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白石和彌

撮影/野呂美帆

 2019年は3作品が公開。2020年はGW明けに新作の撮影が控えていたが、新型コロナウイルスの影響で延期が決定。これまで忙しく動いてきた白石監督にとって、外出自粛期間は思わぬ休暇となった。

「家でひたすら料理をしていました。最近は近所のアジアンマーケットで素材を買ってきて、タイ料理を作っています。パクチーをたくさん使うやつを(笑)。あとは、娘のお弁当も作りましたし、動画配信サービスで映画やドラマを観たりもしていましたね」

 一方、ミニシアター押しかけトーク隊“勝手にしゃべりやがれ!”として、映画館を応援するためにリモートでトークショーも行っている。

「『止められるか、俺たちを』を一緒に作った井上淳一さんの発案で、どんな映画でもしゃべりますよ、と。こういうのは長期的にいろいろなアイデアでやっていくことが重要なので、参加させていただきました」

白石和彌

 世の不条理を描いてきた白石監督にとって、コロナ禍はまさに不条理そのもの。期間中には、ある出来事が起きていた。

「まだ形にはなっていないですが、今、ダルク(薬物依存症回復施設)やグレイス・ロード(ギャンブル依存症回復施設)などで依存症についての取材を進めていまして、最近、取材対象者の1人が再発してしまったんですね。何年もストップしていたものが、今回の社会不安によって始まってしまった。それこそ、家族や話し相手がいたりすれば、再発しなかったかもしれないけど、一方で、在宅率の増加によりDVが増えたという報道もあったじゃないですか。いろいろな問題があるし、今の日本は弱者に目が向いていないので、それは本当にどうしたらいいんだろうと。これからの大きな課題でもありますよね」

 他にも、期間中は多くのネガティブなニュースや話題が飛び交った。

「いつの時代にも不条理は溢れているんですけど、その中で必死にもがいている人も常にいる。今、Twitterを見ていると不条理なことしか入ってこない。これは僕がそういう人ばかりをフォローしているからでもあるんですけど(笑)。SNSって本当に厄介で、アラブの春や香港の民主化デモもそうですけど、社会を変えるような強い力がある反面、まだ人間が使いこなせていないという部分も大きいと思うんです」

 今、気になっているのは、民衆の力。

「香港やアメリカもそうですけど、民衆が動くタイミングというものには非常に興味があります。実はそういう映画を作りたいとずっと思っていて。日本も本当の自由のためには民衆が戦わなきゃダメだし、僕はどこかで火が点くんじゃないかなとは思っているんですけど」

白石和彌

 外出自粛期間中は映画界も大きな打撃を受けた。

「映画って、衣食住に関係ないと良く言われるんですよね。そんなの二の次じゃないかって。でも、憲法第二十五条では“すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する”と書かれている。健康はつまり生存権だし、その生存権と文化的な生活が同じ条文の中に入っているということは、文化は生きるために必要不可欠なものだと、ちゃんと今の憲法も謳っているわけですよね。自粛期間中は映画や音楽などの文化に飢えていた人もいただろうし、“映画バカ”たちにとって、映画の重要性に気づけた期間でもあったと思うんです。僕自身もすごく映画について考えたし、それだけが唯一良かったことですね。何が言いたいかというと、映画は絶対に死なないってことです」

白石和彌 しらいしかずや 映画監督。1974年生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。その他の主な監督作品に『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』などがある。現在、秋頃のクランクインに向けて『孤狼の血』の続編を準備中。

撮影/野呂美帆