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 映画の公開を間近に控え、白石監督が振り返るのは、やはりコロナ禍での映画制作についてだった。
「クランクアップが昨年の11月頭で、完成したのは今年の2月くらいだったんですけど、まさかここまでコロナが長引くとは誰も思っていなかったので、年が明けてからも“まだ続くんだ……”という思いは正直ありましたね。でも、その中で1人の陽性者も出さずに完成までこぎつけることができたというのは、すごくホッとしています。もちろん、みんながすごく注意してくれたおかげなんですけど。そういう意味では、こんな暴れまわる映画がコロナ禍の中で作れたというのは、奇跡だと思っています」
 白石監督のもとには一足先に映画を観たキャスト陣から次々とメッセージが到着。
「試写会の日時を把握していないので、唐突に連絡が来るんですよ。音尾琢真くんからいきなり電話がきて“なんてものを作っているんですかー!”みたいな(笑)」

「上林役の鈴木亮平くんは観終わった後、普通に広島弁になっていましたね(笑)。かたせ梨乃さんも『極道の妻たち』以来の極妻役でしたし、すごく喜んでくれました。“監督ぅ~!”って。コロナじゃなかったら抱き合っていたと思います」
 日岡秀一を演じた主演の松坂桃李の反応も気になるところ。
「桃李くんからはLINEで“ヤバいの作りましたね”と来ました。いや、役の上では彼も相当ヤバかったですけどね(笑)。桃李くんって普段の佇まいはどちらかというと、この間まで井浦新さんと出ていたドラマ(※『あのときキスしておけば』)みたいな感じなんですけど、この作品を撮ることが決まって久々に会ったときにちょっとオラついている雰囲気というか、役に合わせた雰囲気をまとっていたんですね。すごく頼もしかったですし、役者としてまた違うフェーズに入ったのかなとは感じました」

 そして、白石監督にはもう一人、どうしても観てもらいたい人がいた。ほかでもない前作で大上章吾を演じた役所広司その人だ。
「役所さんからはメールで“必ず観ます”というお返事をいただいたんで、観てくれると思います。今作は日岡が大上になろうとした話であり、大上の影を追い求めている話でもありますから、喜んでくれるといいんですけど」

 大上になろうともがく日岡。ヤクザにならざるを得なかった上林。劇中に出てくるのは、多くがそうせざるを得なかった者たちだ。
「そこは強く意識していますし、むしろそこの部分を描くために作っているところも大きいです。例えば『仁義なき戦い』の背景には戦争があって、日本の国民も国土も等しく焦土になったところからのスタートなので、ある種誰もが平等だったんですね。でも、今の時代は差別だったり貧困だったりで、すでにいろいろなことが平等ではなくなっている。“ヤクザって何なの?”ということを突き詰めると、在日韓国・朝鮮人の差別問題や部落差別問題などの日本が見落としてきた歴史の話になってくるんです。今回がオリジナル脚本ということもありますけど、やはり前作でやり残したものというか、疑問みたいなものはあったので、そこを描きたかったというのはあります。ただ、全面に出すつもりは全然なくて、あくまでエンタメとして面白いものを作りたいというのがベースになっていて、その中で“誰が犠牲になっているの?”という部分をちゃんと見せるべきだろうと」

「最終的には原作者の柚月裕子先生からも“大丈夫です”というふうに言っていただいて、東映にもOKをもらったので、やりたいことを乗っけていった感じですね。僕だけじゃなく、脚本の池上純哉さんたちとも話しながら。ちなみに今回、柚月先生も少しだけ出演されているので、どこに出ているか探してみてください。あと、対談したご縁で丸山ゴンザレスさんにも出ていただいています(※NHK『SWITCHインタビュー達人達』)」

 今作では、日岡が自身の正義を信じて突き進む姿が描かれる。
「正義の捉え方というのは人によって違いますから。日岡の正義も大上の正義もまた違うものなんですよね、きっと。日本でもそうですよね。一つの出来事をとってみても、みんなそれぞれの正義を持ってやっているでしょうし、都合よく使われる言葉なので形骸化してしまっている。ある意味で、うさんくさいものだと思いますよ、“絆”と並ぶくらいに。映画の中でも正義は使い勝手のいい言葉でしたし、だからこそ、本当の正義って言葉にできないものなんじゃないかなという気はするんですけどね」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。その他の主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』などがある。『仮面ライダーBLACK SUN』が2022年春にスタート予定。

 公開まであとわずか。白石監督は「多くの人に楽しんでほしい」と言葉に力を込める。
「コロナを吹き飛ばせる映画だと思っていて、すでに観ていただいた方から“元気が出た!”と言ってもらえているのも自信になっています。前作と今作を観ていただいた後に、日岡の未来がどうなっていくのかを想像するのも楽しいのかなと。上映時間は2時間20分ありますけど、たぶん体感は1時間45分ぐらい。それくらいあっという間ですし、さっき話したような奥行きもある映画なので、ぜひ劇場に観に来てほしいですね」

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