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三島有紀子

撮影/野呂美帆

 コロナ禍によって休館に追い込まれた劇場を支援するため、「#Save The Cinema」や「ミニシアター・エイド基金」などに賛同しながら、三島監督は個人でも町の映画館にマスクを寄付する活動を行っていた。

「マスクは劇場の皆様にも絶対に必要なものですし、これまで観に行かせていただいていたり、作品を上映していただいたり、舞台挨拶に呼んでくださったりした町の小さな映画館を少しでも応援したいという気持ちが大きかったです。もちろんたいした数ではないのですが…。長年交流している映画館の館長さんとは、“また再会しましょう!”とメールのやり取りをしたり、自分なりのやり方で交流を続けていました」

三島有紀子

 三重県伊勢の映画館「進富座」の館長を務める水野さんからのメールには、とても印象深いものがあったという。

「休館する最後の上映日に、いつも観に来てくれるお客さまが“今度来る時まで預かっておいて”と映画を観るときにかける眼鏡を置いていかれたそうなんですね。メールの最後は“僕は、やはり映画と映画館の力を信じたいのです”と結ばれていました。私も同じ気持ちで、進富座さんが営業を再開したときに、“私もやはり、映画と映画館の力を信じたいです”という手紙を、マスクやお祝いのお花と一緒に送りました」

 町の映画館への支援以外にも取り組んでいたことがある。外出自粛期間中、三島監督はワークショップを受けに来てくれた約30人の俳優に依頼し、日常を撮影してもらったという。

「みんながこの時に何を感じていたのかを記録して、残そうと思ったんです。ただ、みんな役者なので、どんな感情が生まれているのかを聞いて、それが生まれる設定だけ決め、撮ってもらうことにしました。例えば、ある俳優が、好きな人とリモートで会話していくうちに本当に話したい人が見えて来た……と言うので、好きな相手役を決めてその人とリモートで話している時にどんなことが起こるのかをやってもらったり。元気のなかったパートナーがコロナ渦でむしろ生き生きしているのを嬉しそうに語る役者さんの姿を見て、パートナーについてのビデオ日記みたいなものをつけてもらったり。共通のシチュエーションは、朝4時に女の人の泣き声がどこかから聞こえてくる。声は事前に録音してそれを実際に聞いてもらい、その時の感情の動きを記録してもらったんです」

三島有紀子

 このシチュエーションは、三島監督が4月の早朝に体験したある出来事が元になっている。

「前にもお話しましたけど、明け方、泣きじゃくる女の人の声が遠くから聞こえてきたんですね。ベランダに出てずっと聞いていました。あの経験があったからこそ、今回の試みをやってみようと思ったんです。彼女の泣き声は、私の知り合いの叫びかもしれないし、友達の叫びかもしれない。もしかしたら、私自身のものかもしれない。人類みんなの泣き声にも感じました。多くの感情が入り混じったあの泣き声に寄り添いたかったし、人間の感情に寄り添うために映画を作っていることに改めて気づいた感覚ですかね。今回のコロナ禍も含め、ネガティブなことも多いですが、目を逸らさず、全て受け止めながら、今後もあの泣き声(感情)に寄り添うように映画を作り続けていくのだと思います」

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。1969年生まれ、大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞を受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『ビブリア古書堂の事件手帖』などがある。最新作『Red』(出演・夏帆/妻夫木聡)が全国の町の映画館で上映中。10月2日にはBlu-ray&DVDがリリースされる。

撮影/野呂美帆