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寿大 聡

寿大 聡

寿大 聡

撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶
取材協力/世田谷区・池尻「Organic Restaurant Seta」

活躍中の俳優・寿大聡が、縁のあるゲストを

お招きして、熱く語らう連載の第八回。

 親しい方々と語り合う「トーク侍」。第八回目は、寿大さんも出演した10月20日(土)公開の映画『ウスケボーイズ』の監督・柿崎ゆうじさんの登場です。
寿大 今回は声をかけていただいてありがとうございました。
柿崎 「いい役者だ」と常々噂を聞いていたので、ぜひ、と。
寿大 ありがたいです! 本作はワインの革命児を描く話で、僕は「ワイン友の会」のメンバーをやらせていただきました。もともとワイン好きですが本当に勉強になりました。同じ畑に植えた同じ品種でも区画が違うだけで味が違ってくる、とか。
柿崎 ワインに情熱をかけた大勢の仲間がいることを伝えたかったので、寿大さんの役は重要でした。
寿大 原作とは運命的な出会いをされたんですよね。
柿崎 そう。4年前に心臓の病気をして、お酒を少しやめていたんです。自然と触れ合いながら体をリセットしようと山梨県の八ヶ岳山麓に別荘を建て始めた。そこで今まで飲む機会がなかった日本のワインを出されたんです。

予備知識もなく飲んで、

ショックを受けるほど

おいしかった。

寿大 それがウスケボーイズのワインだったんですね。
柿崎 何の予備知識もなく飲んで、ショックを受けるほどおいしかった。東京に帰って、本屋に寄ったら原作本があったんです。その夜に読んで「映画にしよう!」と。
寿大 すごい行動力です(笑)。それまで日本のワインは飲んでなかったんですか。
柿崎 社長業をして23年なので、接待でドンペリやオーパス・ワンなど、高いワインは飲んでました。でも接待の道具という感覚もあり、どちらかというと嫌悪感を持っていたんです。
寿大 日本のワインに出会って、その概念を覆されたんですね。
柿崎 心臓の病気だったので、いつ心不全で死んでもおかしくないと言われていたんです。大げさじゃなく、日本のワインに出会って、もう一度生きる希望をもらったというか。なんとしてでも病気を治して、またこのワインを飲めるようにならなきゃと思った。一杯のワインに人間はこんなに勇気をもらえるんだと実体験した。そのことを映画にしたいなと思ったんです。
寿大 脚本を読んだとき、紆余曲折しながら困難と闘っていくウスケボーイズの姿にすごく共感しました。
柿崎 撮影期間中はみんなとワインをたくさん飲もうと決めていたんです。500~600本近く飲んだんじゃないかな? ワインが登場するシーンには、本番ではすべて本物のワインを使っています。本物のワインだと、やっぱり芝居が変わるんですね。
寿大 撮影現場もかなりいい香りがしてました(笑)。監督は撮影後にも食事とワインに必ず連れていってくださるんです。
柿崎 寿大くんが飲んだ後に走って帰るからびっくりしたなあ。
寿大 僕、太りやすいので、ランニングを日課にしてるんです。 監督の経歴、少し特殊ですよね。なぜ映画の道に?
柿崎 もともと15歳でブルースリーに憧れたんです。最初は役者を目指したんですが、紆余曲折あって格闘家に。
寿大 チャンピオンにもなったんですよね。
柿崎 格闘家時代にボディーガードを始めて、20歳で日本初のボディーガード会社を作ったんです。当時は暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の施行前で荒っぽかった。正面切って暴力団員も乗り込んでくるし。
寿大 ゴリゴリですね……。

中学以来の夢が

こういう形で

叶ったんだなあ。

柿崎 その後、28歳のときに今の警備会社を作ったんです。クリントン前大統領やゴルバチョフの警備や、来日ハリウッドスターの警備は大半はうちがやりました。
寿大 すごい!
柿崎 そんな矢先に暴力団との闘いで社員が撃たれて亡くなる事件があったんです。悔しくて「これを映画にして伝えよう!」と。それが監督になったきっかけです。
寿大 筧利夫さん主演の映画『第二警備隊』ですね。
柿崎 ただ、映画の作り方はまったくわからない。そこでまず舞台のプロデュースを学んで、16本の舞台を手がけました。 その後、テレビの旅番組を経て、8年前に短編映画からスタートして。
寿大 すべて、社長業をやりながらですよね。
柿崎 そう。テレビの旅番組ではスチール(写真)も担当しましたよ。三脚かついでね。
寿大 社長がスチール?
柿崎 自分は助監督経験もない。長編の監督をするためには、自分が納得する道を歩んでからにしないと。この『ウスケボーイズ』が初めて、自分で撮りたいと思った映画なんです。エンディングを見ながらジーンときました。中学以来の夢がこういう形で叶ったんだなあと。 僕は舞台も映画もビジネスという感覚はまったくないんです。自分は会社をやっていて、それで食べていける。せっかくそういう環境に身をおけているんですから、よこしまなことは考えずに作品だけ追求しよう、と思っています。
寿大 かっこいいなあ。今度、柿崎監督が演出する舞台もやらせていただくことになったんです。舞台は3年ぶりなんですごくうれしいです。
柿崎 前に僕の舞台を観に来てくれたとき、寿大くん「次の舞台、オレやりますから!」って。これは声をかけないとと思って(笑)。
寿大 今度は監督の映画で主演をやれるようにがんばります!

河合香織の同名書籍を、監督・柿崎ゆうじ、主演・渡辺大で映画化した『ウスケボーイズ』が10月20日(土)より全国公開。「ワイン友の会」の若者たちは、ワイン界の先駆者・麻井宇介の生んだ世界に通用する・桔梗ヶ原メルローの存在を知り、ワイン造りに没頭していく。

柿崎ゆうじ かきざきゆうじ 映画監督、株式会社カートプロモーション代表取締役。山形県出身。舞台、映画、テレビ番組など、数々の作品に制作総指揮として携わる。2018年の今年は、初の長編映画監督作『第二警備隊』と『ウスケボーイズ』が公開。

寿大 聡 じゅだいさとし 俳優。無名塾26期生。『婢伝五稜郭』『荒木町ラプソディー ~地層捜査~』などの舞台に出演。2013年には三池崇史監督作品『地球兄弟』に出演。最新出演作の『こはく』(主演:井浦新、監督:横尾初喜)が2019年に全国公開予定。

撮影/野呂美帆
取材・文/中村千晶
取材協力/世田谷区・池尻「Organic Restaurant Seta」