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 映画やドラマを撮るときは、やはり地域の人たちの協力が欠かせません。例えば繁華街での撮影だと、本来は警察の許可だけ取ればできないことはないんです。ただ、東京にしろ、大阪にしろ、当然そこには人が暮らしていて、いろいろなしがらみの糸みたいなものが張り巡らされているわけです。それを見て見ぬふりはできない。
 映像作品って、我々のようなキャストとスタッフがいればできるというものでもなく、その場所を提供してくれる人がいなければ成立しません。そういう人の計らいみたいなものがないと、良い作品は作れないというか。だから、僕が主演を務める作品などは、できるだけ僕自身が撮影前に住民の方たちに「よろしくお願いします」とあいさつをして、話をするようにしています。筋を通すと言っていいかもしれませんが、そうすることで撮影も円滑に進む。特殊効果などのダイナミックな仕掛けなどもできるようになるんです。

 それに、地域の人たちとのふれあいって、地方ロケの醍醐味でもあるんです。僕は住民の方が撮影を見学していたら、できるだけ「サインしましょうか?」とか「写真撮りますよ」みたいなことを言うんですね。そんなことでよろこんでもらえるのであれば、やっぱりうれしいですし、直接ふれあうことで実は結果的に宣伝にもなるんです。「あそこで原田龍二が撮影してたよ」って、口づてで広がっていきますから。そうすると、「じゃあ、観てみようか」となる。これほどお金を使わない宣伝はないですよ(笑)。しかも、効果もそこそこありますから。
 僕は自分の主演じゃない映画やドラマでも、割とそういうことをします。ドラマや映画、舞台もですけど、出演者の態度や雰囲気が現場を支配するんです。前も言いましたけど、例えば主役が朝から機嫌悪かったり、文句ばかり言っていたりしたら、絶対に現場はピリピリしてしまうし、良い芝居なんかできません。

 芝居の一番の敵って、緊張なんです。ただでさえ台詞を噛んじゃいけない、失敗しちゃいけないというストレスに覆われた状況ですから。それを少しでも和らげるためにはリラックスしないといけない。僕なんかはいつもいろんな人と冗談を言い合いながら、ゲラゲラと笑って楽しく過ごしていますけど、やっぱりそういう自分でいられる現場であることが重要です。
 『水戸黄門』や『相棒』などは、そういう意味でも素晴らしい現場で、役者としてとてもやりやすかった。どちらも長いシリーズですけど、撮影に入るとすぐに役に戻れるんです。

 『水戸黄門』で助さんを演じたのは合計7年かな。1シリーズが終わると、次のシリーズが始まるまで少し期間が空くんです。『相棒』もそうですよね。でも、期間が空いたとしても、前のシリーズの続きとして延長線上で演じることができるんです。ただ、『水戸黄門』や『相棒』で演じるのは、そこまで特殊な役ではないという前提がありました。だから役にスッと入れた。特殊な役は大変なんですよ。特殊な役で思い出すのは、2004年に公開された『跋扈妖怪伝 牙吉』という映画です。

 この作品で僕は半分人間で半分狼の牙吉という人狼を演じたんです。顔に特殊メイクをしなければいけなかったので、大変だったんですけど、なかなか人狼を演じさせていただけることなんてないですから面白かったですよ。京都の松竹撮影所で撮影をしたんですけど、時代劇でありながら、ファンタジーでもあり、アクション要素もあって、しかもいろんな妖怪が出てきますので、特撮ヒーローモノみたいな感じですね。僕の大好きな世界観ですし、実は格闘家の船木誠勝さんも出演されているので、もし観られる環境にいる方は観てほしいです。

 そういった意味では、9月30日に公開される映画『虎の流儀』で僕が演じた車田清という男も、今の時代的には少し特殊な男なのかもしれません。映画のジャンルとしては、任侠映画で、「旅の始まりは尾張 東海死闘編」と「激突!燃える嵐の関門編」の2作連続公開になります。恋あり、アクションあり、カーチェイスありの作品で、とにかく車田が暴れまわります。名前でピンと来た方もいると思うんですけど、『男はつらいよ』の車寅次郎と渥美清さんなんですね。男くさくて、ちょっとドジで、惚れっぽい。でも、腕っぷしはめっぽう強く、人情に厚い。車田はそんな昭和の男なので、トラブルメーカーでもあるわけです。間違った正義感を振りかざしたりもする。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。主演映画『虎の流儀』が9月30日より2作連続で公開される。

 ただ、車田に振り回されてしまう周りの人たちも面白い人たちばかりで、そういう部分も含めて、極上のエンタメ作品になっていると思います。
 時代のせいにはしたくないですけど、コロナや悲しい事件で心が沈んでしまうことも多いと思うんです。ぜひ、この映画を観て、一時でも現実を忘れていただければなと思います。決しておとぎ話ではないんですけど、現実離れした車田という男の生き様を見て、元気になってほしいですね。

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