FILT

 僕ね、休日は運動してるんですよ。それはトレーニングという感覚とはまた違って、やろうと思ってやっていることじゃないんですね。体が求めるというか……もう、無性に走りたくなるんです(笑)。去年の夏頃から炎天下の中を走り始めて、やっぱり尋常じゃない量の汗をかくわけですけど、それがものすごく気持ちいい。
 走りたい場所があるんですが、まず家からそこまで自転車で片道7km走って、着いたら3、4kmランニングして、また7kmかけて自転車で帰る。それ、1日に2回やったりしますからね。ジムに行けばランニングマシーンがありますが、そういうことじゃないんですよ。夏なら夏の空気、秋なら秋の風を感じる。そういう五感を使いつつ運動するっていうのを欲しているみたいですね。それは自分が生きる上での必要な感性の磨き方というか……美術館に行って芸術品を見るのもいいけど、それよりももっと原始的な方法で刺激をするやり方がいい。時間を見つけてはその感覚に従っています。
 

 自分でも50になって走るようになるとは思ってなかった。若い頃はまったく逆で、運動なんて全然やらなかったですから。でも、もっと遡ると、子ども時代は走るのが好きでしたから、その血が騒ぎ出したんでしょうね。全盛期に比べたら体力は落ちてますけど、今の体力に応じた、ちょうどいい運動の仕方ができている感覚があります。
 普段、仕事をしている時間は常に勝負をしている感覚なので、仕事中はまったく気が抜けないんですよね。勝負っていうのは誰かと競うってことじゃなくて、一回一回の仕事が次につながるかどうかの判断になると思っているので、その場所での居方や発言も含めて、相応しい振る舞いができたかどうか。
 ずっと気を張っているので、収録が終わって楽屋に帰ってきた瞬間、フッと気が抜ける。そこは一番気が休まる時間でしょうね。ボクサーで言うと、試合を終えてグローブを取ってバンテージをゆっくり解く時間みたいな……ま、そんなかっこいいもんじゃないんですけど(笑)。
 

 リラックスしている時間で言うと、家にいるときは常にそうですね。休日の午前中、運動に行く前は必ず掃除をしてます。掃除機をかけて、床拭きもして、トイレ掃除もして……誰が言ったのかは忘れましたが、トイレ掃除はその場所の長がやるべきだという話を聞いて、なるほどなぁ~と思って以来、僕が喜んでやっています。家がキレイになるって気持ちいいじゃないですか。家族にも快適に過ごしてほしいという思いはもちろん大いにありますが、でもまずは自分。自分が気持ちいいってことは人も気持ちいいから。人を幸せにしたいと思ったら、自分をまず幸せにしないとダメなのと同じですよね。
 

 “大人のたしなみ”としては、仕事相手とゴルフに行ったり、飲みに行ったりしてコミュニケーションを取ったほうがいいのかもしれないけど、僕は人と遊ぶ時間があったら自分の時間に費やしたい。この「自分の時間」には家族といる時間も含まれます。家族と過ごしたり、掃除をしたり、自分の感性を刺激するために走ったり……僕、自分に一番、興味があるんですよね。みんな「つるむ」ことで安心感を得ている面もあると思うんです。それは別にいらないので。人との交流は大事なことだけど、ある意味ではずっと尖っていたい。
 

 常に、世間が当たり前だと思っていることに対して、ホントにそれでいいのかという問いを持って心を鋭くしておきたい。そういう思いだけは自分の中で温めて、磨いておきたいです。例えばニュースだって100%鵜呑みにして信用するのではなく、そこから自分だけの真実を掬いとるような感覚を養わなければならないと思っています。ニュースの背景にはいろんな事情、お金や権力が絡んでいたりしますから。じゃあ、真実を見極める目はどうやって持てばいいのか……そのためには、知識よりも、まず心をきれいにしておくことが大事だと思うんです。
 

 いただけるお仕事に感謝したり、いただけるご縁に思いを馳せたり、家族と過ごす時間に心を込めたり、四季の移り変わりを尊く感じたり……そういう些細なことの集合体で美しい心が作られていくんじゃないかなって。
 まぁでも、美しい心を作るために自然を大切にしてるのではなくて、自然が好きなのは理屈じゃないんですけどね。秋、落ち葉がぱ~っと落ちる、その中を走っていると木ってすごいなぁと思う。
 

原田龍二

原田龍二 はらだりゅうじ 俳優。1970年生まれ、東京都出身。俳優として活躍する一方で、バラエティなどにも出演。『5時に夢中!金曜日』(TOKYO MX)ではMCを担当。ニッポン放送のラジオ「DAYS」の水曜パーソナリティを担当。

 誰に言われるでもなく、秋になったら葉を落として、また緑の葉をつける準備をして……巨木を見ていると思うんですが、ここでずっといろんなことを見てたんだなと。何も喋らないけど、しっかりそこにいて生きてきたんだなって。だから僕は、いつかそんな木の声が聞こえるようになりたい……まぁ、叶わない夢ですけどね。休日にはそんなことを思ったりしています(笑)。

CONTENTS