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加藤浩次

加藤浩次

加藤浩次

撮影/野呂美帆

加藤浩次が会いたかった人と“至福のとき”を語り合う。

第6回は、陶芸家の吉田直嗣さん。

加藤 吉田さんはシンプルな白と黒の器を作られていて、僕も大好きなんですけど、そもそも何がきっかけで陶芸をやろうと思ったんですか?
吉田 実は高校生の頃から椅子の制作にすごく興味があって、東京造形大学のデザイン科に入ったんです。でも、当たり前なんですけど、デザイン科ってデザインをする学部なんですよ。僕はデザインから制作まで、全部自分一人で椅子を作りたかったんですけど、教授からは「職人や工場に発注することはあっても、制作をすることはない」と言われてしまって。
加藤 大学では一人で椅子を作ることができないと気づいたんですね。
吉田 はい、入って1ヵ月ぐらいで(笑)。それでも、最初は初めての一人暮らしを満喫していたんです。お金がないから実家から食器を持ってきたんですけど、一人暮らししているのに、食卓の風景が実家と変わらないことになんだか悲しくなってしまって。なので、自分で食器を買いに行くんですけど、なかなか欲しいものがない。そんなとき、大学に陶芸部があることを知るんです。そこならデザインから制作まで全部自分でできるし、理想の食器も作れると思って。入ってみたらすっかり焼き物にハマってしまいました。

吉田直嗣

考えながら、

量を作っていくと

やがて技術と合致する。

加藤 僕もお会いしたことがあるんですが、陶芸家の黒田泰蔵さんのもとにいたんですよね。
吉田 僕、大学卒業後に伊豆の陶芸教室に就職したんです。そこはすぐ辞めてしまうんですけど、そのときに知り合った方に紹介してもらって、黒田さんのアシスタントになりました。
加藤 黒田さんのことは知っていたんですか?
吉田 大学のときに専門誌を読んでいて、すごく好きな白磁を作る方がいたんです。その人が黒田さんでした。名前も覚えていなかったので、3日目くらいに倉庫を片付けているときに気づいて。なんか見覚えのある器だなと(笑)。
加藤 それはびっくりしたでしょ(笑)。黒田さんからは何を学びました?
吉田 技術的なことはほぼ教えてもらっていないんですけど、陶芸についての考え方みたいなものはすごく影響を受けています。
加藤 どのくらいで独立したんですか?
吉田 3年目です。妻の祖父母が持っていた富士山麓の別荘を借りることができて、そこに窯を建てました。
加藤 初めはどんな器を作ったんですか?
吉田 最初の5年間は黒い器ばかりでした。黒田さんと同じ白磁を作っても安い模倣になりそうだなと。そもそも技術力が違うし、作っている数も違いましたから。
加藤 やっぱり土をいじる量は技術力と比例しますか。
吉田 まずはそれを続けられる才能が大事かもしれません。陶芸って、考えながらいっぱい作っていけば技術と合致してくるんです。
加藤 今は白磁も作られていますよね。何かきっかけはあったんですか?
吉田 紅茶の葉を販売している友達とイベントをやることになったときに、黒い器だと何茶かわからないと言われたんです。なので、白いティーカップを作ったら、けっこう買っていただいて、それに味をしめました(笑)。
加藤 それがきっかけなんだ(笑)。
吉田 極論を言うと黒でも白でもどちらでもよかったんです。僕がやりたいのは、器の形を見せるということだったので。もっと言ってしまえば、作ること自体が好きなんです。なので、作ったあとのことはあまり興味がなくて。

加藤浩次

表面を圧縮して、

密度を極限まで高めたら、

ツルツルになる。

加藤 おもしろい! じゃあ、吉田さんの「至福のとき」は器を作っているときですか?
吉田 ろくろを気持ち良く挽けているときですね。逆に、土の伸びが悪かったり、思った形に決まらなかったりするときは、しんどくなることもあります。
加藤 吉田さんの中で、理想の器のイメージみたいなものはあるんですか?
吉田 明確なビジュアルとしてのイメージはなくて、どちらかというと言葉のほうが近いものを伝えられると思います。
加藤 それはどんな言葉ですか?
吉田 僕の中では「圧縮」です。イメージの話ですが、いろいろなものを自分の中に取り入れていくと、だんだんと表面が凸凹していく。それを削ってシンプルにしていくのではなく、ぎゅっと潰して密度を極限まで上げたら、たぶんツルツルになるだろうなと。そのシンプルさ、何もなさが、究極的に僕の作りたいものなのかもしれません。
加藤 今後も、そういう「圧縮」された吉田さんならではの器を作っていくんですね。
吉田 僕は本当にいいかげんで、たいていのことは長続きしないんですけど、唯一、焼き物だけはずっと続けていて、全く飽きずにやっていられるんです。
加藤 さっきの飽きない才能ですね。それは、自分が作りたいものを作るというのは大前提として。
吉田 そうですね。買っていただいた方には、どんなふうに使っていただいても構わないんですけど、食器としての機能を失ったものは作りたくないので、そこは意識しながら。
加藤 実は僕も陶芸をやってみたくて。吉田さん、教えてくれますか?
吉田 ぜひ富士山麓に来てください! 焼き物は全然自分の思い通りにならないですけど、そこがおもしろいところでもありますから。

吉田直嗣 よしだなおつぐ 陶芸家。1976年生まれ、静岡県出身。東京造形大学卒業後、陶芸家・黒田泰蔵氏に師事。2003年、富士山麓にて独立し、白と黒の器を中心に制作。近年は海外にも活躍の場を広げている。

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『スッキリ』『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

撮影/野呂美帆