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小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

音楽その4

2015.5.20

今回は2014年に音楽界を揺るがせたあの事件を通して音楽というものについて考えてみたいと思います。

“あの事件”とは佐村河内守氏によるゴーストライター事件です。

僕はけっこう佐村河内ウォッチャーなので(笑)、事件発覚前に佐村河内氏が書いた嘘の自伝本『交響曲第一番 闇の中の小さな光』も読みましたし、事件発覚後にライターの神山典士さんが全貌を書いた『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』も読んでいるので(それにしても使用前使用後的な、タイトルの落差がすごい!)、今回は長くなりそうなので数回に分けて書きたいと思います。



まずは佐村河内事件のことを語る前に、佐村河内氏のような人物が音楽業界にはけっこういるということを説明しておきたいと思います。

「佐村河内氏のような人物」というのは、ゴーストライターを使っているミュージシャンという意味ではありません、裏方としてなら能力はそれなりにあるのに、どうしても表舞台に立ちたい人です。

ほら、高校時代のバンドとかにもいませんでしたか?全然歌うまくないのにボーカルになりたがるやつ。なんとかしてステージに上がりたがるやつ。

ものすごく簡単に言ってしまえば『出たがり』、そういう人なのですよ、佐村河内さんって。

で、そういう人って音楽業界にけっこういるのですよ。楽器弾けないのにメンバーになりたがるやつとかね。もちろんそこから始めて、練習してうまくなっていけばいいんですよ、でもそういう人に限って練習しない。なぜならメンバーとして舞台に上がってチヤホヤされるのが目的ですから、楽器の腕をあげることが目的じゃないからやらないんですよ。で、そのうちバンドの他のメンバーから「お前抜けてくれ」って肩を叩かれて、その後は大抵暴れたりヤケを起こす、ほんといますそういう人。

そしてもう一つ「佐村河内氏のような人物」の特徴は、上記のように自分の実力では表舞台に出られないわけですから、その人にくっ付いていけば自分に得があるんじゃないか、自分もスターになれるんじゃないかという「金の卵」を常に探している。

なんとか売れそうな人を見つけて、それにくっ付いていって、あるいは逆にそのパトロンのような関係になって世話をして、とにかく自分も一緒に有名になろうとする。

周りには「俺はメンバーだ」とか「俺が見つけた」とか「俺が育てた」とか「俺が売りだした」とか、なんにせよその関係を使って自分も出世しようとする人。

見るからに困った人種ですが、実は一点を除けば全く問題ない、むしろ成功する人でもあるのです。

その一点とは、自分が『出たがる』部分。

上記の人たちから『出たがり』という要素を抜いてみると、金の卵を見つけてきて、パトロンのように世話をして、世間に売り出した。

どうです、これっていわゆるプロデューサーであり、レコード会社のA&R(アーティストの発掘・育成を行う部署)であり、事務所のマネージャーですよね。

自分が表に出るということを除いては、ものすごく成功できる人たちなのです。

つまり佐村河内氏も、自分が目立ちたいというただ一点のみをなんとか我慢していれば、実は裏方として敏腕プロデューサーになっていたかもしれないのです。

佐村河内氏はある意味では若いバンドマンにとっての素晴らしい反面教師となったかもしれません。なぜなら、バンドマンなんて特に若いうちはとにかく自分が目立ちたいやつらの集まりです。自分がモテたい、チヤホヤされたい、裏方的な仕事より表で目立ちたい、そんなのの集団です。(それが原動力なんだからそれでいいのです)

でも、30歳40歳を過ぎてくると、どっかのタイミングで裏方に回ったやつのほうが逆に成功してきたりする。バンドを辞めてレコード会社に入ったやつのほうが出世して偉くなっていたり、自分で歌うのをやめてアイドルに曲を提供するようになったやつのほうが稼いでいたり…。

そんな業界の表舞台と裏方のパワーバランスのようなものを、身を持って世間に伝えたのが佐村河内氏なんじゃないかと。

アマチュアバンド諸君、成功したロックスターの伝記なんかより、失敗した佐村河内氏の本の方が、成功へのいい教科書かもしれませんよ。

ホフディランも新作レコーディング中。天地神明に誓ってゴーストライターは使っておりません。

<続く>