FILT

杉野剛

杉野剛

杉野剛

撮影/野呂美帆

キャスティングディレクター・杉野剛が映画監督を徹底解剖。

第18回目は、『凶悪』や『孤狼の血』の白石和彌監督です。

杉野 白石監督は札幌にある映像技術系の専門学校を卒業されていますよね。
白石 出身は旭川なので、札幌で一人暮らしをして、新聞奨学生をやりながら通いました。
杉野 映画を作りたいと思ったのは高校生くらいからですか?
白石 そうですね。昔から映画は好きでずっと観ていたんですけど、高校生くらいで「キネマ旬報」を読み出して、たまにスタッフが大勢写った現場のスチールとか載っているじゃないですか。監督になりたいというよりは、あの中に入りたいという感じでしたね。ただ、専門を卒業して就職活動もしたんですけど、上手くいかなくて。どうしようかなと思っているときに、中村幻児監督主催の映像塾の存在を知ったんです。受講料が月3万円だったので、これならバイトしながら通えるなと。
杉野 なるほど。映像塾は講師陣がすごいですよね。
白石 幻児監督を筆頭に、若松孝二監督、深作欣二監督、成田裕介監督や脚本家の加藤正人さんもですね。

白石和彌

若松さんと

モラトリアムな日々を

過ごしていました。

杉野 若松組に参加したのはどのくらいの時期ですか?
白石 映像塾の2年目です。若松さんのところは常に助監督が足りなくて、「誰か手伝える人いる?」と声がかかったんで、すぐに手を挙げました。そういえば当時幻児さんが『元気の神様』という映画を作っていて、現場を見に行ったとき、杉野さんがチーフをされていましたよね? だから僕、ギリギリ杉野さんの助監督時代の姿を見ているんです。
杉野 そうそう、チーフをしていました。『元気の神様』には参加されなかったんですか?
白石 たしか時期が若松組と被っていたんです。ただ、仕事があるときはいいんですけど、当時の若松さんは1年半に1本くらいの制作ペースだったので、何もないときは若松さんとモラトリアムな日々を過ごしていました(笑)。
杉野 貴重な体験じゃないですか。
白石 いや、「何やってんだろうな~」とは思いましたけどね。 そこから若松組以外でも仕事をするようになって、行定勲監督の『きょうのできごと』のときに、キャスティングで参加されていた杉野さんとお会いしたんです。
杉野 あの時はセカンドの助監督ですよね。とにかく仕切って現場を回す能力が高く、「なんてすごい助監督なんだ」と思ったのをよく覚えています。グイグイ電話もしてくるし、白石監督ほど仕事のできる助監督はそうはいないと思いますよ。
白石 そうですかね。全然分からないですけど。
杉野 いや、それは自分じゃ分からないですよ(笑)。そして、助監督を経て監督になられるわけですよね。どんな経緯で?
白石 当時は現場を回していて、面白いと思ったことを監督に提案するんですけど、助監督の歴史って却下される歴史でもあるから、なかなか採用してもらえないんですね。ただ、8年目、9年目くらいになると、さすがに「どう考えても俺の言った通りにやっていたほうが面白かった」ということが増えてくる。そこからですね、本腰を入れて監督になろうと思ったのは。まずは準備として、プロデューサーなどに「監督をやることにしました」と言って回ったんです。
杉野 なるほど。その準備が結実したのはいつ頃ですか?

杉野 剛

監督になったら

爽やかな作品を

やろうと思っていたが……。

白石 30歳前後で始めて、1年後くらいにIMJエンタテインメントのプロデューサーと知り合って、犬童一心監督作品の助監督をやった後、初監督作品に向けて2年ほど準備していきました。そこで、脚本家の池上純哉さんなど、今につながる人との出会いもありながら、まずは小規模の映画を撮るという話になったんです。
杉野 それが『ロストパラダイス・イン・トーキョー』ですね。
白石 はい。監督になったからには助監督に戻ることはないと決めていたので、うまくいかなかったら辞めるしかないかなとか、いろいろ考えていました。
杉野 そして次が『凶悪』。これは衝撃的でしたね。
白石 プロデューサーが『ロスパラ』を観て、「一緒に作りたい」と話を持ってきてくれたんですけど、当時は「なんで?」と思いました(笑)。ただ、映画監督になったら青春映画とかそういう爽やかな作品をやろうと思っていたんですけど、やっぱり若松監督や深作監督に学んでいるので、血は騒ぎましたね(笑)。関係者試写をやったときに杉野さんが来てくださり、試写後に「おいしい酒を飲ませていただきます」というメールを頂いたのがめっちゃめちゃ嬉しかったんですよ。
杉野 懐かしいですね。昔から知っていたので、すごい監督になられたと思って、僕も嬉しかったんです。
白石 ありがとうございます。次の『日本で一番悪い奴ら』では、杉野さんとご一緒させていただいて。以降は配給側にキャスティング部があって、なかなかご一緒できないのですが、またどこかでぜひ!
杉野 もちろんです。その後はコンスタントに撮られていますよね。
白石 多いときは年に4本とか。我ながらどうかしてるなと(笑)。
杉野 現在は『孤狼の血 LEVEL2』の公開が控えていますが、他の企画も進行中だそうですね。
白石 決まってないこともありますが面白いものになると思います。
杉野 白石監督ならではの作品を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。その他の主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』などがある。8月20日に最新監督作『孤狼の血 LEVEL2』が公開。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『奥様は、取り扱い注意』『妖怪大戦争ガーディアンズ』に参加。

撮影/野呂美帆