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 2023年は『極悪女王』に『碁盤斬り』、そしてクランクアップしたばかりの大型時代劇まで、複数の作品を撮り終え、プロデュース作品である『渇水』のPRにも奔走。白石監督はそんな怒涛の1年をこう振り返る。
「去年、『極悪女王』の撮影が延期してしまったこともあって、今年はほぼずっと何かを撮っていました。たぶん1年のうち7~8ヵ月は撮影していたと思います。もう正気の沙汰じゃないですよ。撮影なんてのはたま~にやるからいいんであって(笑)。僕、もうすぐ49歳で、来年は50歳なんですけど、あと10年ぐらい頑張るためには、自分自身の働き方改革をしなきゃなとは思ってます。改善できるのであれば、ちょっと1回リズムを作り直したいなって」

 大型時代劇の撮影は8月18日のクランクインから11月中旬まで、約3ヵ月間にも及んだ。千葉の石切場跡に大掛かりなセットを組み、劇中の主要なシーンを撮りきったが、時には天候に左右されることもあったという。
「真夏だったので、スコールみたいな雨が大変でしたね。セットの一部が台風で冠水したこともありました。でも、暑い中でスタッフも頑張ってくれて、体力的にはしんどかったですけど、充実した撮影になったと思います。キャストもクランクイン前に殺陣の稽古をずっとしてくれていましたし、みんなめちゃくちゃ気合が入ってました」
 白石監督をはじめ、一部のスタッフや出演者らは、石切場跡からほど近い民宿に泊まり込んで撮影を乗り切った。
「東京には撮休日の前夜に帰ってましたけどね。打ち合わせや他の作品の編集を撮休日にして、また千葉に戻るという日々でした」

 その石切場跡は数多くの映画の撮影で使われており、白石監督にもこんな思い出があった。
「僕も崔洋一監督の『カムイ外伝』の応援に行ったときに初めて訪れて。美術の今村力さんに会ったりとか、いろいろな人との出会いの場でもあったところです」
 撮影は石切場跡のある千葉を中心に、東京、神奈川、茨城、長野、新潟、宮城、京都、兵庫などでも実施。白石作品としては過去最大級の規模となる。

「アクション時代劇なので仕掛けも多くて、そういった意味では進むスピードがどうしても遅くなってしまうんです。とにかく時間がかかる。あと、大変なのはやっぱり人数が多いことですね。群像劇はこれまでけっこう撮ってきたつもりだったんですけど、1シーンにメインのキャストが十数人も登場することってなかなかないので、それだけでもさばくのが一苦労だし、撮るカットは増えていくし、みんな好き勝手なこと言うし(笑)。でも、やっぱり時代劇って撮っていてめちゃくちゃ楽しいんです。僕はこれが2本目で、しかも今年に入って初めて時代劇を撮りはじめたんですけど、撮っていて“江戸時代はきっとこうだったんじゃないか”って想像力が働くし、そういうふうに考えることが作品にも生きてくる。周りにはこれまで時代劇に携わってきたスタッフがたくさんいて、そういう人たちが“いや、これはやったことない”とか“これはNHKじゃ絶対やらないな”とか言ってくれるとうれしいんですよ」

 時代劇はまさに日本映画の歴史でもある。その中で、白石監督には新しいことにチャレンジしている実感があった。
「そういうものを生み出せているんだなっていう気はしていました。少なくとも、これまで見たことのない時代劇になるんじゃないかなと。ただ、時代劇って、誰かが一つ形式を生み出したら、それ以降はそれがスタンダードになる世界でもあるらしくて。だから、この時代劇や『碁盤斬り』でやったことを誰かが真似してくれると面白いですよね」

 題字や音楽を進めている最中だという『碁盤斬り』は、追加キャストも発表された。
「今回、初めましての方が多かったんですよ。お絹役の清原果耶さんは芝居に集中していて、非常にストイックな印象を受けましたし、弥吉役の中川大志くんはすごくしっかりしていました。あと、長兵衛役の市村正親さんとも初めてで、リリースのコメントにありましたけど、現場でも“僕たち気が合うよね?”とおっしゃっていて、“はい”と。そこで“いいえ、合いません”とは言えないでしょ(笑)。かわいい人というか、おちゃめな方です。全員とてもいい出会いでした」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。2010年に長編映画監督デビュー。近年の監督作品に『凪待ち』『ひとよ』『孤狼の血 LEVEL2』『死刑にいたる病』『仮面ライダーBLACK SUN』、プロデュース映画に『渇水』など。最新作『碁盤斬り』が2024年5月に公開予定。

 来年の2024年は、撮り終えた作品の仕上げが中心になるという。
「短編の撮影とかはあるんですけど、少しはゆっくりできると思います。今年は映画を見たり、本を読んだりくらいしかできていなくて。本当はライブや演劇、パフォーマンスを見たり、もっといろんなエンタメや芸術に触れたいんです。アウトプットばかりだったので、そういうことも時間を作ってやっていかなきゃなと。とはいえ、来年は公開作もあるのでPR活動をしながら、秋には新しい撮影も予定してますし、ちょっと手のつけられていない企画や、プロデューサーと進めている企画とかもあったりするので、仕上げの作業ともうまくバランスを取りながら、充電と準備をしていきたいですね」

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