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杉野 監督とは2016年の『映画 妖怪ウォッチ』で初めてお会いして、三池崇史監督が総監督を務める少女向け特撮ドラマ「ガールズ×戦士シリーズ」でもご一緒させていただいていますが、キャストの中にはお芝居が未経験の子もいますよね。演技をつけていく大変さみたいなものはありますか?
横井 いや、それがとても面白いんですよ。逆に演技をしてこなかった子だからこそドキッとさせられることもあって、新鮮なんです。僕はもともと青春映画が好きで、昔から男の子が主人公の青春映画をよく観ていたんですけど、以前に撮った黒川芽以さんと桐谷美玲さんの『ドロップ』という作品で「女の子の青春ものもいいな!」と思ったんですね。なので、「ガールズ×戦士シリーズ」も楽しく撮らせてもらっています。
杉野 どんな青春映画をご覧になっていたんですか?
横井 一番好きだったのは、中学3年生のときに「日曜洋画劇場」で放送していた『アメリカン・グラフィティ』ですね。あの映画を観て「こういうのを作ってみたい」と思ったんです。

杉野 監督は岐阜のご出身ですよね。映画監督になるために東京に?
横井 地元に「東京に行きたい」と言っていた友達がいて、「じゃあ僕も」という感じで高校卒業後に東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)へ入ったんです。ただ、友達は彼女から「行かないで」と言われたらしく、僕だけが上京することになってしまって(笑)。
杉野 なんと(笑)。そこで映画を学ばれるわけですね。専門学校は2年制ですか?
横井 そうですね、2年でした。杉野さんもご存知だと思うんですけど、2019年に亡くなった渡辺武という監督と同期だったんですよ。
杉野 ああ、そうだったんですね。
横井 卒業制作は渡辺武が監督で、僕がスタッフだったんですけど、別の人が書いた脚本がつまらなくて、2人で面白くなるようにずっと試行錯誤していました。そのやり方というのは今もほぼ変わらなくて、彼とのそういう時間が僕の映画監督としてのベースになっていると思います。

杉野 途中で変わることなく、ずっと監督志望で?
横井 はい。映画って監督の名前が最後に出てくるので、監督が一番偉くて自由にできると当時は思っていたんですね。そんなことはないんですけど(笑)。実際の映画の現場に携わるようになったのは、やっぱり渡辺武がきっかけなんですよ。彼は卒業する前からピンク映画の仕事を始めていて、そのツテでいろいろと僕も仕事をするようになって、人が足りないからということで、松竹の助監督のチームに呼ばれたんです。
杉野 専門学校からそのまま現場に入ったんですね。

横井 サードを3年、セカンドの助監督を3年やりました。チームに入った当初は先輩からよく怒られましたけど、本気で辞めようと思ったことはなかったですね。撮影が終わったら飲みに連れて行ってもらったりして、話も面白いし、気のいい人たちなんですよ。
杉野 当時は仕事も次から次へという感じでしたよね。
横井 多かったですね。当時は現場だけでなく、作品の仕上げまで付き合わせてもらえたので、それが監督になってからとても役立っています。

横井健司 よこいたけし 映画監督。1967年生まれ、岐阜県出身。三池崇史監督などの助監督を経て、1998年に『ダブルキャスト』で監督デビュー。実録物から青春物まで幅広く手掛ける。近作に『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』(実写パート)や「ガールズ×戦士シリーズ」など。

横井 そこからチーフが監督になって、だんだんチームで仕事することがなくなっていくんです。どうしようと思っていたとき、また渡辺武が出てくるんです(笑)。
杉野 いいタイミングで(笑)。
横井 エクセレントフィルムズという会社に彼がいて「人が足りてないのでうちに来ないか?」と。セカンドくらいの頃だったんですけど、だんだんそちらの仕事が主軸になっていくんです。当時は三池さんが監督とプロデユーサーを兼任しながら何作も掛け持ちしてたので、その助手として手伝わせてもらったり、渡辺武の映画のチーフをやったりしていました。

杉野 そこで初監督作品を撮るわけですね。
横井 1本目は武田久美子さん主演の『ダブルキャスト』というオリジナルビデオでした。台本は用意されていたんですが、正直ちょっとよく分からなくて。でも、エクセレントが良かったのは、お話の大筋が変わったり、予算が膨らむ直しでなければかなり自由に台本を直せたのがありがたかったですね。制約はかなりありましたが、自分がやりたい方向に台本の流れを持っていくことができ、撮影自体もタイトでしたが自由にやらせてもらえました。
杉野 そこからは、ずっと監督として活動されて?
横井 いや、仕事のないときは助監督に戻ったりもしました。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『犬部!』『妖怪大戦争ガーディアンズ』に参加。

横井 三池さんくらいの本数になると合間無く撮り続けられると思うんですけど、僕はその半分くらいなので。
杉野 それでも相当な本数を撮られていますよね。今後撮ってみたいものはあるんですか?
横井 やはり王道の青春物はもっと撮ってみたいですね。あとは、コメディ以外なら何でも(笑)。あまり得意じゃないんです。僕は撮るときも苦手なものを取り入れるよりは、なるべく自分のやりたい方向に持っていく傾向にありますね。
杉野 なるほど、それが監督の色になるわけですからね。面白いお話を聞けました。今日はありがとうございました。

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