものだから、プライベートの用事が僕にかかってきた事もありました(笑)。

西海謙一郎 にしうみけんいちろう 映画監督。1969年生まれ、山口県出身。1995年よりフリーの助監督となり、黒沢清、滝田洋二郎、篠原哲雄、長崎俊一、三池崇史監督に師事。『ケータイ捜査官7』で監督デビュー。近作に『チェリーボーイズ』『田園ボーイズ劇場版』「ガールズ×戦士シリーズ」など。

杉野 あははは。そこから監督デビューをされるわけですよね。
西海 2008年に『ケータイ捜査官7』という三池監督が製作総指揮を務める1年間のドラマがありまして、助監督をやってほしいと言われたんです。ただ、僕も30代後半になっていたので、欲張って「監督をさせてもらえませんか」とお願いしたんですよ。それで何本か監督をして、以降は深夜ドラマの演出や映画のメイキングなどで忙しくさせてもらって。
杉野 『チェリーボーイズ』につながっていくわけですね。
西海 あれは運が良くて。僕、自分で出版社に電話したんですよ。

西海 もともと僕が原作の古泉智浩さんのマンガが大好きで、出版社に連絡したら、すでに別の人に映画化の権利を押さえられていたんです。でも、それが知り合いのプロデューサーで、聞いたら企画が浮いていると。「もう脚本はあるからやってみる?」と言われて、すぐに「やります!」と返事をしました。その脚本が今をときめく松居大悟さんだったんです。
杉野 そうだったんですね。
西海 キャストも林遣都くんが童貞の役ですけど、やってくれることになって。僕なんかは無名ですから、林くんが決まったことで、池田エライザさんや前野朋哉くんが集まってくれて、おかげさまで一風変わった作品ができあがったと思ってます。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『妖怪大戦争ガーディアンズ』『異動辞令は音楽隊!』に参加。

杉野 でも監督が出版社に電話をかけなかったら、そのままだった可能性が高いわけですよね。その行動力はすごいですよ。
西海 動いてみるもんだなと思いました。『チェリーボーイズ』は東映ビデオが製作なんですけど、これも三池監督の『ゼブラーマン2』のスピンオフを撮ったときの縁があってのことなので、やれることはやっておくべきだなと。
杉野 作品を通じて関係性ができていくわけですからね。
西海 『ケータイ捜査官7』でデビューしたとき、三池監督から「これからはとにかく来た仕事は受けたほうがいい」と言われて、低予算でもなんでも、頂いた仕事は断らないようにしようと思ったんです。それが今につながっている気がしますね。

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