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二宮 健

撮影/野呂美帆

 映画監督として、いったい何ができるのか。外出自粛期間中に二宮監督は、自身の主宰する上映イベント「SHINPA(シンパ)」で在宅映画制作プロジェクトを実施。作品制作のための外出をせずに在宅で映画を作り上げ、1本ずつYouTubeで配信するこの企画には24人の映画人が参加し、それぞれの作品がリレー形式で公開された。

「こういうときにSHINPAでできることってなんだろうと考えたときに、さまざまな得意なこと不得意なことがある中で、これならできそうだと思って、皆さんに声をかけたんです。でも、企画を進めている段階では自分が何を撮るかは考えていなかったんです。僕が企画を立ち上げておいて“お前、手を抜いたな!”となるのはまずいから、一生懸命考えました(笑)。そこで、今、自分が映画を撮るなら、外出自粛明けには絶対やらなそうなことをやろうと思ったんです」

二宮 健

 こうして完成したのは、なんと自身初のクレイアニメーション。『HOUSE GUYS』と題した全3話の物語は、ポップで個性的な4体のキャラクターたちが、リモートでタイムリーなテーマを話し合う。

「人間が言ったら少し生々しいなと思うことも、粘土が言う分には聞けちゃうというのが良かったですね。Amazonでクレイアニメ用の粘土を取り寄せて、ずっと家にこもって作っていました。3週間くらいしか制作期間がなかったんですけど、リモートという設定にすれば、一つの画面に一体のキャラクターで済むので、だいたい1話につき2日くらいで撮影しました。とはいえ、はじめてだらけで大変な作業ではあったので、とても濃密な時間でした(笑)」

 本作には、二宮監督による2019年の映画『チワワちゃん』に出演した門脇麦や篠原悠伸らも参加し、キャラクターに声をあてている

「みんなにシナリオを送って、それぞれ自宅で録ってもらったものを繋ぎました。全員が家での作業だったので、誰も会っていないんです」

 リモート通話などで会わないことが当たり前になってきたからこそ、会うことの意味や理由が必要になってくる。

「基本会わなくて済むなら、会わないようにしようという流れの中で、じゃあ、わざわざ会う理由ってなんだろうとみんな考えるわけじゃないですか。これを機に、会うことの意義が深まって、みんなの時間の使い方がもっと有意義なものになればいいですよね。ネガティブな状況の中で、少しでもポジティブに捉えていくしかないんだったら、そういうところには目を向けられると思うんです」

二宮 健

 延期になっていた二宮監督の最新作『とんかつDJアゲ太郎』も近日中には公開を予定。動き出した日常の中で、何を作っていくのか。それは、全てのクリエイターにとっての課題でもある。

「映画監督にとっての外出自粛期間って、今一度、自分の撮りたいものはなんなんだろうと自問自答した時期だったと思うんです。今回のことが自分にどんな影響を与えたのかは、これから気づいていくことだと思うんですけど、ここからみんなが作っていくものに関してはちょっと違った角度のものになっていくはず。きっと毛色の変わるものになると思うし、それが今までより面白いと思ってもらえるようにしたいですね」

二宮 健 にのみやけん 映画監督。1991年生まれ、大阪府出身。高校時代の自主制作映画『試験管ベイビー』が第3回高校生映画コンクール映画甲子園2008にて監督賞を受賞。大阪芸術大学の卒業制作『SLUM-POLIS』が国内外の映画祭で話題になる。代表作に『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』『チワワちゃん』『疑惑とダンス』など。映画上映企画『SHINPA』主宰。最新作『とんかつDJアゲ太郎』が近日公開予定。

撮影/野呂美帆