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寿大 聡

寿大 聡

寿大 聡

撮影/野呂美帆

活躍中の俳優・寿大聡が、縁のあるゲストをお招きして、

熱く語らう連載の第十三回。今回が最終回です。

 今回の「トーク侍」は、仲代達矢主宰の「無名塾」の先輩でもある女優の樋口泰子さんの登場です。
寿大 今回はありがとうございます! 僕が無名塾の26期生で、樋口さんは23期生。僕の1期前に募集がなかったので4年先輩ですよね。樋口さんは今年で無名塾何年目でしたっけ?
樋口 私は今年で20年目になる。だから、聡を筆頭にいろいろな人の出入りを見てきてるよ(笑)。
寿大 僕が一番覚えているのが入塾式なんですよ。無名塾に受かると、まず、先輩たちの前であいさつをするんですよね。
樋口 諸先輩方が期ごとに40~50人ずら~っと並んでいる前で、新入生が一人ずつあいさつしなくちゃならなくて。あれは新入生にとってはかなり辛いと思うよ。
寿大 でも、僕はすごく感動したんですよ。それまで縁もゆかりもない世界だったのに、見たことのある役者さんたちが目の前にずらーっといるから。

私、たぶん就職に

向いていない。

やっぱり芝居がやりたい。

樋口 そうだよね。あの人も、この人も見たことあるって状態だもんね。
寿大 もちろん緊張はしましたけど。それで、入塾式の後の飲み会でガチガチになっている新入生のテーブルに来てくださったのが樋口さんなんですよ。普通は話しかけてくれないですから。
樋口 そう、先輩が誰も新入生のテーブルに行かないの。そんなの、かわいそうでしょうがなくて。「大丈夫? みんな緊張で顔が怖いよ」って声をかけました(笑)。
寿大 あははははは。いや、本当に優しくしていただいて、一番かわいがってもらいました。第一印象がクリスティーナ・リッチそっくりだな~って。
樋口 ちょっとやめてよ、クリスティーナ・リッチのファンに殺されちゃう(笑)。
寿大 先輩だけど、かわいいなって、そういう印象でした。でも、僕が無名塾にいた頃は、そこまでご一緒してないんですよね。無名塾の旅公演は一本の芝居が稽古を含め8ヵ月くらいあるじゃないですか。そのときも一緒にはやらなかった。本当にたまにお見かけするくらいでした。
樋口 そうだよね、私が旅公演には出てなかったので。それこそ入塾式やファンミーティングで一緒になるくらいだったよね。
寿大 そもそも樋口さんはなぜこの世界に入ったんですか? 山梨のぶどう農園のいい家柄で生まれて、お茶の水女子大学をすばらしい成績で卒業して……。
樋口 いやいや、話を大きくしないで。
寿大 芝居は大学のときからやってたんでしたっけ?
樋口 演劇は高校から部活でやってたの。でも汗と涙の高校演劇みたいなのじゃなくって、みんなで作って楽しむみたいな。
寿大 当然大学でも?
樋口 大学はサークルやセミプロの劇団みたいな所でやってた。芝居ばっかりやってたからほぼ大学行ってない(笑)。
寿大 そこから無名塾というのはどうして?
樋口 私も一応、就職を考えたのよ。当時、女子にとって花形の会社があって、そこの会社説明会に行ったの。それが私にとってはとんでもなくつまらなくて。でも、周りの人たちは真剣に聞いている。それを見て、私たぶん就職に向いてないと思って、その日に実家に電話して「やっぱり芝居やりたい」って言ったら、母親が「そう言うと思ってた」って。

すごく熱い感じの、

生命力にあふれている人

というイメージ。

寿大 そうだったんですね。
樋口 それで母親に「お芝居やるんだったら、ちゃんと基礎から学べるところに行きなさい」って言われて、私が仲代さんのお芝居がすごい好きだったから、無名塾を受験したの。
寿大 僕とはほぼ接点がなかったですけど、無名塾を出てからは、いろいろ誘っていただいて。
樋口 最初は朗読劇の『エッフェル塔の潜水夫』だよね。
寿大 そこからいろいろと縁が広がっていって。佐々木譲さん原作の舞台『秘伝五稜郭』では相手役もやらせていただきました。これは、なぜ僕だったんですか?
樋口 演出家に「こういう感じの人いない?」って言われたときに、最初に聡が思い浮かんだの。すごい熱い感じの、生命力にあふれている人というイメージで、しかも殺陣ができないといけなかったから、これはもう聡だろうって。
寿大 キスシーンもあって先輩相手だからドキドキでしたよ。あと、樋口さんはすごく論理的に台本を読み込まれますよね。国語的な解釈の仕方がすごい整合性が取れているというか。矛盾がない。それは、どこかで学ばれたんですか?
樋口 いや、私、もとから国語が好きだし、得意だったの。だから、自然と身についていた感じかな。
寿大 なるほど。他に気をつけていることってあります?
樋口 台本を読むときは、固定概念に囚われないようにしようとはいつも思ってる。人間って優しい人だからって、怒らないわけじゃない。一面だけで生きていない、多面的な生き物だから。
寿大 わかります、キャラクターで芝居をしないってことですよね。
樋口 それは絶対ウソになっちゃう。ウソはつきたくないから。
寿大 7月からは舞台『背信 Betrayal』ですよね。楽しみにしています。また一緒にやりたいですね。
樋口 うん! やろう、やろうよ。でもあんまり大人数のお芝居だと大変だから少人数で(笑)。
寿大 あははは。ぜひやりましょう!

樋口泰子 ひぐちやすこ 女優。無名塾23期生。2010年の佐々木譲原作の舞台『婢伝五稜郭』では主演を務める。7月3日 (水)~7日 (日)までの舞台『背信 Betrayal』(作:ハロルド・ピンター、演出:磯村純)に出演。

寿大 聡 じゅだいさとし 俳優。無名塾26期生。2013年、三池崇史監督の『地球兄弟』に出演。横尾初喜監督による最新出演映画『こはく』が2019年7月公開。また、TOKYO MXにて放送のドキュメンタリードラマ『さとしとはつき』(毎週水曜深夜)に出演中。

撮影/野呂美帆