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 お正月が終わり、落ち着いた頃にやってくる大きな歳時記が成人式です。毎年の恒例行事として当たり前のようにある儀式ですが、そもそも「成人=大人」という解釈に、何だか僕は釈然としないんですね。どんな人間でも、365日×20年を過ごせば、お酒やたばこなど、いろんな権利が大人として与えられます。「経験値」という意味の、一つの目安としては理にかなっているとは思うんですけども……。これが、神様が「二十歳から成人です。大人としなさい」と決めたのだとしたら、従うべきだと思えるんですよ。あるいは、本人の人間力が試されたうえで「大人」と認定されるとかね。パプアニューギニアのある部族は「狩りに行き、この動物を仕留められたら大人だと認める」という定めがあります。そういう基準って面白いし、納得できるんです。でも日本の「成人=ハタチ=大人」はどこかの誰かが勝手に決めたこと。そう思うと「へ!」と思っちゃう自分がいるんですよね。成人かどうかは自分で決めさせてもらいますよ、と。

 そんな人間なので、僕自身の成人式にも、価値を見出せませんでした。まわりの連中は成人式を大きな儀式として迎える人も多かったんですが、僕は同級生が集まって祝うことにも興味がなかったから、成人式には出席しませんでした。式の当日、何をしていたのかも思い出せないくらい、全くの無関係。まぁ、その夜の写真だけは残っているんですけどね。ディスコでの写真なんですけど、一緒に写っている連中はみんな成人式用のスーツを着てネクタイを締めているのに、僕だけセーターを着てヘンな格好です(笑)。どうして大人になる儀式に価値を見出せなかったのか……自己分析すると、恐らく僕はどこかで、大人にならなくてもいいんじゃないかと思っているからだと思うんですよ。もちろん一定の経験値を積んだ人間として「責任」は伴うし、様々な場面で自分の行動に責任を取るということは大事です。だからといって「大人だぞ」と、言わば“大人にあぐらをかく”ような人間よりは、いつまでも子供みたいな人のほうが僕は信じられる。童心を忘れない無邪気さや純粋な視点にも大きな価値があると思うんです。

 そんなことを言いつつも、僕にも明確に「大人になったな」と感じた境界線があるんですけどね。それは……自分が父親になったときです。なぜなら、僕が子供のままだったら兄弟になっちゃうのでね(笑)。親になるということは、少なくとも大人になっていかないとな、と。だから、僕が大人になったのはハタチではなく32歳なんです。子供が生まれて変わったことと言えば……まぁそれも意識的にではなく、気がつくとそうなっていた、というだけなんですが、口から入るものが自分の原動力、ガソリンだと思うようになりましたね。昔は食べ物なんて何だっていいやと思っていた。粗悪なガソリンでした。

 もっと言うと、口から入るものだけじゃなく、自分の目に映るもの、聴く音も自分を形成する要素、原動力の一つだと感じるようにもなりました。だからこそ、くだらないニュースを見るよりは、公園を歩いて、自然の移り変わりを眺めたり、美しい鳥の声を聴いたりしていたいんです。もう一つ大きく変わったことは、悶々といろんなことを考えなくなったこと。深く考える事は、もしかしたらこの世の中で必要ないことかもしれないな、とさえ思うようになりました。それよりも楽しいことだけを考えればいいと思うんです。

 どうせ、日々生きていくだけでいろいろなことを考えなくちゃいけなくて誰もが大変なんです。ほっといても、人それぞれ自分の壁を乗り越えなきゃいけない場面は訪れるんです。だから、自分からあえて難しいことなんて考えなくていいんじゃないかなって。「難しいことを考えること=大人」ではない。ハタチの頃の方が難しいことを考えて、年齢を経るごとに楽しいことばかり考えようと変わっていくのは、なんだか不思議なものだなぁと思いますけどね。

 そんな僕から、新成人を迎えた方々に何か言えるとしたら、「失敗を恐れず、いろんなことにチャレンジしよう!」ということでしょうか。ちょっと重いでしょ? 僕が言うと(笑)。 多くの人は、見えない未来を想像して怖がっている。誰も未来のことは分からないですからね。もちろん僕だって分かりません。でも僕はね、何も怖いものがないんですよ。怖がっていたら、これから起こる出来事に失礼だなと思っちゃうんです。

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『5時に夢中!金曜日』(TOKYO MX)ではMCを担当。

 怖いかどうかは起こってみないとわからない。もちろん、いざやってみたら怖かったり、失敗することもありますが、そうなったらそのときに考えればいいだけです。まずは自分を信じて、やりたいなと思ったことをやる。行きたいなと思った方向に行く。その勇気を忘れずに。一度の人生、楽しんだ者勝ち。それは間違いありませんから。

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