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杉野 監督とはよくご一緒させていただいて。『ローレライ』もですが、古いところでは僕が助監督をしていた黒澤明監督の『乱』のとき、監督がお城を燃やしに来ていたという。
樋口 当時、「大平特殊効果」という火薬屋さんでアルバイトしていたんです。
杉野 高校を卒業してすぐに?
樋口 はい。1984年の『ゴジラ』が9年ぶりに復活すると聞いて「歴史的瞬間を目の当たりにしたい!」と。叔母が東宝で仕事をしていて、中学くらいから撮影所に出入りさせてもらっていたから、そのうちに仕事をすることになっちゃった。本当は火薬屋さんになりたかったんです。その人にしか出来ない技みたいなものにすごく憧れていて。でも、いろいろあって最後にたどり着いたのが東宝の特殊造形部。撮影中にゴジラの着ぐるみを脱いだり着せたりする役です。でも、ここでの経験が監督への道になりました。
杉野 というと?

樋口 『ゴジラ』の特撮って、基本的にゴジラが歩いているだけだったんですよね。来る日も来る日もいろんなセットを歩く、壊す、歩く、壊す、の繰り返し。その間、みんながセットを飾ったり、監督がカメラ位置を確認したりしてる中、僕は人の入っていないゴジラの着ぐるみを支えてなきゃいけない。それが良かったんですよ。定点観測みたいにして「一つのカットができるまで」を見てたわけです。それで映画のこと全部分かるんじゃないかなって勘違いして(笑)。
杉野 なるほど。
樋口 でも出来上がった映像を見て、正直「あれっ?」て思ったんです。目の前で見ていた時のほうが、迫力があった気がする。そんなことを先輩に言ってグーで殴られたり(笑)。
杉野 あはははは。
樋口 でも同世代で飲んだりすると、やっぱり同じような意見のやつがいるんですよね。「もっとこうすればいいじゃん」と。それで自分で撮りたくなったんです。

杉野 特撮パートを最初に担当したのは?
樋口 森田芳光監督の『未来の想い出』です。台風の中にジャンボジェット機が入って墜落するシーンをミニチュアで撮ることになりました。当時の日本の映画界って特撮に対しての信頼感がまるで無かったんですよ。たぶん、それは僕が最初にゴジラの現場で感じたものなんですよね。作る側も「俺たちが出来るのはこれ止まりだろう」みたいな。それを払拭したくて、いろいろ模索して作ったテスト版を見せたら、ベテランのカメラマンが「ひぐっちゃん! あの感じで頼むよ」って(笑)。少しは認められたのかな、と感じた瞬間でした。

杉野 そして『ガメラ 大怪獣空中決戦』へ。
樋口 あのときは自分から「やらせてください!」と手をあげました。基本、積極的に自分で動くのは嫌なんですけど、あの時は「ここでやらないと」という気持ちがあった。でもやる気満々で始めたら、全然お金がないんですよ。
杉野 ははは。でも結果は大ヒットですから。
樋口 1ヵ月半くらいスケジュールが遅れてますから。今ならクビですよ。おわびを考えていたけれど、あれ? よかった? 皆さんありがとうございます、みたいな(笑)。

樋口真嗣 ひぐちしんじ 映画監督、特技監督。1995年に『ガメラ 大怪獣空中決戦』で特技監督を務める。主な監督作に『ローレライ』『日本沈没』『のぼうの城』『進撃の巨人』など。『シン・ゴジラ』では監督と特技監督を担当。2021年に最新監督作『シン・ウルトラマン』が公開。

杉野 そしていよいよ『ローレライ』で人を使ったお芝居を。
樋口 打ち砕かれました。僕はアニメもやっていたし、実写でも絵コンテで飯を食ってる時代が長かったんです。だから人にお芝居をさせたとき、絵コンテと現実の齟齬に苦しみました。「絵コンテの都合でこう動いて欲しい」なんて役者に絶対に言っちゃだめなんですよ。「俺、芝居のことなんて何も分かってなかった!」って。
杉野 それは大変でしたね。
樋口 絵の力で押し切れるものじゃない。芝居をきちんと作ってから、それを絵にしていくんだと学びました。

杉野 庵野秀明監督とはどうやって出会われたんですか。
樋口 僕が『ゴジラ』をやっている時、彼は大阪でクオリティの高い自主映画を撮っていたんです。知り合いに紹介されて、「手伝ってよ」と言われて『ゴジラ』の撮影のあと、自主映画に入り込んじゃった。その後、彼らが東京に出てアニメを作ることになって「樋口くんも来る?」って。それがガイナックスになったんです。ただアニメは好きだけど、自分より絵が上手い人はいっぱいいる。やっぱり実写がいいな、とガイナックスを辞めたんです。でも『ガメラ』が始まっても『エヴァンゲリオン』を手伝ってたり、特撮とアニメの二毛作みたいな感じでやっていましたね。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『シン・ウルトラマン』『カイジファイナルゲーム』に参加。

杉野 『のぼうの城』や『シン・ゴジラ』もヒットしましたよね。
樋口 でも、恋愛映画とか全然話こないですからね。いいなー、三木(孝浩)くんはキラキラした映画を沢山撮れて、みたいな(笑)。
杉野 監督も撮りたいですか? 青春系の映画。
樋口 いや…実は良いお話をいただいたこともあるんですが、高校生の気持ちに寄り添うのにパワーを使って、原作を読むだけでぐったりしてしまいまして(笑)。恋愛に反対する教頭に感情移入しちゃったり(笑)。三木さんの心の中にいる乙女が僕も欲しいですね(笑)。
杉野 (笑)。監督の真骨頂『シン・ウルトラマン』、楽しみにしています。

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