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小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

音楽その15・前編

2016.4.20

音楽の楽しみ方の一つとして、この20年で完全に日本に定着した感のある野外ロックフェスですが、必ずしもミュージシャンや音楽業界にとって良いことばかりではない気もします。

ロックフェスによって生まれた音楽の変革の一つが、音楽がインドアからアウトドアに変わったことでしょう。
ものすごくざっくり言うならば、その昔、レコードで音楽を楽しんでいた時代の音楽はインドアでした。ステレオデッキの前に座って、お気に入りの1枚を聴く。もちろん昔からクラブ(ディスコ)カルチャーなんかもあったし、ウォークマンの登場以来、カセットにダビングした音楽を街中で聴くということもありましたが、今と比べれば音楽は家の中で聴くもの、という感覚が強かったと思います。

一方、野外フェスは文字通りアウトドアです。
といっても、現在のフェス文化を作ったと言えるフジロックフェスティバルの初年度97年の頃は、まだ今よりもアウトドアという感覚は少なく、あくまで沢山のバンドを同じ日に見られるロックイベントが、会場がたまたま富士の麓だった、というような感覚が強かったように思います。
嵐に見舞われ、2日目が中止となった伝説のフジロック初年度は、まだフェス慣れしていない観客も多く。中にはハイヒールで観に来た女性ファンが大雨でぬかるんだ地面に足を取られて歩くのもままならない・・なんて光景も目にしました。そもそも天候により2日目が中止ということ自体が、主催者も含めまだ音楽のアウトドアとしての楽しみ方に対応できていなかったということでしょう。
思い出すのは、2年目のフジロック(東京で開催)にホフディランとして参加する際に、ロッキンオン誌面で『アウトドアフェスの楽しみ方』という企画があり、それこそ「動きやすい格好で来ましょう」「水分補給をこまめにしましょう」「着替え・タオル等を持ってきましょう」などとフェスを楽しむハウツーを紹介したことです。誌面でそんな企画をやらないといけないほど、まだ日本人の音楽感覚は『アウトドア化』してなかったのです。

あれから20年、どんどんアウトドア型のロックフェスが増え、取材者側はもちろん、参加する一般のお客さんもすっかりアウトドアとしての音楽の楽しみ方に慣れて、野外ロックフェスは春から秋にかけての日本の風物詩となりつつあるほどに発展しました。
参加している観客の格好も、20年前のようにハイヒールですっ転ぶような人はいなく(笑)、むしろ完全にキャンプを楽しむための装備と用具を持参のお客さんも少なくありません。
実は、コラムの最初に書いた「必ずしもミュージシャンや音楽業界にとって良いことばかりではない気もします」というのは、ここの問題についてなのです。
本来、音楽(特にロック)はファッションや文化といったところにある娯楽でありエンターテイメントです。それは音楽そのものだけじゃなく、好きなミュージシャンの格好に憧れたり、ライフスタイルそのものに共感したり、あるいは世間的には必ずしも良いことでなくともその不良性に惹かれたりしていたものだと思うのです。
そういった音楽以外の部分までリンクした時に、そのミュージシャンと本当に一体化して分かるものも沢山あると思うのです。
つまり、例えばロックの王道を行くような不良・不健康たるバンドと、青空の下でアウトドアウェアに身を包み健康的に休日に音楽を楽しむ行為とは、本来真逆のものだったりするわけです(もちろん、全てのミュージシャンがそうでは全くありませんが)。
いまだに多くのミュージシャンは、少なくともレコーディングなど制作時はかなりインドアな感覚で音楽を作っています。しかしそれを楽しむオーディエンスは極めてアウトドアな感覚で音楽を楽しむようになっているわけです(少なくともロックフェスにおいては)。僕は、作る側と受け取る側のその感覚のズレが、必ずしも音楽にとって良いとは言い切れない気がちょっとするのです。

<次回に続く>