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 この仕事をしていると、人情や人との縁をよく感じます。以前、吉高由里子さんが主演の『正義のセ』という連続ドラマで、たまたま僕とTKOの木下隆行くんが同じ回のゲストだったことがあるんですね。その中で、木下くんと一緒にお風呂に入るシーンがありまして、そこで意気投合したんです。彼は演技もうまいし、頭もいいし、存在感のある方なので、僕が主演を務めた映画『虎の流儀』にもぜひ出ていただきたいなと思って、今回、声をかけさせていただきました。映画ではとてもいい味を出していただいているので、ぜひ観てほしいですね。
 ドラマや映画の世界にはたくさんの演者さんがいらっしゃいますけど、芝居のうまい人とうまくない人の差って、そこまでないと思うんです。皆さんプロですから。その前提がある中で、役に合っているのであれば、やはり縁のある人に声をかけるのが人情だし、普段からの心の交流みたいなものが大事になってくると思うんです。

 ただ、こちらがどんなに望んでも、相手の意向もありますし、スケジュールの都合もありますから、必ずしも出てもらえるわけではありません。そういうことも含めて、一期一会ですよね。僕の大好きな言葉です。
 旅番組でも、一期一会をよく実感します。旅先のちょっとした触れ合いから、その人の家に泊まることになったこともありますし、偶然の再会を経験したこともあります。
 旅番組で意識するのは、必ずしも旅人が主役ではないということ。主役はあくまで旅先で出会う人々で、僕ら旅人は脇役です。主役たちの人柄や暮らしを旅の中でつなげていくのが脇役の仕事だと思っています。そして、できるだけ主役の人たちと関わりやご縁を大事にしていかないと、旅自体が良いものにはならないんです。やっぱり旅番組の醍醐味やおもしろさは「どんな人と出会うんだろう?」ですから。

 中でも、『世界ウルルン滞在記』で出会った人たちのことは、いまも忘れることができませんし、克明に思い出すことができます。もう何度かお話していると思いますけど、1998年に番組でラオスに行ったときは、ムチー族という少数民族との交流を経験しました。ミャンマーとラオスとタイの国境が接する三角地帯は、ケシ栽培が盛んで、「ゴールデントライアングル」と呼ばれる麻薬地帯だったんですね。その危険な場所を通過すると、まるで桃源郷のような山岳地帯があって、ムチー族はそこに暮らしていました。僕はこのムチー族の村で、学校の先生の代わりをすることになるんです。

 学校といっても、壁がなくて屋根があるくらい。子どもたちは18人いて、先生は1人。僕はそこでしばらく授業の様子を見ていたんです。そうしたら、その先生が僕を指さして、「旅人よ、明日からこの子たちの先生をやってくれないか?」って言うんです。「実家の刈り入れを手伝うから、1週間ほど学校を休まなきゃならない」と。当然、言葉はしゃべれないですし、何を教えていいのかもわからない。ただ、僕は「わかった」と。「代わりに先生をやるから、明日もう一度だけ授業を見せてくれ」と言ったんです。

 次の日、授業を見学し、ノートにやるべきことを書き出して、代理の授業に臨みました。
 子どもたちは、5歳から12歳ぐらいまでと年齢はバラバラ。僕は身振り手振りと、通訳の方の翻訳した言葉で、算数を教えました。「豚が3匹いて1匹食べてしまいました。残りは何匹?」みたいな、彼らの生活に出てくる動物を絵に描いたりしながら。体操もしましたし、歌も教えました。「森のくまさん」を輪唱してみたり。
 このムチー族の村には、そこから3年後と10年後に再び行くことになります。

 戦争や病気で亡くなっている子もいましたが、みんな僕のことを覚えてくれていて、「森のくまさん」を歌ってくれました。僕が帰ったあともずっと歌っていたみたいで、あれはうれしかったですね。
 モンゴルで出会ったご家族にも、これまで番組で何度か会いに行ってますけど、3回目に行ったときは、僕と同い年の長男が落馬して亡くなっていたんです。彼のご両親と再会したときに、お母さんが僕を抱きしめてくれました。「死んだ息子の代わりに、お前が帰ってきてくれた」というふうに思ったらしいんですね。いまも目頭が熱くなってしまうんですけど、僕のことを家族だと思っていてくれたんです。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。

 小説にも書いたヤノマミ族もそうですけど、言葉が通じないからこそ、言葉を超えた心の交流ができるというか、人情というものをダイレクトに感じられるのだと思います。それはすごく尊い行為ですし、心を動かす経験でした。
 また、向こうは当然、原田龍二という認識はないわけですから、裸のつき合いができるわけです。日本でもなるべく僕が芸能人だという先入観を相手から取り払うように心がけるんですけど、海外ではまったく関係ないですからね。ある意味では楽ですけど、人間として食らいついていかなければいけなかったので、毎回“勝負!”という気持ちで挑んでいました。

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