山口智弘
FILT編集長。
「極悪女王」で
デビル雅美の
ファンになりました。
山口智弘
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2016.9.20
20歳になる少し前、ケーキ工場で働いていたことがあります。アルバイトです。家が近いから、というただそれだけの理由で、来る日も来る日も苺のヘタを取ったりしていました。最初は、休憩時間に商品にならないケーキなどがおやつに出るので、喜んだりもしていましたが、やがてそれにも飽き、工場全体に漂う甘い香りにほとほと嫌気がさした頃、一人の、少し下くらいの青年と知り合いました。
彼はすでに社員で、将来はパティシエになって自分の店を持つという夢を持っていました。仕事が終わってから夜遅くまで家でケーキを試作し、休日には、自腹で他のケーキ屋を食べ歩き、どんなケーキが流行っているのか、どうしたら美味しいケーキが作れるのかをリサーチしている、と話してくれました。
ケーキなんて飽き飽きで、特に夢もなく、時給850円で働いていた私は、非常にショックを受けました。仕事というものの意識の違いに。彼はたぶん四六時中ケーキのことを考えていたのだと思います。熱心にケーキの魅力を語ってくれたのを覚えています。
「好きこそ物の上手なれ」なんてことわざがありますが、まさに、好きだからこそ自然に上達するし、突き詰めていける。休日にも“仕事”をしたくなるのだと思います。
今回、「仕事人間は、おもしろい」というテーマに沿って、山田孝之さん、池松壮亮さん、福井晴敏さんにご登場いただきました。みなさん、自分の中の“好き”を突き詰めて、自分の面白いと思うことをやる。または、やっていることが結果として面白いと思えることになっている方々です。
撮影では、羽毛を降らせたり、紙を丸めたり、破いたりしてもらいましたが、みなさん嫌な顔をするどころか、非常に協力的で、とても真面目に挑んでくださいました。その真摯な姿勢は、やはり、作り上げる作品に表れているし、周りの人間にも伝わるのだと思いました。
山田さんのインタビューにもありますが、常にどうやったら楽しい仕事ができるかを考え、それが実現しそうだと思ったら、躊躇せず、真剣にやってみる。そんなスタンスが幸せな仕事人間になる条件なのかもしれません。
ケーキ工場の話に戻りますが、私はほどなくしてそのアルバイトを辞めてしまったので、その後、彼がどうなったのかは分かりません。でも、いつかどこかのケーキ屋で、ばったりと再会する気がしてならないのです。