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寿大 聡

寿大 聡

寿大 聡

撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶

活躍中の俳優・寿大聡が、縁のあるゲストを

お招きして、熱く語らう連載の第九回。

 今回の「トーク侍」は、寿大さんも出演した2019年公開の映画『こはく』の監督・横尾初喜さんの登場です。
横尾 寿大さんと出会ったのは、もう7年前くらい? 低予算コメディ戦隊ドラマだよね(笑)。
寿大 楽しかったなあ。セリフもほとんどアドリブで。そのころから監督は、ずっと「映画撮りたい」と言っていた。僕は長編デビュー作『ゆらり』にも出演させていただいて。
横尾 それまで僕はドラマやPV制作など“受け仕事”しかしてこなくて、映画を撮ると決めたとき、自分が語れるものは家族だと思った。うちは母子家庭なんですが、最初に母のドキュメンタリーを撮ったんです。今もそれが軸になっています。
寿大 新作『こはく』も監督の自伝的な物語なんですよね。主演の井浦新さんが自分のお父さんを探すというテーマで。
横尾 そう。僕は両親の離婚で父と別れたんですが、どうしてるかわからない。亡くなっただろう、という話は親戚から聞いたんですけど。だからこの映画は半分フィクションでもある。

自分の過去や、

父に対する思いを

確認しながら作った映画。

横尾 今回は地元・長崎で撮ったので、自分の過去や、父に対する思いを確認しながら作った感じもある。貴重な体験でした。
寿大 監督は、もともと長崎一の進学校に通っていたエリートなんですよね。
横尾 いやいや。僕自身は魚屋の息子なんですけど。周りは医者の息子ばっかりで、一応僕も、高3までは医学部コースに行ってたんです。でも途中で「医者じゃ、笑えないな」とその当時思っちゃったんですね。僕は笑って仕事がしたいなぁと。それで文系に切り替えた。大学3年の時に、テレビ局に勤めている方と知り合って「映像作りがしたい」と言ったら、PVを撮ってる会社を紹介してくれて、卒業後もそこで働きました。僕は体育会気質なんですけど、それでもPVの現場は不眠不休できつかったですねえ。そのあと、バラエティ番組『ぐるナイ(ぐるぐるナインティナイン)』を経て’08年に仲間と映像制作会社を立ち上げて、ドラマを作りはじめた。
寿大 そこでいきなり会社を立ち上げちゃうっていうのもすごいですよね。 その頃に僕らは出会ったんだ。
横尾 寿大さんは役者の中では一番長い付き合いで、なんでも話してる。「いつか絶対売れてやろうぜ!」って言い合ってね。
寿大 『ゆらり』の撮影中には、いきなり「俺、久美(遠藤久美子さん)と付き合ってるんだわ」ってボソッと。
横尾 あはは(爆笑)。半年前位から付き合ってたんだけどね。
寿大 今や結婚もして、子も授かって。
横尾 (照れながら)いや~、奥さんはね、女優さんなのにすごく普通なんですよ。「私が私が」ってタイプじゃ全然なくて……って、これ対談に関係なくない?(笑)
寿大 『こはく』は佐世保でのロケも楽しかったなあ。
横尾 人があったかいでしょう。ロケハン中に地元のおばちゃんが「お昼食べるなら、あそこが美味しかよ!」って連れて行ってくれたり。資金面でも長崎の企業をたくさん回って「こういう映画を作ります!」って頼んだら、「自分の若い頃を見てるようだ」と多くの方が協力してくれた。
寿大 あったかいなあ!
横尾 そういうことが、これからの日本で大事になるんじゃないかと。ここからまじめな話になるんですけど(笑)。

アナログ的な

人と人の触れ合いや

優しさが「資源」になる。

横尾 日本って先進国としてはもう成長頭打ち。だからこそ、これからはこうしたアナログ的な人と人の触れ合いや優しさが「資源」になると思ってるんです。長崎でそれを大事にする作品を作ることができたから今度はアジアや海外のマーケットに持っていきたい。
寿大 先日、ベトナムでドラマ撮ったんですよね?
横尾 そう、現地のパワーがすごかった。ホーチミンだけで人口が1千万人近いし、しかもベトナムの平均年齢は28歳!
寿大 若っ!
横尾 中国やトルコなどにも大きなマーケットがありますからね。
寿大 監督は昔から、世界的な視野を持っていましたよね。
横尾 やっぱり日本国内だけだと、自分の”やりたいこと”が薄まっていく気がして。31歳のときテレビの『情熱大陸』で建築家の安藤忠雄さんに密着取材した経験も大きいかもしれない。安藤さんに「お前は地球儀持ってんのか」って言われたんです。「持ってないです」って言ったら「あかんわ~~!」って(笑)。「なんで地球儀ですか?」って聞いたら、「仕事をやるべき場所、行くべきところは、地球上にあるやろ? それに、今自分が住んでる場所を確認せなあかん」って。自分のアイデンティティを大事にしながら世界を舞台にする。今になってすごく「なるほど」とわかるんですよ。
寿大 確かにそうですね。
横尾 安藤さんって英語しゃべれないし世界中で「そりゃあかんがな~~!」ってやってる。でもどこの国に行っても、人として好かれるんですよね。普通、建築家は依頼が成立してから仕事を始めるけど安藤さんは先に模型を作っちゃう。その熱意と人柄にクライアントさんは惚れるみたい。そういう部分でも「人と人の関係は基本アナログなんだな」と。
寿大 僕も海外進出したいなあ!
横尾 うん、十分海外で通じる。寿大さんは“闇”を感じさせる役者で、それは強い武器だと思ってるんです。ぜひまた一緒に映画作りましょう!
寿大 ありがたいです!

映画情報 監督・横尾初喜、主演・井浦新の最新映画『こはく』が2019年春に公開。長崎を舞台に、幼い頃に別れた父を探し求める男性の物語。

横尾初喜 よこおはつき 映画監督。1979年生まれ、長崎県出身。数々のPVやテレビドラマなどを手がけた後、’17年に初の長編映画『ゆらり』を発表。来年2019年の春には最新監督作の『こはく』が公開。

寿大 聡 じゅだいさとし 俳優。無名塾26期生。『婢伝五稜郭』『荒木町ラプソディー ~地層捜査~』などの舞台に出演。2013年には三池崇史監督作品『地球兄弟』に出演。横尾監督の最新作『こはく』に出演。

撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶