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加藤浩次

加藤浩次

加藤浩次

撮影/野呂美帆

加藤浩次が会いたかった人と“至福のとき”を語り合う。

第3回は、ミュージシャンの山口一郎さん。

加藤 今回はSTVラジオの『加藤さんと山口くん』の収録も兼ねているんだけど、考えてみたら俺が山口くんにインタビューするのってはじめてだよね。山口くんは今、何が一番楽しいの?
山口 サウナですね。自宅に家庭用サウナがあるんですよ。引っ越したらたまたまついていて、それまで別に興味なかったんですけど、使ってみたらどんどんハマっちゃって。
加藤 サウナのどの瞬間が至福なわけ?
山口 やっぱりサウナに入って、水風呂から上がって、ベッドで横になった瞬間じゃないですか。要するに究極の脱力なんですよ。頭がボワ~っとして、何も考えられない状態になるので。
加藤 例えるならどんな感じなの? それに近い感覚ってある?
山口 難しいな~。嫌いだった女の子のことをちょっとしたきっかけで好きになる感じかなぁ。
加藤 おもしろい!「いつもと違うじゃん」みたいな。その感覚で合ってるの?
山口 わからない(笑)。でも、本当に神秘的すぎて例えられないんですよ。その至福の感覚を説明すればするほど嘘くさくなってしまうので。

山口一郎

頭の中に感情の湯船があり、

日常の細かい感情が

少しずつ溜まっていく。

加藤 でも山口くんは自分の感覚を人に伝えるために詞を書いているわけでしょ。いつも詞を書くときってどういうふうに作っているの?
山口 サウナと結びつけるわけじゃないんですけど、頭の中に感情の湯船があるんですよ。
加藤 感情の湯船!
山口 そこに楽しいことや悲しいことなど、日常の細かい感情が少しずつ溜まっていって、混ざり合い、ある日ドバーっとあふれるんです。そのあふれたものを言葉にしていく感じ。
加藤 絞り出すわけじゃないんだ。
山口 そうなんです。ごちゃ混ぜになったものを自分の感情として紡いでいく。加藤さん僕ね、自分の頭の中にあるものを一番具体的に説明できる芸術は文学だと思っているんです。それは、絵や音楽よりも。
加藤 ストレートに表現できるってこと?
山口 というよりは言葉が一番伝えやすい。頭の中をきれいにデッサンできるんです。
加藤 そうか、ちょっとわかってきた。言葉にするほうが理解度は高いっていうことね。
山口 それに言葉のほうが立体で説明できるんです。音楽を聴くときって、なんとなく横スクロールのイメージじゃないですか?
加藤 そうだね。
山口 でも実は、音楽って始まりから終わりまでのトンネルなんです。自分が時間と共にトンネルを通り過ぎていく中で、音が出てきて、そこに言葉が乗ってきて、感覚の説明もできる。それってすごく立体的なんです。
加藤 なるほど。論理的だね。
山口 要するに、音だけだと抽象的になる中で、言葉があると具体的になる。でも、具体性だけじゃなくて、言葉の持つ抽象性によって、より立体的になっていく世界なんですよ。僕はもともと言葉の美しさにすごく惹かれていて、言葉の魅力を世の中の人に伝えたいと思ったときに、音楽を使えばたくさんの人に言葉を覚えてもらえると思って音楽をはじめたんですね。
加藤 じゃあ、曲を作るときも詞を先に書くんだ?
山口 これはたぶんミュージシャンは誰もが思っていることだと思うんですけど、メロディーと同時に出てくる歌詞が一番素晴らしいんですよ。作為性のない美学なんです。

加藤浩次

作為性のある音楽と

作為性のない音楽は、

まったく違う美しさ。

加藤 ちょっと待って。でも作詞家と作曲家が分かれている曲もあるし、音楽に作為性は絶対にあるでしょ。
山口 作為性のある音楽と作為性のない音楽って、まったく違う美しさなんですよ。
加藤 音楽にも2種類ある?
山口 あります。シンガーソングライターとして一番気持ちいいのは、メロディーと詞が同時に出てきたときなんです。例えば、意味をなさない言葉ってあるじゃないですか。「マハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン」とか。
加藤 サリーちゃんね。
山口 意味はないけど、リズムはいいじゃないですか。言葉が意味を上回っているから美しい。それが面白いところなんですよ。
加藤 逆に作為性がある場合は?
山口 自分が気持ちいいと感じるリズムを裏切らないように詞を書いていく作業が作為性のある作り方ですね。例えば『新宝島』はゴリゴリの作為性があるしっかりと作り込んだやつです。
加藤 両方やってるんじゃん。
山口 それもできます。僕は作為性の美学も知っているから。
加藤 でも、作為性のない曲って、生まれてくるのを待たなければいけないわけでしょ。それってとんでもない作業だよね。
山口 だから6ヵ月とか潜って全く連絡が取れなくなるんです。でも結局作ったものが世の中的にいいものかどうかなんてわからないんですよ。『新宝島』もあんなに売れるとは思わなかったですもん。
加藤 そういうもんだったりするのかな。
山口 僕は一部の人に深く愛されたいと思ってやってるから。クラスの中の2~3人に深く愛されればいい。本当に自分が好きだと思うものを理解してくれる人たちがある程度いて、ちゃんと好きなものを作って、長く生きていけることができれば、それが人生として一番至福なのかなと思うんです。
加藤 そこは一貫して変わらないところだよね。
山口 はい。ほっといてもずっと音楽はやっていくと思いますし。

山口一郎 やまぐちいちろう ミュージシャン。1980年生まれ、北海道小樽市出身。2005年に5人組ロックバンド「サカナクション」を結成して、2007年にメジャーデビュー。ギターボーカルを務め、楽曲のほとんどの作詞・作曲を手掛ける。第64回NHK紅白歌合戦に出場。第39回日本アカデミー賞では最優秀音楽賞を受賞。

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『スッキリ』『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

撮影/野呂美帆

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