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 6月16日に、『精霊たちのブルース』という小説を万代宝書房から出しました。僕にとっては初の小説で、かつて南米のベネズエラで出会ったヤノマミ族のことを中心に書いています。実は20年ほど前にすでに大本の物語は書いていて、今回はそこに加筆修正して出版した形になります。
 なぜ、この小説を書いたのかと聞かれれば、理由は2つ。1つは南米のジャングルでヤノマミ族に出会った感動を自分の言葉で表現したかったから。
 もともと文章を書くのは好きで、以前はファンクラブの会報誌などにも書いていました。文章も書き慣れていましたし、番組でジャングルに行ったときも、この体験を書けると思ったんです。なにより、この音や匂いを文章で表現したいなと。だから、ジャングルに行かなかったら、この小説は生まれていなかったと思います。

 もう1つは、本のあとがきでも書きましたけど、ヤノマミ族の首長に「国に帰ったら、我々の存在を伝えて欲しい」と頼まれたからなんですね。ヤノマミ族の村には1週間滞在したんですけど、村を去るときにそう言われまして、これは裏切れないなと。もちろん、本が出たからといって、彼らにそのことを伝えるすべはないですけど、僕の中では、彼らとの約束を果たせたという達成感というか、思いの詰まったリュックを降ろせたという感慨があります。
 物語も、僕の現地での体験を土台にしているので、基本的にはヤノマミ族に会いに行くという話です。この話を書く上で考えたのは、誰の目線にするかということでした。旅行客はジャングルに入れないので、ヤノマミ族に会うことは難しい。要するに冒険家や研究者、もしくはドキュメンタリー番組を撮影するスタッフや我々のような演者くらいしかヤノマミ族に会いに行くことができないんです。そこで思いついたのが、フィールドワークでした。大学の教授とその教え子である青年のフィールドワークという形であれば、違和感なく旅立つことができるな、と。

 なので、物語は大学3年生である主人公の青年の目線です。彼の目を通した南米であり、ジャングルであり、ヤノマミ族です。驚きや感動、戸惑いなども20代の青年のそれですね。もし、主人公が40代や50代の設定だったら、もっと渋い視点になったと思うんですけど、やはり大人の旅ではなく、青年らしさのあふれる旅にしたかったのもあり、そういう設定にしました。
 本当は、ヤノマミ族と出会ったところから書いてもよかったんです。舞台が全部ジャングルでも僕は構わなかったんですけど、やはり物事には順序というものがありますから。旅の過程もきちんと書いています。

 ヤノマミ族自体は、ジャングルで生きている人たちの中では、比較的ポピュラーな部族なんですね。外科医で冒険家の関野吉晴さんによる紀行ドキュメンタリー『グレートジャーニー』の中にも出てきたので、知っている人も多いと思うんです。でも、それはそれとして、僕がヤノマミ族に会ったということは僕の体験ですし、リアリティや新鮮さもあると思います。
 それに、ヤノマミ族もいろいろですからね。今、ヤノマミ族は2万人弱いると言われていて、多様化しています。

 中には文明的な人たちもいて、先日も、ベネズエラ軍とヤノマミ族がWi-Fiを巡って争いになったことがニュースになっていました。詳しく知りたい人は調べてみてください。
 ヤノマミ族が暮らすアマゾンは広大なので、ジャングルの中でも街に近い場所に住んでいる人たちは先進的な暮らしをしていて、外部の人間とも接触している。一方で、人が踏み入れることの難しいジャングルの奥地に暮らすヤノマミ族もいます。分散しているし、生活形態もさまざまです。

 僕の出会ったヤノマミ族が街に近い場所で暮らしていたのか、それともジャングルの奥地で生活をしていたのかはわからないですけど、当時、すでに半ズボンをはいている人がいましたからね。もしかしたら、今はもうスマホを持っているかもしれません。
 当然、ふんどしを締めている人もいましたが、それは生殖器を守るという理由があるんですね。女性も腰蓑を付けていましたけど、見られて恥ずかしいからというわけではないんです。虫や獣から大事なところを守るためなんです。そういった精神構造は、日本で暮らす僕らとはまったく違いますね。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。2022年8月に公開予定の映画『ウラギリ』に出演。

 また、もう読まれた方は気づいていると思いますが、僕の興味のあるものを詰め込んだ小説でもあります。UMAや恐竜、ネイティブアメリカンの話なども出てきます。雑学などもいろいろと入っていますけど、ただ、筋は1本通っていて、自分で言うのもなんですが、読みやすいと思うんです。
 きっと、僕がなぜ裸にこだわるのか、その理由も見えてくると思います。読んだら、ぜひとも感想を聞かせてほしいですね。

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