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小宮山雄飛×角田光代

小宮山雄飛×角田光代

小宮山雄飛×角田光代

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子

居酒屋を舞台に、ミュージシャン・小宮山雄飛が

ゲストとトークを繰り広げる、第二回。

二回目は引き続き作家・角田光代さんとの"ものづくり"について語り合う、ほろ酔い対談、後編です。

小宮山 僕は歌詞を描くとき基本は実体験なんですけど、小説は実体験を完全に外して書くことって可能なんですか?
角田 もちろん体験したことを書く人もいますけど、私の場合はウソばっかり書いてますね(笑)。ウソの骨組みをしっかりと固めたとき、ちょっとでも本当の話を入れちゃうと、途端に全部がウソくさ~く崩れてしまうんです。たとえばすごくリアルなエピソードが出てきたとして、読み手が『これはきっと実体験をもとに書いてるんだろうなぁ』って思うことこそウソなんです。
小宮山 へ~~! 面白いですね。
角田 そのほうがうまくいくことに去年気づいて(笑)。小宮山さんの歌詞は、実体験なんですか?
小宮山 そうですね。名前とかデートに行った場所がそのまま出てくるわけじゃないけど。

小宮山雄飛×角田光代

罪を背負った自分

みたいな呪縛が

どこかにあった

角田 感情的な実体験?
小宮山 はい。どこかに本当が入らないと書けなくて。まったく抜いたものを書いてみたいですけどね。そうすると実際に行ったことなくても「飛んでイスタンブール」とか、「サンタモニカの風」とか書けるのになぁと。
角田 アハハ。でも歌詞は実体験を抜くと味気ないかも知れないですね。
小宮山 宗教観みたいなものはどうですか?小説って宗教をテーマにしてなくても、どうしてもどこかに入るものじゃないですか。
角田 あー、それはありますね。私は小さいころからキリスト教の学校で、よくない意味でものすごく影響を受けたんですよ。 "罪を背負った自分"みたいなのが呪縛のようにずっとどこかにあって。思い詰めすぎて、こんな人間が洗礼をうけるのは間違っていると思って、洗礼も受けられなかったくらい。
小宮山 そこまで!?ご両親も熱心なキリスト教徒で厳しかったとか?
角田 いや、私だけ。信じてない親は可哀想だって思ってました。
小宮山 すごく一貫しているというか、ある意味ちゃんとしてますね。うちなんか「朝、教会に行ったあとは神社で七五三だから、先に着つけて教会に行く?」とか平気でやってますからね。どっちかにしろって(笑)。でも角田さんの呪縛が解放されたのはいつなんですか?
角田 18歳でようやく他の世界にも目を向けられるようになって、仏教のことを知ってすっごく楽になったんです。そこからは解放された気持ちでいるんですけど、ふとしたときに影響が出るからギョッとしますね。
小宮山 今でも影響ってあるんですか?
角田 小説の中に「赦された」って表現が多いって指摘を受けたり、少し前ですけど、映画『ダ・ヴィンチ・コード』を見に行ったあとすごく動揺したんです。キリストに子供がいたって話なんだけど「そんなの困るじゃん!」って。
小宮山 子供がいたらそんなに困るんですか?
角田 宇宙人はいるって発表するくらい大事件なんですよ!でも一緒に行った人にも驚かれてハッとして。別にキリストがどうだろうが、どうしてミステリーとして楽しめないんだろうと思うとガーンとなりました。自分のなかにこんなに根づいているのかって……ちょっとゾッとしましたね。

小宮山雄飛×角田光代

急にいろんな

面白い仕事が

できるようになった

「人生のターニングポイントについて」
小宮山 僕はホフディランを休止したとき、事務所を出て会社を立ち上げたんです。
角田 それは何年頃ですか?
小宮山 2003年ごろで、また二十代でした。守ってくれる大きな後ろ盾はなくなったけど、今、結果的によかったと思うのは、この連載や角田さんともそうですが、いろんな人と直でやりとりできるようになったこと。昔はラジオ番組を持っていても、ラジオ局の人とはレコード会社や事務所の人が話をするから、僕らはそこに行って喋って帰るだけだった。でも製作現場のスタッフやスポンサーさんと直で話すようになったら、急にいろんな面白い仕事ができるようになって。
小宮山 僕、明太フランスが好きなんですけど、それを男性誌の人に熱く語ったら、明太フランスを特集する企画が通って福岡まで取材に行ったり。ファッション誌なんですけど(笑)。
角田 すご~い!(笑)。私はデビューしてからずっと純文学の雑誌で描いていたんですけど、賞も落ちまくって仕事も少なくなってきたときに、エンターテインメントの方の雑誌から「ページをめくる手が止められないようなものを意識して書いてほしい」と言われたのがターニングポイントでしたね。女は33、4歳でそれまで着てた服が全部似合わなくときがくるんですよ。店に入っても居心地が悪いし店員もよそよそしくなって(笑)。自分はどうしたいんだろうって考える時期と一緒だったのですごく覚えています。
角田 あ、あと影響を与えられた人でいうと忌野清志郎さん。19歳のときにファンになって、言葉の分かりやすさとか、ああいう作家になりたいって思った。
小宮山 お会いしたことはあるんですか?
角田 好き過ぎて会いたくなかったんですけど、ライブのあとに一度だけ……何か言ってくださったんですけど、天からの声みたいにワ~ンってなって何にも聞こえなかったです(笑)。
小宮山 アハハ。でも分かるなぁ。僕は宮沢りえさんがそう。せめて同じ土俵に乗ってから会いたいんですけどね。ただ角田さんが作品を映像化するとき、主演をりえで、主題歌をホフでと言ってくれれば一番いい形で会えるんですけど……(笑)。
角田 アハハハ!まぁ、また飲みましょう(笑)。

角田光代 かくたみつよ 神奈川県出身。早稲田大学第一文学部卒業。'90年に「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’05年「対岸の彼女」で直木三十五賞を受賞。「空中庭園」、「真昼の花」、「八日目の蝉」、「紙の月」など、映像化作品も多数。

小宮山雄飛 こみやまゆうひ ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブディレクター。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュースなど幅広く活躍。4月より「ホ二人旅」がスタート。新曲も無料で配信中!詳しくは「hoff.jp」へ!

撮影/野呂美帆
取材・文/大道絵里子