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杉野剛

杉野剛

杉野剛

撮影/野呂美帆

キャスティングディレクター・杉野剛が映画監督を深堀り。

第32回目は、『渇水』の髙橋正弥監督です。

杉野 髙橋監督がチーフ助監督やプロデューサーをされていた頃に、僕はよくお仕事でご一緒させていただきました。そもそも監督が映画を観るようになったのはいつ頃からですか?
髙橋 小学4年生ぐらいです。母親がテレビで観ていた昼間の洋画劇場を一緒に観たり、映画館に連れて行ってもらったりという感じですね。その頃、僕は北海道の函館に住んでいて、地元の映画館によく行っていました。
杉野 函館の映画館では何を観ていたんですか?
髙橋 記憶にあるのは2本立て上映で、例えばボクシング映画の『チャンプ』ともう1本とか。函館からいかめしで有名な森町に引っ越してからは、公民館でのホール上映しかなかったので、朝6時半の電車に乗って1時間半かけて函館に行って映画を観たこともありました。午前中はアニメ映画の2本立てを観て、母が作ってくれたおにぎりを食べてから午後は洋画の2本立て。それを観終わったら夕方5時ぐらいの電車に乗って帰るというのが月に1回ぐらいあったと思います。

髙橋正弥

見習いの演出部として

卒業前から

現場を手伝っていた。

杉野 その頃の映画で印象に残っている作品はありますか?
髙橋 僕の中学、高校時代は角川映画が全盛で、その辺から邦画を観るようになるんです。映画づくりというものを意識したのは『戦国自衛隊』を観てからですね。他にも、『野性の証明』や『人間の証明』などにも影響を受けました。あの頃の角川映画ってちょっとアメリカン・ニューシネマ的な匂いのする作品がありましたよね。いろいろと観るようになって、映画の世界って面白そうだなと思うようになったんです。
杉野 じゃあ、高校を卒業したら映画のことを学ぼうと。
髙橋 そうですね。シナリオに興味があったので、まずは映画づくりの基礎と脚本の勉強をしたいなと、上京して日本映画学校に入りました。
杉野 授業のシステムはどういう感じだったんですか?
髙橋 1年生の時は一般教養が座学としてあって、2年生ぐらいから実習が多くなっていきます。1年のときの担任はNHKや読売テレビでドラマの脚本を書かれていた池端俊策さんでした。
杉野 実習はどういった内容なんですか?
髙橋 全員が脚本を書いて、その中から選ばれた作品を撮るんです。短編ですけど、シーンごとに監督、撮影などを振り分けて。映画づくりの工程を知れるので、とても勉強になりました。でも、最後のほうはほとんど学校に行ってなかったんです。
杉野 そうなんですね。卒業はできたんですか?
髙橋 僕、映画業界の人が御用達の飲み屋でバイトをしていて、その頃に2人の助監督さんから誘われて見習いの演出部として卒業前から現場を手伝っていたんです。それで忙しくなってしまって。一応、学校の職員会議があって「髙橋はもう現場に出ているから卒業させてやるか」という感じだったみたいです。
杉野 演出部はどこかに所属せず、フリーとして?
髙橋 はい。当時はバブル期だったので次から次へと仕事がありました。その頃、『昭和のチャンプ たこ八郎物語』という2時間ドラマで杉山泰一さんと知り合う機会があって。杉山さんはずっと映画をやられていたんですけど、そのときはたまたまスケジュールが合ったみたいです。そのあともハリウッド映画の『ミスター・ベースボール』や森田芳光監督の『ハル』などでも杉山さんが助監督として参加されていて、僕がその下につくという感じでした。

杉野 剛

映画に関われるのであれば、

何でもやりたい。

その時々で何を選ぶか。

杉野 その後はチーフ助監督に?
髙橋 きっかけはスタイリストの宮本まさ江さんの紹介でした。市川準さんの『ざわざわ下北沢』で初めてチーフ助監督を務め、2本目は相米慎二監督の『風花』です。この後に1本だけ映画で監督をやったんです。それが32歳ぐらいだったんですけど、興行的に成功したわけではなかったので、根岸吉太郎監督の『透光の樹』から、またチーフ助監督をやっていました。
杉野 僕が最後にご一緒したときのクレジットはプロデューサーでしたよね。プロデューサーはどのくらいからですか?
髙橋 演出部で一緒にやっていた先輩や後輩たちが自主映画を作ることになって、そのお手伝いをした頃ですね。プロデューサー名義のほうがいろいろと動きやすい場面があるんです。そこから何本か自主映画に携わって、商業映画のお話もいただいたりして。
杉野 監督としては『渇水』と『愛のこむらがえり』が、同じタイミングで公開されました。
髙橋 『渇水』の撮影が2年前で、そのすぐ後に『愛のこむらがえり』を撮りました。ちょうど公開も同じ時期になって。
杉野 『渇水』は白石和彌監督が企画プロデュースという形で参加されていますよね。
髙橋 白石さんがチーフ助監督をされている頃に僕もチーフで。なかなかチーフ同士が一緒に仕事をすることってないんですね。でも、『渇水』をいよいよ映画として立ち上げるタイミングでプロデューサーに引き合わせてもらったんです。白石さんは脚本をとても気に入ってくれて、今回初めて一つの作品を一緒に作ることになりました。
杉野 今後はどういった活動をされていくんですか?
髙橋 プロデューサーでも監督でも演出部でも、映画に関われるのであれば何でもやりたいですね。どれも並列にあるので、監督しかやらないなんて言いません。その時々で何を選ぶかだと思います。

髙橋正弥 たかはしまさや 映画監督。1967年生まれ、秋田県出身。主な監督作に映画『RED HARP BLUES』『月と嘘と殺人』、ドラマ『マグマイザー』などがある。最新作の『渇水』(主演:生田斗真)と『愛のこむらがえり』(主演:磯山さやか)が公開中。

杉野 剛 すぎのつよし キャスティングディレクター。黒澤明監督に師事し、『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』で助監督を務める。その後、キャスティングに転向。近年では『リボルバー・リリー』『忌怪島』に参加。

撮影/野呂美帆