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加藤浩次×立川譲

加藤浩次×立川譲

加藤浩次×立川譲

撮影/野呂美帆

加藤浩次が会いたかった人と“至福のとき”を語り合う。

第14回は、アニメーション監督の立川譲さん。

加藤 僕は立川さんが監督をされた劇場アニメ『BLUE GIANT』の原作を前から読んでいたんです。ジャズが題材の漫画なので、読んでいる時になんとなく頭の中で音楽が流れるじゃないですか。映画はそれを超えてきて、正直すごい作品だなと思いました。
立川 ありがとうございます。
加藤 映画では、漫画の前半部分である仙台編をバッサリといっちゃってますよね。
立川 ほぼほぼカットしました。自分も好きなエピソードはありますけど、そこは映画を見て気に入ってくれた新しいファンが漫画を読んで楽しんでくれたらいいのかなと。冒頭で主人公の大の狂気的な部分を出しておけば、仙台編がなくても興味を引っ張っていけるのではないかと考えました。映画として伝えるべきものは東京編にもたくさんありますし、大はもちろん、玉田と雪祈の3人の物語にしたかったので。
加藤 仙台編をカットすることに対して、漫画家の方も納得されたんですか?
立川 はい。映画の脚本を書かれたのは、もともと『BLUE GIANT』の担当編集者で、今は漫画の原作・原案もされている方なんです。仙台編をカットすることもそうですけど、映画になって新しいセリフが出てきたり、構成が変わったりすることで、今までのキャラクター性から変わるようなことは避けたかったので、力になってもらいました。

立川譲

新しい主人公像として

“輝く隕石”みたいに

しようと話していた。

加藤 大はめちゃくちゃ練習する努力の人じゃないですか。そこにシンパシーを感じる人も多いのかなと思ったんですよ。
立川 そこが大のベースになっているところですよね。決して天才じゃないけど、周りを気にしないで真っ直ぐ突き進んでいく。『BLUE GIANT』というタイトルだし、新しい主人公像として“輝く隕石”みたいにしようという話はスタッフともしていました。その隕石から放たれる光に照らされる玉田と雪祈という関係性にしたかったんです。
加藤 言ってしまえばシンプルなストーリーですよね。それは狙いですか?
立川 もともと原作がシンプルなので、それをあえて複雑にしようとは思わなかったです。
加藤 音楽もめちゃくちゃ良いじゃないですか。音作りは大変だったと思うんですけど。
立川 まず、ジャズピアニストの上原ひろみさんがピアノでメロディーを起こしたものを原作側に送って、そこで揉まれたものを僕が聴いて、また何度も揉んで、という流れです。
 原作者の石塚真一先生はご自身でサックスを吹かれるので、曲に対して自分なりの思いがあるんです。一方、僕はジャズも聴くけど、演奏をするわけではないので、素人の目線を持ちながら、監督として劇中の音楽に意見を言う立場でした。この二方向からの要望に応えなければいけない上原さんは特に大変だったと思います。
加藤 ライブシーンも圧巻で、見ごたえがありますよね。
立川 ライブの曲をアニメに落とし込んで割っていくと、1回のライブがフルで流すと200カット近くになる計算だったんですね。
加藤 ライブシーンはけっこうありましたよね。
立川 そうなんです。このペースだとライブだけで1400カットを超えてしまう。同時期に『名探偵コナン 黒鉄の魚影』も手掛けていたんですけど、それが全部で約1800カットなんです。これではスケジュールに間に合わないし、作り終えることができないので、方法論を変えて、ちゃんと見せたいライブはしっかり時間を取るんですけど、長いカットで緩急をつけるなどして、見せ方を模索しました。
加藤 肝であるアドリブシーンの録音も難しそうですよね。
立川 そうなんです、とても難しくて。スタジオの雰囲気をムーディーにしたり、キャラクターの背景を伝えたりと、演奏に感情を乗せてもらうために、いろいろと試しました。

加藤浩次

リアクションを

直に感じるのが、

映画体験の原点。

加藤 立川さんは『名探偵コナン』も手掛けられているということでしたけど、最初からアニメの演出家志望だったんですか?
立川 もともとは実写映画の監督を目指していて、高校生の頃は『ターミネーター2』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな大作に携わりたいなと思っていたんです。でも、日大の芸術学部に進学して、大学2年生の時にレゴブロックでコマ撮りのアニメを撮ったら意外と面白くて。そこからアニメに転向して、初めて作ったのが、ひたすら顔の毛を抜いてるっていうちょっと変なアニメだったんです。このアニメの評判がすごく良くて、本格的にアニメの演出家を志すようになり、卒業後はマッドハウスに就職しました。
加藤 現在はフリーランスですよね。マッドハウスには何年ぐらいいたんですか?
立川 6~7年ぐらいです。会社にいると、例えば、好きな作品を作っていたのに進行が滞ると、まったく別の作品の制作に回されるということがよくあるんです。組織なので仕方ないことなんですけど、僕は自分好みの作品をやりたくて、会社を出ました。
加藤 フリーは大変ですよね。
立川 でもアニメ業界では演出がフリーになるって割と当たり前なんですよ。作品を掛け持ちしたり、大変は大変なんですけど。
加藤 そんな立川さんにとっての「至福のとき」を教えてください。
立川 やっぱり自分が作った作品を映画館でお客さんと一緒に見ている時ですね。リアクションを直に感じるというのが、映画体験の原点にもなっているので。
加藤 恐怖感はないんですか? お客さんの反応って怖いじゃないですか。
立川 もちろんありますけど、そのドキドキ感もいいんです。逆に関係者を集めて見る初号試写というものがあるんですけど、それはもう生きた心地がしません。作品が完成して、お客さんのもとに届いて、一緒に見ている時は楽しいですね。

立川 譲 たちかわゆずる アニメーション監督、脚本家。1981年生まれ、埼玉県出身。日本大学芸術学部卒業後、マッドハウスを経て独立。監督、演出、脚本として多くのアニメ作品に携わる。近年の主な監督作品に『モブサイコ100』シリーズ、『名探偵コナン 黒鉄の魚影』『BLUE GIANT』など。

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

撮影/野呂美帆