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 前作から3年。広島・呉での撮影で白石監督が感じたのは、刑事の日岡秀一を演じた俳優・松坂桃李の成長だった。
「前作のときよりも、びっくりするぐらい役者として大きくなっていました。それはもちろん役柄的な立ち位置もあると思いますが、腹が据わっているというか、どっしり構えているというか。桃李くんは『孤狼の血』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を、次の年には『新聞記者』で最優秀主演男優賞を受賞しましたよね。他にもいろいろな賞を獲っていて自信もついたでしょうし、“キング”になりつつあるという印象です」
 2018年の『娼年』では娼夫、『新聞記者』では内閣情報調査室のエリート官僚、2021年の『あの頃。』ではアイドル好きの大学生を演じている。
「いま、他の人がやっていない役を一人でやっている感じがありますよね。それはやっぱりさすがだなと思います。作品のチョイスも含めて」

 そもそも、日岡役は白石監督たっての希望でもあった。
「桃李くんとは2017年の『彼女がその名を知らない鳥たち』でご一緒しているんですが、そこで役者としての考え方や才能に惚れて、そのまま『孤狼の血』にも出てほしいと思ったんです。あと、やはりあのタイミングで大上章吾役の役所広司さんとバディを組める俳優となると、相当なポテンシャルを秘めている人じゃないといけないわけですよ。桃李くんだったらいけるという確信みたいなものがありましたし、役所さんに匹敵するような俳優になってほしいという思いもありました」
 『孤狼の血 LEVEL2』の公開を前に、その他のキャストも続々と解禁。新たな出演者には、渋川清彦や宇梶剛士、寺島進など、当代きっての強面たちが顔を揃える。
「役作りをしなくても、そこにいるだけで世界観を作ってくれる人たちですよね。寺島さんなんかは“よく引き受けてくれたなぁ”という役回りなんですけど、お願いしたことは全部やってくれましたし、すごく素敵な方でしたね」

 キャストがバランスよく配置されているのも本作の特徴の一つ。
「ヤクザ映画に欠かせない人と新しい人を織り交ぜながら、できるだけ“ごった煮感”を出すことを意識しています。今回は参加していませんけど、芸人さんとか、いわゆる役者ではない別ジャンルの方に入ってもらったほうが僕の映画はエネルギー感が増すというか、“上がる”感じがするので、キャスティングではそういう選択をしがちですね」

 新聞記者の高坂を演じる中村獅童や、県警本部・管理官の嵯峨を演じる滝藤賢一など、前作からの続投組にも注目が集まる。
「前作で獅童さんに“俺、ヤクザやりたかったよ、監督!”って言われたんですね。でも、今回観ていただければわかるんですけど、すごい活躍してくれて、やっぱりこのポジションは獅童さんにお願いして良かったですし、楽しめると思います。滝藤さんには、今回からはじめたリスペクト・トレーニングについて、“監督、ありがとう”と言ってもらいました」
 リスペクト・トレーニングとは、撮影時にスタッフやキャスト間で起きる差別やハラスメントの防止を目的とした研修のこと。互いにリスペクトするという共通認識を養うためのトレーニングで、かねてから問題意識を持っていた白石監督のもと、撮影に入る前に実施された。

「役者さんは僕らが思っている以上に撮影現場で若い子が怒鳴られたり、蹴られたりしているのを見ているんですよ。滝藤さんも“そんな中で芝居しろって言われてもできないよね”とおっしゃっていて、ああ、その通りだなと思ったんです。現場をピリピリさせたからって緊張感のあるシーンになるわけじゃありませんし、僕なんかは“プロが演じてプロが切り取っているんだから、緊張感のあるシーンにならないのは腕の問題だろ”と思うわけですよ」

 日本映画界の抱える問題は、現在進行系だ。
「あの監督が大声で怒鳴っていたとか、スタッフが精神的に病んで業界を辞めたとか、そういう話をいまだによく聞くんです。日本映画界はただでさえ世界的にいろんな面で遅れているのに、キャストやスタッフが働きやすい環境を作っていかないと、若い人も入ってこないし、未来もないと思うんです」
 リスペクト・トレーニングを取り入れた効果はすぐに出たという。
「今回の現場でキャストやスタッフの笑顔が増えたのは印象的でしたね。やはり人間なんでイライラすることもあるんだけど、そういうときは言えるようになりました。“今ちょっとイライラしてるよね”とか“一回、外に出て深呼吸をしてこよう”とか」

寺島進

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。その他の主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』などがある。『仮面ライダーBLACK SUN』が2022年春にスタート予定。

 もともと白石組ではハラスメントや怒鳴り声などは厳禁だったが、今回のリスペクト・トレーニングの取り組みがニュース記事になったことで、日本映画界全体に良い影響を及ぼすことも期待している。
「自分の範囲だけじゃなくて全体が良くなればいいですよね。『孤狼の血』のようなインモラルな映画だからこそ、意味もあるのかなと思っていたので、やって良かったです」

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