役者の世界である程度長くやらせてもらっていますが、僕らの仕事って、自分を客観的に見ることが大事なんですね。そして、そういった客観的な視点というのは意外と養うことが難しい。実際にカメラで撮ってみると、全然自分が思い描いていた芝居になっていないときがあります。例えば、すごく良い動きをしているのにカメラの画角に収まらず、顔が切れていたりすることがある。デビューしたての方に起こりがちなことなんですけど、僕がそういう場面に遭遇したら「どうせだったら、顔が見えるように動いたほうが損しないですよ」とアドバイスすることもあります。それは他人が外で見ているから言えることであって、なかなか自分で気づくことは難しい。ただ、指摘されて意識することはできると思うんです。
僕もいろいろな人から助言をいただき、影響も受けてきました。水谷豊さんもその一人。『相棒』でご一緒させていただき、6月3日公開の豊さんの映画『太陽とボレロ』にも出演させていただきますけど、やはり豊さんの現場は、僕の役者としての大きな糧になっています。ドラマや映画の撮影現場は段取りが大切ですが、現場にちょっと早く着き過ぎると、まだスタッフの方が来ていなくて、車をどこに停めていいのかわからなかったり、準備がされていなかったりということが多々あるんですね。でも、『相棒』の現場はそういうことが一切ないんです。無駄がないというか、とてもスムーズにすべてが進む。「ちょっと待ってください」と言われることがありません。
現場に着いたら、「こちらです」とアテンドするスタッフの方がいて、「衣装がこれです」「持道具がこれです」とフォローする方もいる。控室にはちゃんと自分の衣装がかかっているし、時間も押すことがない。演じる側としてはとても助かりますよね。それって、やはり豊さんがずっとそういった雰囲気づくりをされてきているからだと思うんです。映画やドラマの現場に長年携わってきた方だから、現場をどうしたらいいかをよくわかっていて、だからこそ周りの人たちも滞りなく進めることができる。
『相棒』はテレビの現場なので、当然細かく撮影スケジュールが組まれているんですけど、キャスト陣には現場についてから撮影が始まるまでの間に、談笑する時間が設けられているんですね。僕らはそこでアイドリングができるので、慌ただしく撮影に入らないで済む。とても考えられているというか、豊さんのゆとりあるリズムが流れている現場です。結局、ドラマや映画の現場って、主役の人となりや、その方が持っている雰囲気に染まっていくものだと思いますから。
実は、まだ詳細は言えませんが、ある映画で主役を演じまして、そのときの現場は豊さんのスタイルを参考にさせてもらいました。みんなに「あの現場は良かったな」と思われる現場を目指そうと、いろいろと口も出させてもらって。例えばご飯。事前にプロデューサーにも相談して、なるべくお弁当じゃなくて、炊き出しというか、温かいケータリングをお願いしました。食事はその後の撮影を頑張れるかどうかを大きく左右しますから。今日が肉だったら明日は魚とか、バランスも考えてもらいました。
みんながご飯に満足してくれれば、それは良い演技につながるわけですし、良い映画にもなる。僕は、主役以外を演じることが多いので、主役以外の人たちの気持ちがよくわかるんですね。だからこそ、今回は主役として、みんなの居心地の良い現場にしようというのは強く意識したと思います。スタッフやキャスト陣に「こういうふうにしましょう」「みんなでこういうことを心掛けてやりましょう」という話はさせてもらいました。
原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『バラいろダンディ(金曜日)』(TOKYO MX)ではMCを担当。6月3日に公開される映画『太陽とボレロ』では、チェロ奏者の与田清を演じる。
現場での人との距離感や居ずまいなどは、豊さんをはじめとした主役の方たちを自然と真似していると思うんです。ドラマにしろ映画にしろ、成功するのも失敗するのも、やはり主役に寄るところが大きくて、主役の役者はみんな重い責任を背負わなければいけない。僕は、その方たちが責任を背負う姿を間近で見てきているので、やはり主役を演じるとなると身は引き締まります。今回の現場もみんなに良い現場だと思ってもらえていれば、これほどうれしいことはないですね。