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 暴力団同士の抗争が激化する昭和末期の広島を舞台に、2人の刑事の生き様を描いた映画『孤狼の血』の続編がいよいよ始動する。前作同様にメガホンを握る白石監督は、クランクインの準備に追われていた。
「撮影は今回も広島市と呉市で行います。作品によっては東京でセットを組むという選択もあるんですけど、『孤狼の血』はやはり広島でしか撮れないものだと思うので。ただ、僕らが向こうに行ってクラスターが発生したなんてことになったら洒落にならないので、今回は全スタッフとキャストが行く前に抗体検査とPCR検査を受けています。絶対に迷惑はかけられないですから。広島と呉はとても撮影に協力的な土地柄で、街ぐるみで応援してもらっています。前回は映画のロケマップを作ったんですけど、ここでカチコミがあったとか、この建物がヤクザ事務所だったとか書いてあるので、正直大丈夫かなと思ったんですけど(笑)、地元の皆さんにも喜んでもらえたみたいです」

 コロナの影響を受けて疲弊する広島や呉の街を元気づけたいという思いも強い。
「多くの店が閉店を余儀なくされているので、少しでもお手伝いをしたいというのはありますね。ただ、大人数でフラフラと繰り出すわけにもいかないので、なかなか難しい。前作はああいう映画だったので、僕がまずギラギラしていないとギラギラした映画にならないだろうということで、撮影が11時に終わっても飲みに行ったりとかしていたんですけど、今はそういうこともしづらいですよね。おとなしい続編にならないよう、自分の中から燃え上がらせて、ギラギラしていこうかなとは思っていますけど」
 ロケハンもキャスティングも終わり、脚本もほぼ完成。先輩刑事の遺志を継いだ日岡の“その後”の物語が描かれる。
「脚本はまだ微調整していますけど、良いものになったと思います。映画にすると3時間を超えるようなすごく長い脚本を一回作ってもらって、それを短くしていったので、内容が凝縮されています」

 前作では表現しきれなかったことも、今作には盛り込んである。
「僕や脚本家の池上(純哉)さんが普段から思っていること、考えていることも入れました。例えば、ヤクザにならざるを得ない貧困の問題とか、暴力の連鎖とか、なぜ舞台が広島なのかとか、そういった本質的なことを含む、いろいろな意味合いを持つ脚本になっています」

 前作との最大の違いは、圧倒的な存在感を放っていた役所広司演じる刑事の大上章吾が不在だということ。
「今回は役所さんという太陽がいないので、それをどうやって他のキャストと僕たちスタッフのアイデアで補っていくかですよね。大上の残り香をみんなで嗅いでいるような話なので、完成したら、役所さんにまず観てもらいたいと思っています」
 大上の信念を継承するのは、刑事の日岡秀一。
「日岡はちょっとワイルドになっているので、そこの変化は注目してほしいですね。本当は日岡が刺青を入れているところから始まろうと思ったんですけど、それはさすがに却下されました(笑)」

「桃李くんとは、5月の外出自粛期間中にオンライン飲みをしたんです。桃李くんから誘ってくれて『監督だったら、飲んでくれそうだった』って(笑)。最初は2人で飲んでたんですけど、途中で音尾(琢真)くんも加わって。そうしたら音尾くんが『役所さんも呼ぼう』って言い出して、実現はしなかったですけど、ドキドキしました(笑)」

 加古村組の構成員を演じた音尾を筆頭に、前作は個性的なキャラクターが物語を盛り上げた。気になるのは、続編のキャスティングだが……。
「濃いキャラクターが増えているので、どうなるのか僕も楽しみです。ありがたいことに前作の公開後から大勢の方に『続編をやるなら参加させてほしい』とおっしゃっていただきました。皆さんやっぱり俳優だから、暴力的な役柄を演じてみたいというのはあるのかもしれないです。普段は恫喝したり、胸倉を掴んだりすることなんて絶対に無いじゃないですか。役の上ではそれが仕事ですからね」

白石和彌

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。その他の主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』などがある。

 最後に白石監督は撮影への意気込みを語った。
「前作よりもいろいろな面でパワーアップしていますし、とんでもない映画になるという予感もあります。広島の方たちに喜んでいただくことを目指しつつ、現場では暴れ倒そうと思っています。もちろん、冷静にコロナ対策を講じながら。前作は公開後、動画配信サービスやDVDなどで、多くの人に観てもらえていると思います。続編である本作は、まずはぜひ劇場に足を運んでほしい。そのための仕掛けをできるだけ作って、劇場を盛り上げて、日本映画も盛り上げていきたいですね」

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