FILT

加藤浩次

加藤浩次

加藤浩次

撮影/野呂美帆

加藤浩次が会いたかった人と“至福のとき”を語り合う。

第9回は、小説家の今村翔吾さん。

加藤 今日はお忙しい中、ありがとうございます。今、かなり激務なんじゃないですか?
今村 作家以外の仕事が全部終わった後に、書き始める毎日です。切れ目がないんですよ。
加藤 それでも、どんどん仕事を入れていくわけですよね?
今村 僕は昭和59年生まれなんですけど、ギリギリ昭和的な考え方というか。僕がこの仕事を断ると、他の同年代の人に取られてしまうんじゃないかと思うんです。そういう負けん気は強いかもしれません。
加藤 それだと無限に仕事が増えていきますよ(笑)。
今村 自分で判断すると全部引き受けてしまうから、仕事の選択に関してはスタッフに任せるようにしました。それでも、すでに決まっている仕事が2025年ぐらいまであるんです。
加藤 これから2年間はずっとスケジュールが埋まっているということですよね。
今村 連載の仕事がずっと入っています。ほかにも、コメンテーターや書店のオーナー、若者たちに読書の大切さを伝える活動も始めました。

今村翔吾

作家という仕事の

素晴らしさを伝えるために、

露出していくことが重要。

加藤 僕は『スッキリ』で初めて今村さんとお会いしたんですけど、作家さんってあまりテレビには出てくれないんですよ。今村さんは新しいタイプの作家さんというイメージです。
今村 気がついたらそうなっていたというところはあるんですけど、最初は同業者からどう思われているのか気になっていました。でも、北方謙三さんからは「いじってもらえる作家は貴重だから、いい意味でピエロとして遊ばれていたらいい」と言っていただいたんです。林真理子さんは「私の後に続く人がいなかった」とおっしゃっていて。作家が憧れを持たれる職業になっていないのが問題なんですよね。作家はとても素晴らしい仕事だと思っているので、どんどん露出して、おもしろさを伝えることが重要かなと。
加藤 変な話、今村さんの本を読んだことがない人でも今村さんのことを知っていますよね。
今村 顔を指されるし、声でもバレます。
加藤 めちゃくちゃいい声ですもんね。
今村 声優のお仕事があったら、ぜひ!(笑)
加藤 いろんな仕事をしたいというモチベーションはどこから来ているんですか?
今村 たぶん、自分が知らない世界を知りたいという欲求ですね。
加藤 それが小説を書く時に活かされるわけですか。
今村 常に作品に活かせるものを探しているような感覚です。例えば道を歩いていて電話をしている人とすれ違ったときに、その人の表情を見ているだけで一気に想像が膨らんでいきますから。
加藤 これは歴史時代小説を書かれている今村さんにお聞きしたかったんですけど、司馬遼太郎さんが小説として書くまで、坂本龍馬はそんなに有名じゃなかったというのは本当なんですか?
今村 明治時代に取り上げた人がいたけど、無名から一段階上がった程度でした。司馬さんが一気に龍馬の知名度を上げたんです。
加藤 龍馬の人物像は小説通りなんですか?
今村 今は研究が進んでいるし、司馬さんが上手くエンタメ化している部分もあるから、必ずしもその通りではないと思います。でも、司馬さんがイメージを作り替えたことも歴史と言えるんですよ。

加藤浩次

『竜馬がゆく』と

同じ巻数で

勝負したい。

加藤 まだ変わる可能性がある?
今村 歴史的な事実がわかったら変わらざるを得ませんけど、龍馬像はなかなか変わらないですよね。そもそも司馬さんが作った龍馬のイメージを崩す人がいなかったんです。誰も挑まなかった。ただ、新聞の取材で僕が龍馬を書くと言っちゃったんですよ(笑)。
加藤 本当ですか!?
今村 40代の仕事について聞かれたので、勝てるとは思っていないけど司馬さんに挑みたいと話しました。薩長同盟に向かうときの思いとか、ただ歩いているだけの姿とか、普通の龍馬を真正面から描きたい。できれば『竜馬がゆく』と同じ巻数で勝負したいです。
加藤 大きな挑戦ですね!
今村 あと、国内で頑張るのはもちろんですけど、今まで日本の時代小説は世界で売れたことがないので、僕ら世代や若い人たちで何とかしたいという思いもあるんです。世界中の人たちに日本の時代小説を読んでもらいたい。そのためには裾野を広げる必要もあって。実は、頑張れば作家もプロ野球選手のトップクラスぐらいは稼げるんです。それぐらい魅力的な仕事だとわかってもらうために、これからもいろいろ発信していきたいですね。
加藤 そんな今村さんの「至福のとき」は、どんな瞬間ですか?
今村 小説を書いていて、最後のピリオドを打ったときですね。
加藤 至福な気分になる?
今村 気持ちがいいというか、脳内物質がめっちゃ出ます(笑)。登山で頂上にたどり着いたときや、フルマラソンを走り切った後に近い感覚かもしれません。これから小説を書く人には、ぜひ味わってほしい。
加藤 どの辺から、そういう気持ちになるんですか。何文字前とか?
今村 2行、3行ぐらい前から気持ちが高まってきて、ピリオドを打ったら脳内物質がドバーッと出る感じです。書き終わった瞬間から、作品は僕の手を離れていくわけですが、その作品の背中を見送りながら、ゆっくりと葉巻を吸う。これもたまらない瞬間です。
加藤 おもしろい! これからも今村さんの小説を楽しみにしています。

今村翔吾 いまむらしょうご 歴史小説・時代小説家。1984年生まれ、京都府出身。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。2020年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞、第8回野村胡堂文学賞を受賞。『じんかん』で第11回山田風太郎賞を受賞。2021年『羽州ぼろ鳶組』シリーズで第6回吉川英治文庫賞を受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞。

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と極楽とんぼを結成。コンビとしての活動のほか、『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

撮影/野呂美帆