加藤　僕、実は羽生さんに自宅用のダイニングテーブルを作っていただいたんですよ。これが本当に良い物で、ありがとうございました。結構大変でしたよね？
羽生　材料の丸太が見つかったらお引き受けするということで、探すところから数えると1年くらいかかりました。あれは3mぐらいの大きさでしたっけ。軽やかにするために、木の厚みを薄くしたりして、いろいろと工夫しながら作りました。
加藤　羽生さんの作品は新品なんだけど、エイジングをかけたような風合いですよね。
羽生　そうですね、風化させたように見せる手法なんですけど、あの技術自体は自分で試行錯誤しながら探し出したやり方で、非公開にしています。
加藤　あれは、木材の表面を削っていくんですか？
羽生　削りますし、薬品で着色もしています。削った痕跡を分からないようにするのがポイントですね。気配を消す感覚というか、職人技のようなすごさをどんどん消していきたいし、消えている物が僕の中での正解なんです。どこかに捨ててある古材のようになればいいなと。
加藤　羽生さんの作品は、100年経ったようなアンティーク的な良さがありますよね。最初からああいう物が作りたかったんですか？

羽生　僕はもともと工業デザイナーだったんですけど、自分がやりたいものはこれじゃないと思い、デザイン事務所を2年で辞めたんです。
加藤　なぜこれじゃないと思ったんですか？
羽生　当たり前ですけど、工業デザインは手に取る人が使いやすいものや、欲しいなと思うものを作るんですね。それが僕にはできなかった。どちらかというと自分の内側に入っていくタイプだったんです。
加藤　そこから、木を選んだわけですよね。
羽生　それはたまたまなんです。美大で木を触っていた経験がありましたし、木工の職業訓練校が1年間無料で行けたので。木を選んだというよりは、1年間で何か見つかればいいなという感じでした。
加藤　そうだったんですね。
羽生　ただ、当時は自分の中で完成形がまだ見えていませんでした。“朽ちた状態”というモヤモヤとしたイメージはあったんですけど、技術がなかったから、ずっと霧の中をさまよっている感じでした。
加藤　期間はどのくらいですか？
羽生　訓練校を出てから1～2年で可能性が見えてきました。風化した感じにしたいんだけど、技術がないから彫刻刀で削ったり、焼いたり、塗装したり、いろいろなことを試していく中で、自分なりの技法を少しずつ見つけていきました。僕の作り方にはいくつか種類がありまして、器などは木に合わせて作るんです。
加藤　木に合わせるって、どういうことですか？
羽生　テーブルなどの家具は図面を書くんですけど、器などを作るときは“木の奴隷”になるしかないんです。
加藤　木の奴隷！　木を操るのが羽生さんだと思っていました。
羽生　例えば、目の前に無垢の木材がいくつかあったとして、すべて節が違いますよね。穴が空いていたりもするし、虫が入っていることもある。そうなると、そこに合わせて作るしかない。もちろん、最初にどういう形にしようか考えますけど、最終的には木に任せるしかなくなるんです。木の中に器としての塊がすでにあるわけですから。木と対話しながら形を見つけていくというか。

加藤　なるほど。木の中から掘り出していくという感覚なんだ。おもしろいですね！
羽生　水分の量や繊維の向きとか、その木が持っている性質でも変わってきますからね。たまたま木が持っている性質を利用させてもらっている感覚です。何度も作っていくとパターンみたいなものはつかめるんですけど、必ずコントロールできない部分も出てくるので。
加藤　でも、先ほどおっしゃったように、そうして完成したものが職人技や作家性を感じさせない、ある意味では無作為な作品になっているというのはすごいですよね。
羽生　そうですね。作っていく中で、失敗したらその原因を探り、たまたまいい感じの物ができたら、その体験を記憶するんです。そうした過程の中で、無作為に見えるような作品ができたらいいのかなと。僕の器を手に取った人から、「どこで拾ってきたんですか？」と聞かれることがあるんですけど、それがとてもうれしいんです（笑）。
加藤　すごい！　それって究極の無作為ですよね（笑）。そんな羽生さんにとっての「至福のとき」は、どんな時間ですか？
羽生　自分の家にいる時間ですね。昭和の古い家を全部自分で直して、そこに作った家具などを置いているんですけど、自分の作品に包まれている時間というのは、何物にも代えがたい心からホッとできるひとときですね。ダイニングテーブルがあるんですけど、脚の部分が鉄なんですよ。昔作ったものだから、溶接の跡が結構雑だったりして（笑）。でも、なぜかその部分を触ってしまうんです。
加藤　家が羽生さんにとって至福の空間なんですね。
羽生　そこで昼寝をしたり、お酒を飲んだりしている時間が好きですね。
加藤　それって最高だな～。今後も羽生さんの作品楽しみにしています。ありがとうございました！