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杉野剛

杉野剛

杉野剛

撮影/外崎 綾

キャスティングディレクター・杉野剛が映画監督を深堀り。

第26回目は、『blue』の安藤尋監督です。

杉野 映画を面白いなと感じたのはいつ頃ですか?
安藤 母親が映画好きだったんです。母の実家はすぐ裏が映画館だったそうで、そんな母の影響からか子どもの頃からテレビで古い映画を一緒に見ていました。これは何だろうと思いながら増村保造さんの『陸軍中野学校』を見たり。大学に入って改めて見た時に「これ、母親と見たやつだ!」と思い出しました(笑)。
杉野 子どもが見る作品ではないですよね。
安藤 小学生の男の子が自分から見たいと言わないですよね。
杉野 映画館ではいろいろな作品を見ていたんですか?
安藤 どちらかというとテレビで見ることが多かったと思います。映画館で見たのは『ジョーズ』や『タワーリング・インフェルノ』など、当時話題になっていた作品ですね。母親と一緒に見ていると女優さんや監督の名前を教えてもらったりして。何となく映画好きになる素地はあったんでしょうけど、意識的に見るようになったのは高校に入ってからでした。

安藤 尋

古い映画を知ると、

いろいろ知識が

増えていく。

杉野 高校生になって自発的に映画を見るようになったきっかけは?
安藤 何がきっかけだったのかは覚えていないんですけど、当時は『ぴあ』の影響が大きかったですね。自分のお金で『ぴあ』を買って、ルキノ・ヴィスコンティの『若者のすべて』を見に行った時は「すごい映画があるんだな」とショックを受けました。当時はあまり学校に行きたくない時に、映画館に行きたいって母親に言ったら許可が出たんですよ。映画を見るなら休んでいいって(笑)。見に行くなら正直に言いなさいと。
杉野 面白いお母さんですね(笑)。
安藤 だから、学校に行かずよく映画館に行っていました。詰襟を着たまま。その頃は、まだ映画を撮りたいという思いはなく、見るだけで精一杯でしたね。名画座で3本立てを楽しんだり、テレビで放送していた映画を片っ端から見たりして。古い映画を知っていくと、いろいろ知識が増えていくんです。それで、どんどんのめり込んでいって。
杉野 早稲田大学では映画研究会に入っていたんですよね。
安藤 真面目に学校に行っていたのは最初の1年だけでした。4年間在籍しましたけど、映研を起点に映画館に行ったり、友達と飲みに行ったり。結果的に大学は除籍になりましたが(笑)。
杉野 そうなんですね。映研の活動以外に映画と関わることは?
安藤 卒業した先輩が照明技師として映画の現場で働いていたので、助手が必要な時は声をかけてくれたんです。お金も少しもらえるし、現場を経験できるからいいだろって。僕が初めて入った現場はピンク映画でした。照明の助手だったんですけど、高い場所が苦手だから使い物にならなくて(笑)。
杉野 廣木隆一監督と接点ができたのもその頃ですか?
安藤 たまたま映研の先輩が廣木さんのピンク映画で照明技師をやっていて、僕も入れてもらったんです。それから、打ち上げの席とかで廣木さんに「演出部に呼んでください」としつこく酒を注ぎながらアピールしていたら、いろいろと誘われるようになって。接点ができてきた頃に、当時廣木さんが作った制作会社のフィルムキッズに入ることになったんです。そこで初めてプロの助監督としてカチンコを持たされるんですけど、実は廣木組とは違うピンク映画の現場で。

杉野 剛

今の世代が撮る映画は

今までと違うものに

なるかもしれない。

杉野 監督のデビュー作もピンク映画でしたよね。
安藤 4年間助監督をやった後に新東宝で廣木さんプロデュースの作品を撮りましたけど、自己嫌悪に陥り、また廣木さんの下で3年間ほど助監督をやりました。だから助監督は計7年です。でも、そのデビュー作を知り合いの持永昌也さんという映画ライターが見ていて、プロデューサーの宮崎大さんに勧めてくれたんです。宮崎さんも作品を気に入ってくれて、それをきっかけに『pierce LOVE&HATE』という映画を撮ることになったんです。
杉野 2003年に公開された『blue』も宮崎さんと?
安藤 そうです。魚喃キリコさんの原作漫画が大好きで、自分から提案しました。脚本・本調有香さん、撮影・鈴木一博さん、音楽・大友良英さんも『pierce~』と同じです。やっと納得できるというか、自分なりの作品を持てたのかなって。
杉野 始まりは廣木さんにお酒を注いだところから。
安藤 そういう意味では不思議なものだなと思います。
杉野 今も続けている日本映画大学の講師はどういう経緯で?
安藤 『blue』を撮った頃に、親交のあった映画監督の斎藤久志さんに声をかけられてゼミの手伝いをしたんです。今は脚本ゼミの実習担当と、短編実習の時期は担任をしています。
杉野 コロナ禍ということもあって、学生たちも大変ですよね。
安藤 今教えている生徒は1年の時にコロナが始まったから、自分で撮った映画の上映会をやっても打ち上げがないんです。仲のいい数人で飲みに行ったりはするんでしょうけど、かわいそうだなって。この世代が撮る映画は今までと違うものになるのかなと思ったりします。
杉野 きっと変わってくるでしょうね。
安藤 そもそも今の生徒は映画を見ないんです。ほかにやることがあるんでしょうけど、見ている子が少ない。でも、脚本を書きたい、映画を作ってみたいという思いはある。古典から得るものもあるので、古い映画を含め、もっと映画を見てほしいなと思います。

安藤 尋 あんどうひろし 映画監督。1965年生まれ、東京都出身。1993年にピンク映画で監督デビュー。主な作品に『pierce ピアス LOVE&HATE』『dead BEAT』『blue』『ココロとカラダ』『ZOO』『僕は妹に恋をする』『いつかあの日となる今日』『海を感じる時』『花芯』『月と雷』など。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『恋は光』『異動辞令は音楽隊』に参加。

撮影/外崎 綾