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加藤浩次

加藤浩次

加藤浩次

撮影/野呂美帆

加藤浩次が会いたかった人と“至福のとき”を語り合う。

第11回は、映像作家の柳沢翔さん。

加藤 柳沢さんといえば、ポカリスエットのCMや“重力猫”のムービーがよく知られていますよね。いま海外の仕事も増えていると思うんですけど、日本との違いを感じることはありますか?
柳沢 例えば、ポカリスエットのCMはクライアントや代理店にとても理解があったというか、現場の声を聞いて柔軟に対応してくれました。すごく自由にやらせていただいた印象です。一方、海外はトップダウン方式で、クライアントの言うことが絶対なんですよ。
加藤 そうなんだ。映像に関しても細かく言われたりするんですか?
柳沢 言われますね。撮影まではある程度自由にやらせてくれるんですけど、編集室に入れてもらえないこともあったりして。撮影以降の権限が急に減ってしまうんです。
加藤 日本のほうがうるさいイメージがありましたけど、違うんですね。
柳沢 日本は現場の人に対する敬意があるような気がします。日本にいる時は考えたことがなかったんですけど、海外で仕事をしたことによって、職人に対するリスペクトを改めて感じました。海外は日本よりも役割がはっきりと分かれていて、お互いの領域に踏み込まない感じですね。

柳沢 翔

日本流の仕事は

魂案件と

呼んでいる。

加藤 なるほど。ドライというか、合理的というか。それが当たり前なんですね。
柳沢 僕はアメリカ、フランス、イギリス、アジア全般でそれぞれエージェントを分けているんですけど、海外で仕事をする場合はとにかく賞歴が重要なんです。どれだけ受賞しているのか、というところで見られる。日本の場合は賞を取っても仕事が増えるわけじゃないので、ある意味では海外のほうがわかりやすいかもしれません。
加藤 アートの世界に近いのかなぁ。アーティストも賞を取ると値段が上がったりするから。
柳沢 海外だと映像ディレクターはアーティストやタレントに近い扱いかもしれません。プロデューサーとの関係性は日本とそんなに変わらないですけど、やはり権限の範囲が狭いんです。決められたことだけをやってくれ、と。例えばクライアント側から音楽を変えたいという話が出た時に、日本だったら話し合う機会を作ってもらえるけど、海外では事後報告で勝手に違う音楽に変えられてしまうこともあるんです。
加藤 日本だとディレクターが最初から最後までやるイメージですもんね。そうなると日本流のほうがいいような気もしますけど。
柳沢 僕は日本流で作ったポカリスエットのCMのような仕事を“魂案件”と呼んでいるんです。生きていくためにジョブとして頑張る案件と、魂案件とで精神的なバランスを取っているというか。もちろん、どちらも全力を尽くすのは前提として。
加藤 海外でも魂案件をやってみたいですか?
柳沢 海外でやる場合は相当な力を持たないと難しいです。
加藤 トム・クルーズぐらいだったら実現可能?
柳沢 トム・クルーズだったら何でもできると思います(笑)。
加藤 権限もそうだけど、お金に関する違いも大きいですよね。
柳沢 日本だと予算の関係でセットが作れなかったらCGを使ったりするんですけど、海外では機材も含めて、現物を用意できちゃうんです。お金があれば美しい瞬間を撮るための時間もたっぷり確保できるし、そういうバジェットの違いはありますね。
加藤 でも、ポカリスエットは大きいバジェットでやっていますよね。あの撮影はアナログですか?

加藤浩次

現場の熱量が

高くないと

面白いものは作れない。

柳沢 はい。僕からアナログでやりたいと希望を出しました。
加藤 何でアナログなんですか?
柳沢 例えば『ジュラシック・パーク』みたいな実物が存在しない恐竜のCGを作るとなると、みんな目をキラキラさせて取り組むんです。でも、予算がないし、撮影条件も厳しいから渋谷の街をCGで再現してほしいと頼むと、みんな目が死んじゃう(笑)。
加藤 結局、代替えですもんね。
柳沢 やっぱり現場の熱量が高くないと面白いものは作れないんです。実際に海で撮影するのと、海を想定したグリーンバックで撮るのとでは全然違う。役者さんはもちろん、カメラマンや照明部、美術部の熱量も変わってくる。
加藤 それって、どういう時に気がついたんですか?
柳沢 僕、映像制作は編集が主戦場だと思っていたんです。でも、他のスタッフたちは現場が好きなんだということに気づいて。作品の出来よりも「あの現場良かったね」という話で盛り上がっている。それが衝撃的で。でも、現場の熱量が高いほうが結果的に良いものができるんです。例えば“重力猫”の撮影は実際に鉄骨を組んで部屋を回したんですけど、あれは現場の熱量がMAXになればいいなと思ってやったところもあります。
加藤 そんな柳沢さんの「至福のとき」は何ですか?
柳沢 これまでYouTubeは見てこなかったんですけど、たまたま見た『エガちゃんねる』が面白くて。今は江頭2:50さんの動画を見ているときが至福ですね。どこか『めちゃイケ』っぽいというか、テレビのクルーが作っているのかなって思うくらいクオリティが高いし、豪華だし、なによりも現場の熱量を感じました。
加藤 なるほど、そこにつながるんだ。『エガちゃんねる』は江頭さんの狂気な部分と、本当に優しい人柄の両方が出ていると思うんですよ。そこがやっぱり人気の秘訣なのかなって。それに、スタッフがみんな江頭さんのことをすごい好きな空気が伝わってきません?
柳沢 伝わってきます。それに僕も反応したんだと思います。70歳を越えた両親も楽しんで見ていて。やっぱり江頭さんって優しい方なんですか?
加藤 すごいシャイで人格者ですよ。悩んで悩んで、「もういいや!」と思った末に狂気的な行動に走るんです。普段は全然「関係ねえよ!」みたいな人じゃないです。
柳沢 それはちょっと知らなかったほうがよかったかもしれません(笑)。

柳沢 翔 やなぎさわしょう 映像作家。1982年生まれ、神奈川県出身。多摩美術大学美術学部油画専攻卒業。CMの世界を中心に活躍を続け、カンヌ国際広告祭、クリオ賞、One Show、アジア太平洋広告祭などで数々の賞を受賞。2016年には映画『星ガ丘ワンダーランド』の監督を務める。

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

撮影/野呂美帆