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杉野 佐藤監督は、お父様が『新幹線大爆破』や『男たちの大和』の佐藤純彌監督で、僕も『おろしや国酔夢譚』で丸1年ご一緒させていただきました。映像の道に進むにあたって、お父様の影響はありましたか?
佐藤 影響は大きかったですね。僕、小学生の高学年くらいの頃から映画監督になりたいと思っていたんですよ。
杉野 そんなに早くから。
佐藤 はい。小さな頃からよく大泉の撮影所に連れて行ってもらって、映画の現場を何度も見ていたんですね。すごく活気にあふれていて面白かった。ただ、父は自分の仕事しているところを見せてくれなかったので、他の監督の撮影現場をよく見学していました。
杉野 そうだったんですか。
佐藤 たぶん恥ずかしかったんだと思います。初めて父の撮影現場を見たのは、2000年代の『大和』のときでしたから。

杉野 お父様はドラマの演出もされていましたよね。
佐藤 『キイハンター』に携わっていたので、僕も小学生のときに毎週観ていたんですけど、観ていくうちに、だんだん面白い回とそうでもない回があることが分かってくるんですよ。この違いはどこからくるのかなと思いはじめて、父が持ち帰った家の中に転がっている台本を読んでみるんですね。そうすると、台本が良いのに面白くなかったり、逆に台本はつまらないのに面白かったりすることがある。その差は監督にあるんだろうなと思い至りまして、そこから監督という仕事に強く興味を持つようになったんです。
杉野 実際に映画監督を目指して、動き出したのはいつですか?
佐藤 父の持っていた8mmカメラで自主映画を撮ったのが高校生の頃でしたね。大学は早稲田の文学部に進んで、映画サークルに入りました。映画監督になるにはどうすればいいかを考えたときに、文系に進んで映画会社かテレビ局に入るのが近道かなと思ったんです。

杉野 早稲田の文学部は出身者に映画関係の方が多かったですよね。映画監督になるまでを逆算して進路を決められたんですね。
佐藤 そうなんです。ちょうど五社英雄さんがフジテレビで映画を撮っていた時期で、これはテレビ局でも映画を撮らせてもらうチャンスが巡ってくるかもしれないと思って、卒業後は日本テレビに入社したんです。
杉野 入社後はすぐ映像部門に配属されるものなんですか?
佐藤 本当は、映画を撮るためにドラマの部署へ行きたかったんですけど、最初は朝の情報番組に配属されましたね。2年間携わった後にドラマ部門へ異動できたので、ラッキーでした。

杉野 まずはADからですか?
佐藤 はい。それから26歳で演出する機会が回ってきまして、そういう意味では恵まれていました。一方で、実力が伴っていないのに結果を出さなければいけないので、厳しさはありましたね。
杉野 そこからはヒットドラマを次々と生み出されて。当時で年にどれくらい撮られていたんですか?
佐藤 一番多いときは2年間で5クール……3クール連続というのも何回かやったことがありました。

佐藤東弥 さとうとうや 映画監督、演出家。1982年の自主映画『ドリームマスター』でPFF入選。日本テレビのドラマディレクターとして『金田一少年の事件簿』『ごくせん』『14才の母』『家政婦のミタ』『ST』など数々の作品を手掛ける。映画監督としての代表作に『ガッチャマン』『カイジ』シリーズなど。最新作の『奥様は、取り扱い注意』が3月19日に公開。

杉野 できるものなんですか?
佐藤 それこそ昔の日本映画の現場と同じくらいのスケジュール感かもしれません。『マイ★ボス マイ★ヒーロー』『14才の母』『ハケンの品格』なんかは完全に繋がっていましたから。
杉野 そして、2009年頃から『ごくせん』や『カイジ』などの映画を手掛けられていく。
佐藤 企画が成立して公開したときには50歳になっていました。もともと僕の中で映画とドラマはシームレスだったものですから、連続ドラマが面白くて夢中になっていたら、いつの間にか40代が過ぎていた感覚です。

杉野 映画とドラマの撮る上での違いなどはありましたか?
佐藤 そうですね、今はドラマもシネカメで撮っていますし、照明の量も変わらない。演出方法も大きな違いはないと思います。ただ、かかる時間に関しては、ドラマは1話1時間だとしたら、台本が上がって撮影して編集が終わるまでせいぜい3週間。それを1クール3ヵ月半くらいで仕上げてしまう。でも映画は2時間弱のものを半年間くらいかけて作業しているので、最初は戸惑いがありましたね。今は楽しめていますが。
杉野 最新作は、僕もご一緒させていただいた『奥様は、取り扱い注意』(3月19日全国公開)です。こちらは連続ドラマからの映画化ですよね。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『奥様は、取り扱い注意』『犬部!』に参加。

佐藤 はい。ドラマから映画化されるものを観に来てくれるのは、基本的に連ドラを楽しんでくれていた人たちなので、その期待を裏切らないようにしようと思っています。みなさんが愛してくれたキャラクターや世界観などは守るように心がけていますね。期待値も高いと聞いていまして、その期待に沿う出来になっていると自負しています。
杉野 非常に楽しみです。その後は?
佐藤 ドラマも映画も両方やっていきたいですね。映画に関しては、これまでありがたいことに予算規模がそこそこ大きいものをやらせていただいたのですが、逆にもっといろんなサイズのものに挑戦してみたいと思っています。

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