キャスティングディレクター・杉野剛が、
さまざまな映画監督を「解剖」する連載の第9回。
撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶
キャスティングディレクター・杉野剛が、
さまざまな映画監督を「解剖」する連載の第9回。
今回のゲストは新作の公開も控える三木孝浩監督。
杉野 三木監督とはデビュー作の『ソラニン』からご一緒させていただいてます。映画を作り始めたのは高校時代ですか。
三木 はい。もともと観るのは好きだったんですが、高校時代に映画好きな先生と映画同好会を作ったんです。夏合宿のとき家から8ミリビデオカメラを持って行き、流れで「撮ろうぜ」と。作ることが楽しい感覚はそのくらいから芽生えました。
杉野 それで早稲田大学で、映画サークルに入られた。
三木 演劇サークルで役者もやっていました。お芝居がちゃんとできる人で映画を撮りたかったので、そのコネ作りに入ったんです。そこで出会ったのが『愛の渦』の三浦大輔監督です。劇団・ポツドール主宰の。三浦大輔主演で撮っていました。
杉野 ええ! それは観たい!
三木 いやいや(笑)。でも一応、早稲田のインディーズフィルムフェスティバルでグランプリを獲って。考えてみれば割といま撮っている青春映画の原点みたいな感じかもしれません。
音楽が風景に被ったとき、
日常がドラマチックに感じる。
そんな感覚が好きでした。
三木 当時は岩井俊二監督の『Love Letter』に相当影響されました。「くやしい」と思ったんです。ああいう感覚の映像っていままで日本になかったので。どうやったらこういう映像が撮れるんだろう、生っぽくない粒子の粗い感じとか。話の構成とかよりも当時はかなり絵作りにこだわっていました。
杉野 監督の作品は音楽の役割も大きいですよね。
三木 昔から気にいった映画があるとサントラカセットを買っていたんです。ビデオテープは1万、2万円するけど、カセットなら2、3千円で買える。それを聞きながら、映像を脳内再生して。『戦場のメリークリスマス』も坂本龍一さんのサントラに惹かれました。それを通学中に聞きながら、音楽が自分の見る風景に被ったとき、日常がすごくドラマチックに感じる。そういうところが好きだったんです。自分のエモーションはこういうところにあるんだなと。最初に仕事としてミュージックビデオを選んだのも自分のそんなエモーションに近いからかもしれません。
杉野 ソニー・ミュージックに入社されたんですよね。
三木 ソニー時代は、担当するアーティストをどう映像でプロデュースするかが主な仕事だったんです。プロデューサー視点が鍛えられたのは、貴重な経験になりました。
杉野 ソニーを辞めるきっかけはあったんですか?
三木 30歳になったときに「どうする?」と思ったんです。ゆくゆくは映画を作りたいとも思っていたので、独立しました。
杉野 そして『ソラニン』で映画監督デビュー。
三木 ストーリー性のあるミュージックビデオを多く作っていたので、それを観ていただけたんだと思います。
杉野 そしていまや「青春の巨匠」。少女漫画原作もたくさん手掛けられていますよね。
三木 『僕等がいた』が大きかったですね。それまで少女漫画はほぼ読んだことがなくて。「こんなカッコいい男子が出てくる映画が自分に撮れるのか?」と思いましたけど。
杉野 やってみて「恋愛を描くのもいいな」と?
三木 いや、むしろ自分の好みというよりニーズを意識しています。『僕等がいた』でそのジャンルにニーズがあるという発見があったんです。
ユーザー視点で
企画を考えられるのが、
強みだと思っています。
三木 そこからターゲットである10代、20代の女子がどこをいいと思っているのかを探り出す方向へ。その辺はソニー時代に培ったプロデューサー的な視点が役に立っていますね。ユーザーはこのアーティストのどんなビジュアルを求めているのか。そういう視点で映画の企画を考えられるのが、自分の強みだと思っています。
杉野 なるほど。
三木 オリジナルで0を1にするよりも、いただいた1を10にしたり100にしたりする方が楽しいし、力を発揮できるんです。
杉野 女子高校生をキュンとさせるのは難しくないですか。
三木 そこはもうリサーチするしかないですね。それに、もはや演出や編集の決定権は僕にない。スタッフの女性に「今のカッコよかった? どっちのカットがいい?」「さっきのほうがいいです」「じゃあさっきのカットをOKで!」って(笑)。
杉野 あっはは。影のディレクターがいるんですね。
三木 やっぱり女子目線の意見を聞きますね。特に編集のときは如実に男性目線と女子目線で意見がきっぱり分かれるんで、おもしろいんですよ。よく「なぜ女性の気持ちがこんなにわかるんですか?」と言われるけど、「いや、僕はまったくわからないです。聞いているだけです」って(笑)。
杉野 WOWOWでサスペンスを撮られましたよね。スタッフに聞いたんですが「監督、恋愛映画を撮るときはめちゃくちゃ粘るのに、サスペンスはすごく撮影が早かった」って。
三木 あっはは! 青春映画は若い俳優さんが多いので、気持ちや表情を作るのにどうしても時間がかかることもあるんです。
杉野 そうか、微妙な表情のニュアンスなどが必要なんですね。
三木 あと青春ものは光が命。太陽光の有り無しで全然違います。原作のビジュアルにどこまで寄せるのかにも気を使います。髪の色を決めるのも、濃さを微妙に変えて何度もカラーリングを加減したり。
杉野 そういう繊細さで青春や“キラキラ”が表現されるんですね。
三木孝浩 みきたかひろ 映画監督。1974年生まれ、徳島県出身。2010年に映画『ソラニン』で長編監督デビュー。『僕等がいた』『アオハライド』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』などの青春映画を手がける。2020年8月に最新監督作『思い、思われ、ふり、ふられ』が公開。
杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『カイジ ファイナルゲーム』に参加。
撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶