キャスティングディレクター・杉野剛が、
さまざまな映画監督を「解剖」する連載の第6回。
撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶
キャスティングディレクター・杉野剛が、
さまざまな映画監督を「解剖」する連載の第6回。
今回は、5月に最新作『チア男子!!』の公開が控える風間太樹監督にお越しいただきました。
杉野 監督とは『チア男子!!』でお仕事させていただいて。
風間 はい、お世話になりました!
杉野 監督はCM などを制作しているAOI Pro.の映画部門(エンタテイメントコンテンツ部)に所属されているんですよね。いつから映画作りを志されたんですか?
風間 僕、実は俳優になりたかったんです。
杉野 ええ!(笑)でも、確かに『チア男子!!』のメンバーの輪の中に監督が入っていても、全然違和感がない……。
風間 いやいや、中学生の頃の話です(笑)。映画やドラマを見て憧れて、芸能事務所に応募したこともありました。でも親父が厳しく許してもらえなかった。「中途半端になるな。部活をやれ」と言われて、高校までずっと野球をやってたんです。でもなにか諦めきれず、誰も見ないブログに詩とか短編を投稿して(笑)。世に発信する側の立場になりたかったんです。
作り手になってやろうという
反骨心みたいなもので、
成り立っていたのかもしれない。
杉野 映画との出会いは?
風間 高校の担任が映画好きだったんです。放課後担任と鑑賞会をしたりもして。主にサイレント映画だったんですけど。個人的には『台風クラブ』とか『天国から来たチャンピオン』は繰り返し観てましたね。ドラマだと『X-ファイル』を。あと、その頃家にあったビデオカメラでドキュメンタリー風に人物を撮ったり、MVを撮ったりしてました。俳優がダメだったから作り手になってやろうっていう、反骨心みたいなもので成り立っていたのかもしれない。俳優の次はカメラマンになりたいって思ってました。
杉野 で、東北芸術工科大学に進まれた。
風間 根岸吉太郎監督や前田哲監督ら、重鎮が教える学校で。いよいよ本腰を入れて映画をやりはじめました。まあ当時は恋愛にも必死だったんですが(笑)。大学に入ってから人生の軌道修正をしていったみたいな感じでした。
杉野 そうなんですね。
風間 でも、今に通じる流れは東日本大震災からなんです。それまでは思いつきで行動してたんですけど、震災以降「何かしないと」という空気が大学にも、僕の中にも生まれました。被災地の小学生たちへの映画ワークショップに参加したり、その流れで冨樫森監督の『おしん』(’13年)に撮影部で参加したりして。演出も撮影も録音も編集も一通りやりながら「どのポジションが自分に向いてるのか」考えたんです。で、撮ることは好きだったけど「機材はそんなに好きじゃないな」と。
杉野 それで監督を選んだんですね。
風間 それも震災が関係してくるというか。実はうち、家庭環境がけっこう複雑だったんです。
杉野 そうだったんですか。
風間 それぞれが距離を置いていたというか。でも震災のような恐怖体験があると家族がもう一度、集まるんですね。山形は3日くらい停電してたんですが、そのとき親が蔵に眠っていたでっかいロウソクを持ってきた。それが親父と母親のウェディングキャンドルだったっていう(笑)。
杉野 あはは。映画的だ!
映画を作っていると
日常に目が向く。
悲劇的なことも糧になる。
風間 映画を作っていると日常に目が向くんですよね。悲劇やネガティブなことも糧になる。そう思えるようになって、監督としての将来を考えはじめました。
杉野 そしてAOI Pro.に。
風間 大学の教授にCMディレクターがいて、その繋がりで参加したMV撮影の合間に、AOI Pro.の現社長に作品を見てもらったんです。それをすごく気に入ってくれて。これまで自分は、いろんな人との出会いと流れに乗ってきた。ここも乗ったほうがうまくいくかもって直感的に思ったんです。入社して2年はCM制作部で働き、映画部に移りました。
杉野 で、『帝一の國』のスピンオフで監督に抜擢されて。
風間 僕、多趣味というか、いろんなことを自分でやってみたいと思うんですよね。最初『帝一』の本編のアシスタントについたんですが、あるシーンで主人公の目の前に文字がうにゃうにゃ~って浮かび上がるCGのようなエフェクトを僕が作ったんです。フォグスクリーンというんですが、蒸気にプロジェクターで投影して。
杉野 なんでもできるんですねえ。
風間 スピンオフでは「風間さん、CMもできるでしょ」って言われてファンタのCMも一緒に撮ったんです。負けたくないから「ああ、できますよ」って(笑)。
僕はオーダーに応えるのは嫌いじゃないんです。むしろ楽しい部分もある。もちろん譲れないものはたくさんありますけど。
杉野 監督ってベタにいうと「どこに行っても好かれる」タイプだと思う。でも「これがしたい」がはっきりしていて、ブレない。
風間 おっしゃる通り(笑)。現場でみなさん意見をくださるんですけど、終わると「風間さん、全然聞かなかったですよね」って。
杉野 あはは(笑)。『チア男子!!』のあとのお仕事は?
風間 やってみたい原作はたくさんあるので粛々と企画を進めています。あと、自分の「家族」体験から、新しい家族のあり方を考える作品を企画したいとも思っています。SFもやってみたいですね。
杉野 おお~! それは楽しみです。
風間太樹 かざまひろき 映画監督。1991年生まれ、山形県出身。映画『恋は雨上がりのように』や『帝一の國』のスピンオフドラマ版の監督を担当。長編初監督作品となる横浜流星と中尾暢樹のW主演映画『チア男子!!』が2019年5月に公開。
杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『記憶にございません!』『ばるぼら』などに参加。
撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶