FILT

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

音楽その21

2016.11.20

『締め切り』というのは実に大事なものです。
なにを隠そう、今この文章も連載担当者から「コラム、今日締め切りです!」という電話をもらってから書いているのです。

締め切りが大事なのは、音楽においての楽曲制作でも同じこと。いや、むしろ楽曲制作にこそ締め切りは重要な要素です。
なにしろ曲に正解というのはないのです。どのメロディーが正しいか、どの歌詞が正解か、どんなテンポが一番ぴったりか、こういうことには正解はないのです。
もちろん、その正解のないものに見事な解答=着地点を出すのがミュージシャンの仕事です。

例えば、ホフディランの『スマイル』の歌詞。
「すぐ、スマイルするべきだ、子供じゃないならね」
これだって、最初から正解があるわけではありません。

「子供じゃないならね」
でも
「子供じゃないからね」
でも
「子供じゃないんだから」
でもいいわけです。

そういう膨大な可能性の中から、一番グっとくる解答を出す、それがミュージシャンの仕事です。
しかし、もし締め切りがなかったら、その膨大な可能性を無限に試すことができてしまいます。

歌詞をちょっと変えてみたら……
歌い方をちょっと変えてみたら……
テンポをちょっと変えてみたら……
ギターの音量をちょっと変えてみたら……

こんな感じで、文字通り試せることは無限にあるのです。

そこで出てくるのが、締め切りです!

もちろん、元々はそういう作品作り寄りの理由で締め切りがある訳じゃないでしょう。いつまでにリリースしないといけない、何時までしかスタジオを借りてない、次の仕事が何時に入っている、などなど事務的な方面での理由が締め切りの本来の理由です。
しかし、無限の可能性という良くも悪くも終わりのない蟻地獄から、ミュージシャンを救い、一つの解答=楽曲を作り出す手助けをしているのもまた、締め切りなのです。

楽曲制作を語る上で、ミュージシャン・アーティストはよく「インスピレーション」とか「フィーリング」とかかっこいい言葉を使いますが、実は「締め切り」というアーティスト的にはあまりかっこよくない、アナログな理由もまた、名曲を世に生み出すのにとても大きな原動力の一つだったりするのです。